715 / 1,055
- 25章 -
- 不香の花 -
しおりを挟む「まだ雪止まないって。バスまだ動いてるから、今のうちに帰りな」
「はいっ!色々お手数おかけしてすいません!ありがとうございました!!」
「………」
「むつ。寝不足の理由は聞いても?」
「期待してるような事はなにもねぇよ…」
元気良く挨拶する安積ごしに、楽しそうな顔をしながら問う姉を綺麗にスルーして溜め息をつく。
案の定殆ど眠れず空が白み始めた頃に漸く寝付いたと思ったら今度は安積が目を覚ました。微かな音で部屋から出ていったのを感じ取りはしたが目蓋が開けられず…
暫くすると再びベッドへ潜り込んで来た。恐らくトイレにでも行っていたのだろう。
そしてー
市ノ瀬が寝ているのを良い事に我が物顔でその腕を抱き寄せ、抱き枕の様にして再び眠り始めるものだから完全に目が冴えてしまった。
もう、寝不足も寝不足だ……
「あっ、一応ご両親にもお礼をー」
「良いよ別に」
「でも」
「濡れ鼠君が来た時には寝てた。起きてくる前に仕事行ったから」
「呼び方っ!」
「……安積君」
「そもお前が居た事すら知らねぇし。気にすんな」
「そっ、そっか…」
成り行きとは言え家主に許可もなく泊まらせてもらった事に少しばかり罪悪感を感じる。だからといって帰ってくるまで待っていることも出来ないし、ここは諦めるしかなさそうだ。
「バス停まで送る」
「えっ、いやっ……や、ありがとう」
反射的に断りかけた言葉を即座に飲み込んで、ありがたく好意を受け取る事にした。事にした、というより、もう少し一緒に居たかったと言うのが正解なのだけれど…
上着を取りに行く市ノ瀬を見送ると、改めて彼の姉へと向き直る。彼女は知らないかもしれないけれど、ずっとお礼を言いたい事があった。
「あの」
「ん?」
「遊園地のチケット、ありがとうございました」
「…チケット?」
「はい。その…ちょっと色々あって落ち込んでた時に睦月…君が連れてってくれて、すっごく良い思い出になったので」
「ほー?」
「それでその…チケットを譲ってくれたお姉さんにもいつかちゃんとお礼を言いたいって思っていて」
「なるほど」
「……あの?」
「へぇー、ふーん…w」
「??」
なんだか始めて聞く話を聞いているような手応えのない反応に、なにか変な事を言ってしまったのではないかと不安になる。
「悪い、待たせ……なんだよ?」
「まどろっこしい事してるなと」
「は?」
支度を済ませ戻ってきた市ノ瀬が見たものは、呆れ半分ニヤケ半分と言った、なんとも不安にさせるような顔をした姉の姿だった。一体自分のいない間になんの話をして居たのか…問うよりも先に答えを知ることになる。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる