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- 18章 -
- 疑惑 -.
しおりを挟む『髪乾かすのにこんな時間かかるか?』
不思議に思い音の鳴る方へ視線をむけると、そこにはソファーの上に体育座りし、しっかりとドライヤーを握ったまま肘を背もたれに乗っけ、完全に目をつぶり、なんなら頭も落ちた安積が鎮座していた。
ドライヤーの風は髪の毛ではなく明後日の方向を向いている。
『おいおい……』
「おーい、安積ー?せいちゃーん??せいくーん??」
返事がない。ただの屍の(ry
『しょうがねぇな』
ここまで爆睡してると起こすのも気が引ける。起こすのは諦めその手からドライヤーを引っこ抜いた。
『クーシー、クーシー、クシッ…』
某ホラーゲームよろしく心のなかで唱えて櫛を探す。因みにゲームで探していたのはどこかの鍵だ。
『…ねぇな。手ぐしで良いか』
起こさないよう注意を払いそっと髪に指を通すがそんな心配は無用のようで起きる様子は微塵もない。こんなにまじまじと安積の髪を見るのは初めてかも知れない。
近くで改めて見てみると………
「ふざけた髪色してんなぁ」
と、思わずそう呟いた。
毛先が黒で他は明るい茶、というか最早金髪だ。
どうやってこのカラーを保っているのか不思議でしかなく、これはかつての撫子の君よりも不思議レベルは上かもしれない。
「お待たせしました。お風呂あいたのでどう……
何してるんですか?」
「や、髪乾かしながら寝落ちしてたから乾かしてやるついでに少々イタズラを」
「なるほど」
なるべく待たせないようにと急ぎ入浴を済せ安積同様濡れ髪のままリビングへと戻ってきた班乃が目にしたのは、気持ち良さそうに目を閉じた安積を前にしドライヤー片手に自信に満ち溢れた表情を浮かべている市ノ瀬の姿だった。
ドライヤーの爆音にも負けず爆睡し続ける安積の髪はとても綺麗にセットされており、いつもあちこち跳ねさせている髪はとても綺麗に整っている。
普段との差に違和感が仕事をしているが、それ以上にその髪型にはどこか既視感があった。
「じゃーん、明とおそろー!どうよ?わりと髪の毛いじるの得意なんだよっ」
「お揃い、って…」
得意気に安積を指し示めすその手の先へもう1度視線を落とす。うつ向きぎみでちゃんと見れはしないが、それは先程感じた既視感に納得する出来映えではある。
「へー…すごい、お上手ですね。本当に僕みたいです。そしてイタズラが微妙に優しい」
「えっ? なんか絶妙に不本意w」
不満をもらしながらも出来映えには余程満足したのか、安積の髪という自身の作品をもう一度眺め、ひと撫でしてからドライヤーを班乃へと手渡した。
「じゃ、風呂行ってくるわー」
「はい、いってらっしゃい」
ひらひらと手を振って脱衣所に消えていく後ろ姿を見送ってから、安積の前にかがみ込んだ。
「お揃い…かぁ」
だからなんだ、と言われればそれまでだけれど、明日にはなくなってしまうものだけれど、やはり好意をもっている相手との“お揃い”はやはり嬉しいものだ。
『グッジョブです。睦月…』
胸に広がる暖かさに自然と笑みがこぼれ、お揃いの柔らかそうな毛先に指先だけで触れると名残惜しそうに指を引っ込めた。
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