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- 24章 -
- もう一つのキーホルダー -
しおりを挟む『端から見たら優等生。極めつけに生徒会長なんてやりはじめちゃって…』
生徒会で時々帰宅が遅くなるのが心配ではあったが、それも真面目に取り組んでいるからこそであり…
まったくもって恐ろしいキャラチェンだ。
「ねぇ」
「なんです?」
「1回で良いからさ…」
「はい」
「俺って言ってみてよ」
「……はい?」
その提案に深い意味はなかった。ただ少しだけ、懐かしく思っただけだ。弟の手に、あの日以前によく飲んでいた物が握られていたから…。
突然なにを言い出すんだとでも言いたげな弟の表情に、自分でもそうだと思う。
「いえ、それはちょっと…」
「いけずー」
「いけずって…」
少し悲しいけれど、どうしても言ってほしかったわけでもない。食い下がることはせずお祝いのピーチネクターを一口含んだ。口内に広がる乱暴な程の甘さと独特な喉ごしが、脳内に優しく広がる。
「…貴女達には、申し訳ないとは思ってますよ」
「ん? なにが?」
ペットボトルを握り締めた両手を膝の上に落とし沈んだ声で謝罪をする様子に、何気ない自分の要求が弟にとって触れてほしくない所に触れてしまった事に遅れながら気がついた。
慌てて話を反らそうとするが、そんな間もなく重たい口を開いた弟によって失敗に終わる。
「まぁ、その…僕がこうなってしまったせいで、貴女達には本当にご迷惑をお掛けしたと思ってます。ただー」
「うん?」
「なんかもう、これが普通というか…僕のアイデンティティというか…」
「そんな大仰な w」
「今更なにかを意識してこうしてる訳じゃないんです。だから、もう……とにかく、俺なんて恥ずかしくて言えません」
「…僕なんて恥ずかしくて言えるかよっ!!って言ってたでしょうね、以前なら」
「ちょっと…お願いですから止めてくれません?」
「ごめんごめんっww」
前屈みになり顔を隠すよう両手で握ったペットボトルにおでこを乗せ全力で恥ずかしがる、そんな微笑ましい姿に自分も表情が和らぐのを感じた。
“ なにかを意識しているわけではなく、今の自分が自分だ ”
本人がそう自信を持って言い切れるのあれば、それはそれで良いのかもしれない。
“ 以前のように戻る”
それは弟が立ち直る為に必要な事ではなく、ただ自分がそう願っているだけの事かもしれない。時折見えるあの日以前の弟の鱗片に寂しく感じるのは否めないけれど、どんなに変わってしまっても弟は弟なんだと思える。
昔に囚われていたのは自分の方かもしれない。今が、今を受け入れて、ここから進んでいく時なのかもしれない。
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