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- 18章 -
- 疑惑 -
しおりを挟む「なぁ、明」
「はい?」
それから暫くして。筋トレを続行させたままの市ノ瀬が班乃へ視線を向けることなく唐突に話しかけた。
『器用ですね…』
しかし声をかけてきたものの中々その続きが伝えられることなく、不思議に思い台本から顔をあげるとなにやら真剣な顔をして言い淀んでいる。
「どうかしました?」
「あー…いや、あの、さ。明って」
「はい」
「……」
「?」
「……安積のことどう思ってんの?」
「…はい?」
一向に視線を合わせようとしないまま訊ねられた問に思考が停止する。“どう”とは、どういう“どう”なんだろうか…こんな真剣な顔して聞く“どう”とは。
普通に考えれば友達としてなのだろうが、市ノ瀬の目がそうではないと物語っている気がして心がざわつく。
もしかして安積への想いに気づかれてしまったのだろうか?そうだと決まったわけじゃないけれど、もしそうなのだとしたら…
それはーー
すごく困る
せっかく諦めようとしているのだ。
あまり触れて欲しくない。
それに市ノ瀬へ苦手意識や恐怖すら感じながらも仲良くなりたいと言っていた安積の願いも紆余曲折を経て叶い、今では3人で過ごす時間を楽しそうにしている。
安積との関係や3人での関係、なにより安積の笑顔もを壊すようなことは絶対に避けたい。
…けれど、嘘でも嫌いやなんとも思ってないなんて言いたくはなかった。
「…えっと、もちろん好きですよ?いつも元気で明るくて、一緒に居ると僕も元気になれると言いますか…全力で部活にも向き合ってくれるので張り合いも出て楽しいですし、親友だと思ってます」
「親友…」
「えぇ」
「…そっか。悪いな、急に変なこと聞いて」
「いえ、かまいませんよ。あぁ、もちろん貴方の事も友達と思ってますからね」
「そこは親友って言おうや」
「すいません、訂正しますw」
どことなくホッとしたような声色で冗談を飛ばした市ノ瀬は、何事もなかったかのように再び筋トレへと戻っていく。そしてホッとしたのはもちろん市ノ瀬だけではない。
市ノ瀬の反応を見るにうまく気持ちは隠し通せたようで、班乃も静かに胸を撫で下ろす。
安積にとって自分はただの友達なのだ。彼の為に何が最善かを考えたら、このまま市ノ瀬や鈴橋、植野と共に友達として過ごすことが1番良いのだから。それが安積の望みでもあるだろう。ここで知られて関係が壊れてしまうことは避けたい。
市ノ瀬が何かに感づいたのかそうでないのかは分からないが、とりあえずは誤魔化せたようで良かった。
しかしそう何度もうまく行くとは限らない。誤魔化せたと気が抜けた今だからこそボロが出てしまいそうな気がして、なるべく会話を交わさぬように何食わぬ顔で台本へと意識を戻した。
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