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- 22章 -
- 哀 -
しおりを挟むまったく……
面倒くさげな表情を隠すことなく全面に醸し出しながらジャケットとワイシャツを脱ぐと、放り出す前に差し出された安積の手にそれを渡し几帳面にハンガーにかける姿を横目に布団に潜り込む。
『安積の匂い……』
当たり前か。
なんか、なんだか熟睡出来そうだ。
目を閉じるとズッシリとした重みが体を襲い、自覚していたよりも疲れていたのだと改めて感じさせた。疲労をため息と共に吐き出し吸い込んだ空気から感じる香りに不覚にも自宅より休めそうだと思っていると、目蓋の裏で電気が消されるのを感じる。
そしてー
「……どこ行くんだよ?」
「えっ?」
そのまま寝室を出ていこうとする安積の気配に声をかけると、寝室のドアから半歩出た状態で振り返り、悩んでいるかのように寝室とリビングとに視線を行き来させる。
「いや、あっちで寝ようかなって…布団出すにも煩くするし、2回も寝るの邪魔したし」
『自覚あったのかよ……』
自分に配慮しての発言なのは分かる。その気持ちを嬉しく思わないでもないが、それと同時に苛立ちも感じる。邪魔されたと言うのも事実だけれど、この苛立は決して邪魔されたからではない。
「………ざけんなよ」
「Σ えっ!?なんで怒られてんの俺っ!?」
「ソファーで寝てて良いなら起こすんじゃねぇよ」
「そっ、それは…だって、リビングが…冷えてたから」
「自分は良いって?そういう自己犠牲うざ」
「うざって…そんな言い方っ」
「あーもう、うるせぇな。良いから早く来いよ」
「………は?」
「狭いのくらいは我慢してやる。だからベッドに」
「いやいやいやっ!? おまっ、はぁ?なに言ってっ…」
ため息と共に目を閉じ片手で毛布を持ち上げると安積が戸惑いの声をあげる。今のタイミングでのこの提案に戸惑うのは無理ないが、言われなくともなにかする気なんて更々ないしするほど馬鹿じゃない。
「なに意識してんだあほ。乙女かお前は。変な想像してんじゃねぇよ」
「おとっ…!べっ、別にそんなんしてねぇしっ!お前になにが分か」
「分かる分けねぇだろ。なにも言わねぇんだから」
「…………」
「ま、どうでも良いけど。とにかくさっさと来いよ腕つる寒い。とっとと寝かせろ、疲れてんだよ2度も邪魔しやがって。そのくせまだグダグダ言って邪魔するのかよ良い性格だな」
「っ、いっ、行けば良いんだろ行けばっ!!」
あえて畳み掛け挑発するように言うと、案の定苛立つのが空気で伝わってくる。
でも、それで良い。
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