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- 22章 -
- 哀 -
しおりを挟む色々と聞きたいところだが、項垂れ疲れきった様子にそれは憚られた。とりあえず薄着のまま冷える玄関で座り込んでいるのが良くないのは確かであるし、落ち着いたのならとりあえずはリビングに移動した方が良いだろう。
動けるか?とかけた声に小さく頷いたのを確認しその手を取り立ち上がらせると、その手から伝わるずっしりとした重みにあまり足に力が入っていないのが垣間見えた。
うがい、という短い言葉に洗面所へ寄ってから、ふらつく安積を支えるようにしてソファーへと座らせると、今にも完全に瞑ってしまいそうな程目が伏せられている。
少し迷った末、同じように隣に腰かけた。拒否されなかった事に安堵するが、一切こちらを見ようともしない様子に対応に悩む。
こういうのは苦手だ。
普段ならズバズバと言葉を投げ掛けるところだが、安積には出来ない。
こんなにも、誰かの気持ちに配慮したいと思ったことがない。
こんなにも、大切にしたいと、心底思ってしまったことは、今までに一度たりともなかったからー
下手なことを言って追い討ちをかけるようなことはしたくない。どんな言葉でも良い、安積が話し出せるようになるまで待とうと何をするでもなくお互い無言の時間が過ぎていく中、不意に肩に重みが乗る。
ゆっくりと視線を移すと、そこには安積の頭が乗っかっていた。
「…安積?」
遠慮気味に声をかけるが反応がない。
もう1度名前を呼んでみるがやはり反応はなく、どうやら眠り込んでしまったようだ。
『…まぁ、無理もないか』
今日1日、色々な事があった。
学校から帰ったあとも、恐らく………
その顔は寝ていてさえいてもどこか辛そうに見える。その顔の下、中途半端に開いたままのシャツが、そこからのぞく複数の赤い跡が目に入り静かに手を伸ばした。
再度沸き上がる怒りを抑え、起こさないように、起こさないように、とそろそろとボタンを閉めていく。全て閉め終わっても安積が目を開けることはなかった。
このまま寝かせといてやろう。
力なく置かれた手に、そっと自身の手を被せる。
自宅に連絡を入れiPhonerの画面を消すが、不意に思い立ってβ刺激薬と検索欄に打ち込んだ。
そこに出てきた検索結果に、驚きよりも納得の文字が浮かび上がる。
体育を休む理由も、少し走っただけで心配する班乃の反応も、いつ来てもチリ1つ見つかりそうもない部屋の意味も。
『なる程……どうせ迷惑かけたくねぇとか思ってたんだろうな』
溜飲が下がるとはこのことか。
今度こそiPhonerの画面を消し、手の届く範囲にあったリモコンで電気を消すと同じように目を閉じた。
市ノ瀬にとっても、今日は緊張続きで疲労は大きい1日だった。
目を閉じるとそれ以上考える間も無く、眠りの中へと意識を手放した。
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