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- 24章 -
- もう一つのキーホルダー -
しおりを挟む微かだけれど鱗片はある。それは悲しむ事ではなく喜ぶべき事なのかもしれない。あの日以前の弟は確かに弟の中に存在したまま、より良い方向に変わっていってる最中なのだ。
寂しいなんて言うのは、途轍もない努力を重ね、もがき苦しみながらも懸命に前へ進んでいる弟に失礼極まりない。
だから自分も過去に固執するのは止めにして、一緒に前に進んでいこう。
弟の為にも、自分の為にも。
「母達もうすぐ到着するみたいですよ。病室戻りましょう」
「分かった!って、忘れてるよっ!ココアっ!!」
「あぁ、すいません」
足並みを揃えて中庭を後にし病室へと向かいながら、班乃は手にしたココアをぼんやりと眺めていた。
「どうかしたの?」
「あぁ、いえ。珍しいと言われたので…そんなに久しぶりだったかと思って」
どう考えてみても久しぶりな気はまったくしない。確かに一時飲まないようにしてた時期はあったけれど、昔程ではないとしても普通に飲むし昔と変わらず好きな物の1つでもある。
「久しぶりだよ。数年振りに見た気がする」
「それは大袈裟じゃないです?」
「大袈裟じゃないよ」
「そう、ですか?」
『姉が嘘付く必要はなんてないですし、久しぶりと言うのならそうなんでしょうけど…』
自分にとっては久しぶりでもなんでもないペットボトルをまじまじと眺めた。
確かに、言われてみれば自販機で買ったのは久々かもしれない。自宅でも…あまり飲まないかも、しれない。
『…あれ? ならどうして久し振りな気がー』
「あっ…」
「うん?」
あぁ、そうだ。久々な気がしないのは、事実久しぶりじゃないからだ。それはー
「久々な気はまったくしなかったのでどうしてなんだろうって思ったんですけど…分かりました。部活の練習でよく行く友人の自宅に常備されてるんです、ココア。そこでよく頂いてたので」
「あぁ、成る程すっきり!それなら私が知らないわけだわ」
「紅茶とかココアとか、あと焼酎とかも常備されてる率高いですね。友人がココアをよく飲むのでわざわざ紅茶を淹れさせるのも悪い気がして」
「ちょっと待ってっ!!」
「はい?」
スッキリしたのは良いものの、弟の発言には聞き捨てならない言葉も含まれていた。それは、その子が高校生にしては珍しくー
「ねぇ、その子、一人暮らしって言ってたわよね?」
「え? はい、そうですけど」
「今、お酒常備されてるって言わなかった?」
「えぇ。言いましたけどー……あぁ、そういう事」
なんだか当たり前すぎてなんの躊躇もなく言ってしまったけれど、事情も知らずに高校生の一人暮らしの家にお酒があるのは問題だと思うだろう。
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