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- 20章 -
- 開演 -
しおりを挟む「なんという悲しい運命。このような悲劇、今までも幾度となく、そしてこれからも長く続いてしまうだろう。早く終わらせなくては…私が終わらせる。だがー」
死したマキューシオへ視線を落とし決意に満ちた表情を浮かべたロミオは、腰にさした剣を引き抜きティボルトへと向ける。
「お前は我が親友のティボルトを殺した!お前の命は、私が終わらせる!!」
剣を向け会うロミオとティボルト。2人ともの厳しい表情は演技ではなく本物であり、それは緊張が大きな要因だった。
『…矢吹がやりきったんだ。俺が転けるわけにはいかねぇ。大丈夫、出来るっ』
緊張が高まったその時。
ふと3人で練習をしていた時の事が脳裏に浮かんだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『アン・ドゥ・トロワ、アン・ドゥ、アン、アン』
『……なに言ってんだお前?』
『打ち合いの掛け声!!』
『止めてくださいよ…真剣なシーンなんですから』
『えっ!?俺も真剣だって!?』
『いや、もう本当、本番で思い出し笑いでもしたらどうしてくれるんですかっ』
『Σ そんな笑うこと!?』
『真剣、真剣ねぇ…悪かったな、笑って』
『ちょっ、顔そらしたって分かってるからなっ!肩の震え誤魔化せてないからなっ!?酷くない2人とも!?』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『アン・ドゥ・トロワ、アン・ドゥ、アン、アン、ね……』
班乃の危惧していた通り、頬が緩みそうになり咄嗟に下を向く。肩の震えは……怒りの演技ということにしておいてほしい。
ひとつ長く息を吐き、演技へと意識を戻す。
『でもまぁ、緊張は解れた。そこは感謝しよう』
剣先を軽く触れさせたのを合図に、遂に打ち合いが始まった。
記憶の中の安積のおかげもあり、打ち合いのシーンは無事何事もなく演じきることが出来た。
なんと数えて演じたかは、ご想像にお任せだ。
捕まれば死罪、しかし騒ぎを聞いた両家の人々が集まり逃げることは叶わず、各々が罪の擦り付けあいを叫び続けて居る。
「罪の在処はどこにっ!!」
そんな中現れた領主が一同の視線を一身に集めると、舞台の1番前まで進み出て声高々に叫んだ。
「ロミオがティボルトを討ち!
ティボルトはマキューシオを!!
マキューシオの死は誰の罪か!?」
「ロミオではありません!!マキューシオは彼の親友であり、彼は領主様の意向に則り決闘を止めようとしていました! ロミオに罪があるとすれば、自身の手でティボルトを罰してしまったことのみです!!」
その言葉に、領主がどう判断するのか…固唾をのむ空気の中、杖をロミオに向け言い放つ。
「その罪に対し、ロミオを追放とする!!今すぐ立ち去れ!!」
叫び声の余韻が響く中、全ての照明が落とされる。
舞台袖の光と、蛍光テープで作ったバリを目印に各々が移動を始め、その最中、通りすがりに市ノ瀬の肩を叩きー
「睦月、ナイスファイトっ」
と、安積が手短に呟きながらすれ違った。
これだけで、やって良かった、と思ってしまうのを、なんだか認めたくない。
認めたくないけれど、触れられた所から熱が上がってきてしまう感覚が、認めざる得ない事を物語っていた。
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