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- 23章 -
-真誠-
しおりを挟む市ノ瀬が居なくなってからどれくらいの時間が過ぎただろうか。数少ない外灯が心許なく辺りを照らし出している。
市ノ瀬が帰ってから班乃は動く気力もなく公園に座り続けていた。どうせ今は帰っても誰も居ないし歩道される時間帯までには家に帰れば良い。
そう思うようになっただけ進歩だ。と、思う。
地面に目線を落としただ1点を見つめぼんやりとしていると、昔良く嗅いだことのあるような香りが鼻孔をついた。
女性物の香水の匂いだ。香水の名前は分からないけれど、それはあまり好きな香りではない。
昔の過ちを思い出すその匂いは気持を余計に落ち込ませるには十分だった。
その匂いを振り撒いてる人物は何故か自分の側まで歩み寄ってくると隣のブランコに腰を降ろした。
『誰だよ。こんな時に…』
臭い
臭い
臭い
「……臭い」
忌々しげな思いに耐えきれず小さく口から発せられた。誰だかも分からない不快な匂いを振り撒く人物に、優しくする余裕なんてー……
「えー…それは、ちょっと傷つくなぁー」
「っ!?」
ない。そう思うと同時にその香りとは無縁だろう自分のよく知った人物の声が急に耳に届き、驚きと共に顔をあげた。
「え……えっ? 綾雪!?」
「いやー…やっぱ匂い移ってるよねぇ~」
驚き焦る班乃を余所に、植野は自分の服を掴んで匂いを嗅ぎ気だるそうな声を上げた。
「忘れ物届けに母さんの職場まで行ってきたんだけど…まぁ、ね、香りの強いお姉さま方がね…ほんと、勢い凄すぎて……怖い」
両手で肩を抱き自分を抱き締めるように身を縮めるその顔には恐怖が滲んでいた。なんだかよく分からないけれど、匂いが移る程お姉さま方にもみくちゃにされたと言うことだろうか。
愛想が良い植野が可愛がられるだろう事は想像するに容易い。
『可哀相に…』
「えっと、すいません。綾雪だとは思わず…」
「いや、気にしないでよ。臭いのは…事実だし」
と言いつつ気にはしているようで、上着をバタつかせて出来る限り匂いを飛ばそうとする。
香りがたつので止めて欲しい……が、飛ばしたい気持ちも分かるので、そこはなんとか耐えることにした。
「で、明はこんな時間になにしてんの?」
「僕は……別に」
「そう? あっ!そうそう! これ見てこれ!見てみて欲しいっ!」
「なんです? 急に」
携帯を取り出しなにかを検索しているようだ。またこの間のようにとんでもない所に連れてかれるのは遠慮したい所ではあるが、時間が時間なのでそれはないだろう。少し身構えつつ植野の動向を待つ。
「さっきね、ちょっとしたゲームしてたのよ!絶対笑っちゃいけないゲーム!」
「なんですか、それ」
「まぁまぁ、良いから良いから!…あっ、あったあったっ!!良い?絶対笑ったら駄目だから!!」
「はぁ…まぁ、はい」
そうして差し出された携帯から流れ出した動画は、それはそれは可愛らしい子猫が、それはそれは可愛らしい動作をしているもので、その愛らしさに頬が緩むのを期待しているのだと思うけれどー…
「猫……」
「えぇっ!? ピクリとも笑わないじゃん!?うっそぉ!?これ見せた人全滅だったのにっ!?」
普段だったら少し自信はないくらいには愛らしい。けれど、今は、なんというか…
「猫……」
タイミングが悪い。
「泥棒…猫……」
「えっ!?どっ、ドロボー猫!?どーゆー事っ!?」
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