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- 18章 -
- 違和感 -
しおりを挟む「えっと…まぁ、そうなんだけど。なんか、もう今は良いかなぁーって」
「…本当に?」
「いや…えーと…」
「今は良いって事は、いつかは良くなくなるって事じゃねぇの?」
「それはっ…そう、かもしれないけど」
一度は相談しようと決めた事ではあるが、生じた迷いが口を重くさせた。市ノ瀬の言う事はもっともだし、この期を逃せばまた暫くもやもやと葛藤し続けるだろう事は容易に想像が出来る。
言うべきなんだろう…でも…
黙りこくった安積が口を開くのを待ちながら、一口、また一口と紅茶を流し込んだ。常に元気で笑顔な事が多く、場を和ませ明るくさせるムードメーカーな安積がなにかに頭を悩ませているのであれば…
力になりたい。
そう思うようになるくらい、市ノ瀬もなんだかんだ安積を好いて来てはいるのだ。だが、落ち込んだ表情で一点を見つめる安積を見ていると、やはり今は聞かない方が良いのかもと思わせた。
「まぁ、言いたくなければ、別に良いけど」
そう言うやいなや、バッと顔を上げた安積のその表情はなんだか泣きそうで…
『これは、なにが正解なんだ……?』
正直、今まで友達という友達を作らないようにしていた市ノ瀬にとって、この状況は少しばかり難しい事であり、なにを言うべきかと頭をフル回転させる。
「…なにか話したい事があるなら、ちゃんと聞くし、今が駄目でも、今度でもちゃんと聞くから。いつでも、なにもなくても。…まぁ、聞いたところで俺になにか出来るとは限らないけど」
これで合っているだろうか?こんな時、班乃や植野だったら、もっと上手く言葉を投げ掛けるのであろうが 自分にはこれが精一杯だ。
カップの中の最後の一口を飲み干しソーサーに戻すと、無言のままの安積が紅茶を継ぎ足した。
「…自分でもさ、馬鹿げてると思うんだ。本当幼稚だし、小さい人間だなって思うんだよね。でもなんか…自分だけじゃ気持ちの整理つけらんなくて…考え方を変えてみるとかもさ、難しくて…こんな情けない事相談するのも恥ずかしいし、お前に相談するべき事ではないとも思うんだけど…」
次に言う言葉を探しているかのような安積へ視線を合わせながら、注がれた紅茶を一口含んだ。
再び注がれた紅茶は、きっと話す為の合図なのだろう。伝わらないかもしれないが、いくら時間がかかってもちゃんと聞く気があると言う意思表示を含めて、まだ沢山入っているティーカップをソーサーへ戻した。
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