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- 22章 -
- 哀 -
しおりを挟む今までこんなことなかったのに。
壁に両手をつき冷ためのお湯を浴びながら、使いたての風呂場に広がる煩悩を追い払う。
安積への想いを自覚したあの日からその想いは日に日に強まるばかりで止まる様子はない。それでもまだ伝えるべきではないとうまく隠せてきたし、安積の後に風呂場を使うことだって初めてでもなければ特別なにかを意識したことだってなかった。
もしかしたら昨日の一件で、普段は微塵も感じさせない友達のそういう1面を目の当たりにして当てられたのかもしれない。
それが今まで以上のものを強く意識するようになってしまった要因になったのは間違いないだろう。
それでも今は、特に今は、その鱗片たりとも知られる分けにはいかない。
顔を伝い落ちるお湯が鬱陶しいが、あえてそのまま浴び続け意識を拡散させる。
『…泣いてたな…昨日』
インターフォンで応答もせず飛び出してきた時、咄嗟に隠してはいたが確かに泣いていた。
安積は元々他人を物凄く大切にするタイプだ。けれど班乃に対してはその域を越えていた気がする。
班乃の特別になりたいと相談してきたくらいだ。他の人が呼び方を変えただけで嫉妬するくらいだ。そんなの、班乃が勘違いしてもしょうがないと思うし、正直、ほんの少しだけ、安積は班乃に気があるのだと思っていた。
勘違いしたのかは分からないけれど…
だから、それが意外でもあった。
安積の班乃を想う気持ちは純粋に友達としてのもので、もしその言葉に当てはまらないなにかがあったのだとしても、それは恋愛とはまた別のものだったということだろうか。
もし昨日の班乃の行動が
安積へ寄せた好意からだったとして…
最低だと思う。
最低だと思うけど…
結ばれる事のなかった友人の想いに安堵してる。
自分に残された可能性が0ではなくて喜んでる。
そんな気持ちがあるのは嘘じゃなくて。
最低だ。
「俺も、明も」
そのくせ安積を傷つけて悲しませて泣かせた班乃に、物凄く腹が立っている。ぶん殴ってやりたい程に。
それでも、班乃だって大事な友達である事には変わりなくて…腹は立つけど嫌いにはなれそうもなくて。
友達と言うのは、やっぱり面倒な物だ。
『……というか』
昨日は安積の姿に頭に血が昇ってしまい安積の事しか考えられてなかったのだけれど、班乃は大丈夫なのだろうか?
兄妹仲はとても良いと聞いているし、普通の精神状態で居るのは難しいだろう。班乃にも支えが必要だったのかもしれない。
でも、その支えを壊したのは彼自身だ。
じゃぁ、誰が班乃を支えればいい?
もし自分がそうなったとして、そんな大役、冷静にこなすことが出来るだろうか?
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