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- 25章 -
- 不香の花 -
しおりを挟む言葉を発しなくなった市ノ瀬へと腕を回し、ぎゅっと抱き締めた。甘えて良いって言われたんだ。こんな時くらい、そうさせてもらったってバチは当たらないだろう。
「ははっ…すっげぇ音」
「……うるせぇよ」
『睦月でも、こんななる時あるんだ』
触れ合った箇所から伝わる普段よりも早く時を刻む音と振動に穏やかな気持ちになる。
『まだ好きで居てくれてるんだって、安心する』
返事を後回しにしている内にいつの間にかその気持ちが薄れて行ってしまうのではないかと少しばかりの不安があったのも事実だ。
『良かった…まだ、大丈夫で』
「だから、見つけくれてありがとう」
「…別に。偶然だし」
「連れてきてくれて、ありがとう」
「……あぁ」
「おやすみ、睦月」
「……おやすみ」
向かい合いお互いの腕の中で眠るような姿勢のまま就寝の挨拶を交わした。
言うだけ言って満足したようにゼロ距離で再び眠りについた安積に悪態の1つでもついてやりくなる。
自分の気持ちを知った上でのこの行動は最早意地の悪さを感じてしまう。そんなつもりがないのは勿論分かっているのだけれど。
試されている訳でもないのも、分かっているのだけれどっ。
『落ち着け落ち着け、まだだ、今はまだ駄目だっ』
重ねて伝えられる感謝の言葉やしがみつくように回された腕に、力になれたと、必要とされていると、本当に良かったと、嬉しく思うのは本当に本当に本心なのだけれど…
首もとに感じる吐息やふれあう温もりに、どうしても違う感情が僅差で勝ってしまう。
相手にそういう気がない以上は絶対に駄目だ。一方的な感情は全てを壊しかねず、安積に再びあの時のような体験をさせてしまうのは全力で避けたい。
ので
全力で押さえ込む事に集中する。
『寝れるかな、今日……』
清純や純潔と言った清らかな言葉が困った事に似合いすぎて、恋や愛だの、それに伴う欲など皆無そうな相手に翻弄されてる感が否めない。
いつかはいつかはと思うけれど、兎に角今は眼前にある毛髪一本一本数えてでも落ち着かないとと静かに大きく溜め息をつく。
鼻を掠めた香りに落ち着く処か疼く何かと戦いながら、眠れない夜に踏み出した。
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