Pop Step ☆毎日投稿中☆

慰弦

文字の大きさ
上 下
634 / 1,055
- 24章 -

- もう一つのキーホルダー -

しおりを挟む


『端から見たら優等生。極めつけに生徒会長なんてやりはじめちゃって…』

生徒会で時々帰宅が遅くなるのが心配ではあったが、それも真面目に取り組んでいるからこそであり…

まったくもって恐ろしいキャラチェンだ。


「ねぇ」

「なんです?」

「1回で良いからさ…」

「はい」

「俺って言ってみてよ」

「……はい?」


その提案に深い意味はなかった。ただ少しだけ、懐かしく思っただけだ。弟の手に、あの日以前によく飲んでいた物が握られていたから…。

突然なにを言い出すんだとでも言いたげな弟の表情に、自分でもそうだと思う。


「いえ、それはちょっと…」

「いけずー」

「いけずって…」


少し悲しいけれど、どうしても言ってほしかったわけでもない。食い下がることはせずお祝いのピーチネクターを一口含んだ。口内に広がる乱暴な程の甘さと独特な喉ごしが、脳内に優しく広がる。


「…貴女達には、申し訳ないとは思ってますよ」

「ん? なにが?」


ペットボトルを握り締めた両手を膝の上に落とし沈んだ声で謝罪をする様子に、何気ない自分の要求が弟にとって触れてほしくない所に触れてしまった事に遅れながら気がついた。

慌てて話を反らそうとするが、そんな間もなく重たい口を開いた弟によって失敗に終わる。


「まぁ、その…僕がこうなってしまったせいで、貴女達には本当にご迷惑をお掛けしたと思ってます。ただー」

「うん?」

「なんかもう、これが普通というか…僕のアイデンティティというか…」

「そんな大仰な w」

「今更なにかを意識してこうしてる訳じゃないんです。だから、もう……とにかく、俺なんて恥ずかしくて言えません」

「…僕なんて恥ずかしくて言えるかよっ!!って言ってたでしょうね、以前なら」

「ちょっと…お願いですから止めてくれません?」

「ごめんごめんっww」


前屈みになり顔を隠すよう両手で握ったペットボトルにおでこを乗せ全力で恥ずかしがる、そんな微笑ましい姿に自分も表情が和らぐのを感じた。

“ なにかを意識しているわけではなく、今の自分が自分だ ” 

本人がそう自信を持って言い切れるのあれば、それはそれで良いのかもしれない。

“ 以前のように戻る”

それは弟が立ち直る為に必要な事ではなく、ただ自分がそう願っているだけの事かもしれない。時折見えるあの日以前の弟の鱗片に寂しく感じるのは否めないけれど、どんなに変わってしまっても弟は弟なんだと思える。

昔に囚われていたのは自分の方かもしれない。今が、今を受け入れて、ここから進んでいく時なのかもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

モブ男子ですが、生徒会長の一軍イケメンに捕まったもんで

天災
BL
 モブ男子なのに…

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

処理中です...