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- 26章 -
- 貴方に送る祝福と -
しおりを挟む「上手くいくと良いですね。応援してます」
「……さんきゅ」
どこか寂しげに笑いトイレへと消えて行く班乃の後ろ姿を見送り今度こそリビングへと足を向けるが、台所から洗い物をする音が聞こえそちらへと向かった。
『ちょ、水道代ww』
そこで目にした光景に思わずそんな感想が頭に浮かんだ。流れる水をそのままに食器とスポンジを持つ安積の手は完全に止まっており、トンと背中を叩くとのろのろと此方を振り返った。
「どうした?大丈夫か?」
「……あぁ、大丈夫。ちょっとぼっとしてた」
『そんなん見れば分かる…』
「変わるよ、洗い物」
「んー…いや、大丈夫。あとちょっとだし」
「そう」
なにかに悩んでいるのか単純に疲れているだけなのかは分からないけれど、取りあえず労いも込めて頭を引き寄せわしゃわしゃと撫でるとふんわり浮かんだ笑顔に少しだけ安心する。
「なぁ安積。明日のことだけどー」
「お手洗いあ…りがとうございました。そろそろ僕はお暇しますね」
「えっ、帰っちゃうのっ!?」
「えぇ、この後少し予定があるもので」
「…そっかぁー、残念。まだ雪降ってるみたいだから気をつけてねっ!」
タイミング悪く戻ってきた班乃がいちゃつく市ノ瀬達を目にし空気を読んでか帰宅を口にする。別に見られて不味い事をしていた訳ではないけれど、経緯もしらず突然目にしたら戸惑うのも無理はない。
気まずそうに一瞬言葉が途切れた班乃へ口パクで 謝罪した市ノ瀬だったが、スッと目が細められたかと思うとふんだんに呆れの含んだ視線が返され曖昧に笑って誤魔化した。
先程の疲労感を全く感じさせない笑顔を浮かべた安積が班乃へと荷物を手渡すと、見送りもかね3人揃って玄関へと向かう。
「2人とも、今日は本当にありがとうございました。とても素敵な誕生日でした」
「喜んで貰えて良かったっ!! 次会うはお正月かな? また連絡するっ!!」
「えぇ、待ってますね」
「では、2人とも、良いお年を」
「…おう。頑張るよ」
「頑張る?」
「「良いお年を」」
「良い、お年を?」
言葉に含みを持たせた班乃と、その含みを確りと受け取った市ノ瀬のぴったりと重ねられた言葉に戸惑う安積だったが、直ぐ様同く挨拶を返し軽く手を上げ扉の向こうへと笑顔で消えていく班乃を見送った。
「ねぇ睦月。頑張るって?」
「別に深い意味なんてねぇよ。まんまの意味だって。無病息災で良い1年を迎えられるように頑張るって、ただそれだけだよ」
「そう…?」
2人の間で交わされた言葉と視線に込められた含みをしっかりと感じとった安積だったが、意味はないと言われたら単純な挨拶だったのかもしれないという気もする。
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