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- 18章 -

- 疑惑 -

安積がロミオ役を勝ち取るためには、他部員からのロミオの票がほかの誰よりも多く入っていなければならない。他にも条件があるが今は割愛。


「無駄なあがきだな…」


もう１度感慨深げに呟き自身の希望用紙を頭上に掲げ背もたれにもたれかかると、班乃へと視線だけを向けた。


「明はなに役希望すんだ？」

「あぁ…僕は希望は出さないんですよ」

「そうなのか？なんで？」

「まぁ、安積と同じ感じですね」

「どういうこと？」

「色々な役をやってみたくて希望を出してみるのですが、他部員の票で違う配役に決ってしまうことが殆どで…しかも同じ様な役ばかり…もう諦めました」

「…他人からのイメージって強力だな」

「睦月は希望、なににするんです？」

「俺かぁ…俺は…何にしようかなぁ」


大失態を犯し月影の正体を知る切っ掛けとなったあの舞台から何度か小さい舞台を経験したし、裏方からキャストへの希望も通った。しかし初の大舞台で主役を狙っても良いのだろうかという気持ちもある。

そして…

主役、ロミオを希望した場合、もし選ばれれば相手は安積になるわけで…なんだか昨日の一件から変に意識をしてしまってやりづらい気もする。


「どうせなら主役狙ってみたらどうです？」

「えっ？ …ジュリエット？」

「いや、ロミオ」


なんだか後押しされるような班乃の言葉に若干おちゃらけながらそう答えると、希望用紙へと今一度視線を落とす。


「ロミオねぇ…たぶん、希望出しても明の他部員票には勝てない気がするけど…」

「それは、どうでしょう…確かに固定観念は結構強大ですけど…ロミオ、ねぇ…うーん…」


聞く人が聞くと嫌みになりそうではあるが、班乃的には同じような役しか出来ない事が不服ではあった。正統派な役柄ではなく、たまには思い切り意地悪な役で暴れてみたいと思うのは致し方ないだろう。


「…僕も駄目元で希望出してみます」

「おっ、良いじゃん。 なににすんの？」

「そう、ですねぇー…」


興味津々に上半身を乗り出した市ノ瀬を尻目に、パラパラと台本をめくり登場人物に目を走らせる。


「今までにやった事のないような役…マキューシオで大乱闘してみるのも面白そうですし、パリスで恋路の邪魔をするのも面白そうかもしれません」

「え、なんか明の無駄遣いな気がするんだけど…２人ともわりとちょい役じゃん。せめてロレンス修道士にしようぜ？」

「無駄遣いって…でも、ロレンスはちょっと…」

「なんで？良い役じゃん」

「まぁ、そうなんでしょうけど…なんか、僕だったらもっとほうれん草上手くやるのにって、ヤキモキしてしまって」

「そんな理由！？ｗｗ」