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- 26章 -
- 貴方に送る祝福と -
しおりを挟むうつむき歩きながらそんな事を考えていると不意に足音が減り、なにかあったのかと顔を上げると足を止めた市ノ瀬が顔半分だけ振り返り珍しく申し訳なさそうな表情を浮かべていた。
「……悪い」
「……なんです?急に」
「や、ここまで眠そうにしてるの初めて見たなと…」
「あぁ…確かに少し寝不足ですけど、睦月だけのせいではないので。気にしないで下さい」
「そ?」
ようやく寝付いた所で起こされたというのも勿論あるのだけれど、それだけじゃない。
今日という日をうまく乗り切れるだろうかという不安、彼女と共に過ごした幸せな日々、彼女の最後の微笑み、それとー…
どれだけ目を反らそうとも冷徹な程に周囲を飲み込む冷たさで自身を主張してくる雪がそんな事などを芋蔓式に浮かばせては、頭の中でごちゃ混ぜになり世話しなく動く思考が眠りにつくのを邪魔をした。
多分市ノ瀬に起こされなくても寝不足だっただろうことは容易に想像できる。
むしろ多少元気がなくても市ノ瀬に無理矢理起こされたという事が免罪符になってくれるだろうし、ある意味ありがたくもあった。
「手でも繋いででやろうか?」
「……はぁ?」
「歩きながら寝られても困るなぁと」
「そんな器用なこと出来ません…というかそんな小馬鹿にしたようなニヤケ顔で言われても殺意しか沸きません」
「親切心をなんだとww」
「むしろ今までの事を考えると安心して任せられませんね」
「あー…」
「昨日みたいなことして安積に怪我させないで下さいよ」
「そこは努力はする。全力で」
雪が降ってまだ3日。すでに2回ずっこけている市ノ瀬に身を任せられる程の安心感があるわけがない。
昨日のような巻き込まれ事故で雪まみれにされるのはごめん被るし、安積に怪我でもさせたとなってはたまったもんじゃない。
『ま、転けたとしても言葉どーりに僕にした以上の反射神経で守るんでしょうけど』
コーヒーの苦味で眠気を誤魔化しつつ疲労感を溜め息と共に吐き出すと、コーヒーの香りが鼻を抜け真っ白い息が眼前にふわっと広がった。この感じは嫌いではない。ないのだけど…
見上げた空には自宅を出た時には止んでいた雪が再びチラホラと降り始めている。そんな降ったり止んだりの忙しさに憂鬱さは増していくばかりだ。
傘を取りだそうと鞄に手を突っ込むが後2~3分の距離だしと手を傘代わりにし歩調を早め、コートについた雪を払うとマンションへと足を踏み入れた市ノ瀬に続く。
「着いた」
「?」
そんな事言われなくても分かる、と顔をあげるとどうやら安積へと電話をかけているようだった。普段なら直ぐにチャイムを鳴らす所なのにそれをしないのは、中で何かしらの準備をしているからなのだろう。
「はぁ?くっそ寒いのに?……あー、そうだっけ?…悪かったって。もうドア前に居るから」
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