Pop Step ☆毎日投稿中☆

慰弦

文字の大きさ
上 下
426 / 1,055
- 18章 -

- 疑惑 -

しおりを挟む


(ここ、どこだ)


「知らない天井だ……」


どこかで聞いたことのある台詞を呟き上半身を起こすと、ぼんやりと周りを見渡し昨日の記憶を辿った。


「…あぁ。安積の家か」


遮光カーテンの隙間から差し込む光を見るに大分日が登ってることが分かる。どうやら鳥が囀ずる時間も過ぎさっているようだ。

隣の部屋からは耳を澄まさなければ聞こえないほどの微かなTVの音と、トーンを押さえた話し声が聞こえてくる。そんな彼等の優しさに胸へじんわりと広がった暖かさをすぐに手放してしまうのは勿体ない気がして、再び布団へと体を横たえ目を閉じた。

『良いもんだな、こういうのも…』

こんな穏やかな朝はいつぶりだろうか?

柄にもない事が頭に浮かぶが悪い気はしない。この穏やかさをもう少し堪能していたい気もするがいつまでも気を使わせたままと言うのも申し訳ない。布団から起き抜けある程度の身なりを整えると寝室を出た。


「あっ、おはよー、睦月っ!」

「おはようございます」

「…はよ。顔洗ってくる」

「いってらっ!あっ、朝飯食う?」

「んー…」


時計を見ると9時半を過ぎていた。今食べたら昼御飯が……とも思ったが、腹の空き具合からして昼間で持ちそうにない。


「食う」

「OKっ!昨日の残りと簡単なものだけど良い?」

「…………」

「…えっ? だめ?」


準備をしようと台所へ向かうが市ノ瀬からの返事がない事に立ち止まり、不安そうな表情で振り返った安積をまじまじと眺める。

『…間違い、ではねぇな』

先ほどの夢の中で手を伸ばした愛しい人。
何もかも捨てて一緒に逃げようとしたあの人。
手を繋ぐ瞬間に見えたその顔はー

なぜか安積だったのだ。

どう思い返してみても、見間違いではない。

しかも、夢の中の舞台設定お構い無しの見慣れた制服姿で。


「えっ?なになに??なにまじまじ見てんだよっ!?なになんかついてるっ!?…なんか怖いんだけどぉ!?」


なぜあそこに居たのが安積だったのか。文化祭のジュリエット役だと言う理由もありそうだけれど…

それ以外の意味は………



「睦月?」

「…出来るか出来ないかって言われたら」

「ぅん?」

「………出来るな」

「はぁ?」

「顔洗ってくる」

「おっ、おぉ、いってら??」


意味が分からず戸惑う安積を放置し洗面台へと向かうと、鏡へと目を向けた。

あそこで安積が出てきた事で胸の中に引っ掛かったのは、“安積が居たこと”ではなく、本当はそれが“嬉しい”と感じてしまった自分自身の感情にあった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の彼氏は義兄に犯され、奪われました。

天災
BL
 私の彼氏は、義兄に奪われました。いや、犯されもしました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

男色医師

虎 正規
BL
ゲイの医者、黒河の毒牙から逃れられるか?

男子学園でエロい運動会!

ミクリ21 (新)
BL
エロい運動会の話。

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

モブ男子ですが、生徒会長の一軍イケメンに捕まったもんで

天災
BL
 モブ男子なのに…

部室強制監獄

裕光
BL
 夜8時に毎日更新します!  高校2年生サッカー部所属の祐介。  先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。  ある日の夜。  剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう  気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた  現れたのは蓮ともう1人。  1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。  そして大野は裕介に向かって言った。  大野「お前も肉便器に改造してやる」  大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…  

処理中です...