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慰弦

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- 25章 -

- 不香の花 -

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「まだ雪止まないって。バスまだ動いてるから、今のうちに帰りな」

「はいっ!色々お手数おかけしてすいません!ありがとうございました!!」

「………」

「むつ。寝不足の理由は聞いても?」

「期待してるような事はなにもねぇよ…」


元気良く挨拶する安積ごしに、楽しそうな顔をしながら問う姉を綺麗にスルーして溜め息をつく。

案の定殆ど眠れず空が白み始めた頃に漸く寝付いたと思ったら今度は安積が目を覚ました。微かな音で部屋から出ていったのを感じ取りはしたが目蓋が開けられず…

暫くすると再びベッドへ潜り込んで来た。恐らくトイレにでも行っていたのだろう。

そしてー

市ノ瀬が寝ているのを良い事に我が物顔でその腕を抱き寄せ、抱き枕の様にして再び眠り始めるものだから完全に目が冴えてしまった。

もう、寝不足も寝不足だ……


「あっ、一応ご両親にもお礼をー」

「良いよ別に」

「でも」

「濡れ鼠君が来た時には寝てた。起きてくる前に仕事行ったから」

「呼び方っ!」

「……安積君」

「そもお前が居た事すら知らねぇし。気にすんな」

「そっ、そっか…」


成り行きとは言え家主に許可もなく泊まらせてもらった事に少しばかり罪悪感を感じる。だからといって帰ってくるまで待っていることも出来ないし、ここは諦めるしかなさそうだ。


「バス停まで送る」

「えっ、いやっ……や、ありがとう」


反射的に断りかけた言葉を即座に飲み込んで、ありがたく好意を受け取る事にした。事にした、というより、もう少し一緒に居たかったと言うのが正解なのだけれど…

上着を取りに行く市ノ瀬を見送ると、改めて彼の姉へと向き直る。彼女は知らないかもしれないけれど、ずっとお礼を言いたい事があった。


「あの」

「ん?」

「遊園地のチケット、ありがとうございました」

「…チケット?」

「はい。その…ちょっと色々あって落ち込んでた時に睦月…君が連れてってくれて、すっごく良い思い出になったので」

「ほー?」

「それでその…チケットを譲ってくれたお姉さんにもいつかちゃんとお礼を言いたいって思っていて」

「なるほど」

「……あの?」

「へぇー、ふーん…w」

「??」


なんだか始めて聞く話を聞いているような手応えのない反応に、なにか変な事を言ってしまったのではないかと不安になる。


「悪い、待たせ……なんだよ?」

「まどろっこしい事してるなと」

「は?」


支度を済ませ戻ってきた市ノ瀬が見たものは、呆れ半分ニヤケ半分と言った、なんとも不安にさせるような顔をした姉の姿だった。一体自分のいない間になんの話をして居たのか…問うよりも先に答えを知ることになる。
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