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- 22章 -
- 哀 -
しおりを挟む市ノ瀬が帰宅し静まり返ったリビングでは、安積が1人ソファーの上で丸まっていた。これは決して落ち込んでいるからではない。沸き上がる羞恥心で落ち着かなかったからだ。
あの後18時頃まで特になにするでもなく過ごし、そろそろ帰ると言う時だ。
玄関で靴を履く市ノ瀬の服を思わず掴み不思議そうに振り返るその顔を暫し見つめた。
帰ってほしくない。1人になりたくない。でもそんなこと言えるはずもなくて、代わりに出た言葉はーー
「あっ、えっと、明日学校っ、来てくれる…よな?」
もちろん、学校では班乃と顔を会わせることになる。どんな顔で、どんな態度で、どういうふうに話をすれば良いのか、まだ分からないけれど出来るだけ普段通りにしていきたい。
周りに心配かけさせないように。
周りに、悟られないように。
班乃の為だけじゃない。これは、自分の為にも。
それは難しいことだと思う。平常心でやっていけるとはとても思えなくて…でも、市ノ瀬が居ればなんとかなるような気がしてー
あまりにも側に居てほしいという気持ちが強すぎて、考えるよりも先にそんな言葉を吐いてしまった。
沈黙が痛い…
『もー、馬鹿にするでもなんでも良いからなにか言ってくれっ』
あまりにも情けなくて猛烈な恥ずかしさから顔が見れない。下げた視線のその先で市ノ瀬の腕が動く。それはそのまま自分の頭上までゆっくりと登り、動きが止まったかと思うとそのまま下がり安積の肩を2回軽く叩いた。
「当たり前だろ?じゃ、また明日」
「うっ、うん、また明日…」
そんな短い挨拶を交わし、玄関を出ていく市ノ瀬をそのまま見送ったのだった。
何が恥ずかしかったのかと言えば、だ。
自分の発言もそうなのだけれどー
頭上に上がった市ノ瀬の手に、無意識に頭を下げたことだ。
まるで撫でて欲しいとでも言っているように。
その手が肩に降りた瞬間に、自分の行動に気が付いて今に至る。
『無理無理、なにしてんの俺っ!?なに期待してんの!?ありえねぇーっ!!いや、もーねぇわマジでっっ!!ガキすぎっ!!あれもこれも全部睦月のせいだっ!!あいつが今日異様に優しかったからっ…ペース乱されただけだっ!!』
なんかもう、今日は情けないところばかり見せてしまった気がする。
いや、“気” じゃなくて、見せてしまった。
『最悪っ!!』
もう今日はやることないし、さっさと準備して寝てしまおう。そんでこの事は忘れよう。向き合わないといけない問題はなにも解決していない。
ぐっすり寝て、しっかり頭を働かせないと。
大丈夫、きっと上手くやれる。
決意を新たに作った握りこぶしを……緩めた。
……でも、なにかを忘れている気がする。
『なんだろう……なんだっけ??』
暫く考えるが、全く思い浮かばない。
まぁ、思い出せないことはしょうがない。大事なことならきっとそのうち思い出すはずだ。
探すのを止めた時、見つかることもよくある話で
って、誰かが言ってたし。きっとそんな感じ。
余計なことを考えて落ち込まないように適当に動画を流しながらベッドに潜り込むと、思惑通りいつの間にか眠りについていた。
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