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- 16章 -
-本番と恋の始まり-
しおりを挟む「……お前、なにしてんの?」
丁度6限とHRの間の休み時間。美術部のデッサン用に頼まれた花を届けた鈴橋は、美術準備室を覗く人物と鉢合わせた。
美術準備室を隠れて覗く人が居る事は、最早この学校では不自然な事ではない。
そういう時は、ほぼ高確率で学校の七不思議と噂されている人物が中に居る。
その人物から箝口令を引かれているため、鈴橋を始めあの時居た4人はそれを守っているわけだが…
そもそも大した興味もなかった為箝口令を引かれなくても言うつもりはなかった。だが実際に撫子の君と話をした結果、それが自身の強固な意思へと変わった。
彼の風貌から神秘的な想像をしている学生達に、彼がどんな人物なのかは知らないで居てほしいと感情が芽生えてしまったからだ。
これは、着ぐるみの中身は居ないと言ったような、子供が抱くキラキラした夢を壊さないよう守りたと言う心情に近い。
そしてまた1人、守らなければならない彼に幻想を抱く犠牲者が増えたようだった。
『まさか、コイツまで…』
鈴橋に声をかけられて振り返ったのは、転校初日から問題を起こしたらしい、市ノ瀬睦月だった。
「あ、眼鏡じゃん。 丁度良い所に…って待てよっ!」
『話かけるんじゃなかった』
相も変わらず失礼な呼び方をする相手に秒で背を向けて歩き出せば、即座に追いかけて来た市ノ瀬がその腕を掴んで引き止めた。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「人に物を頼む時にはそれなりの頼み方があるだろ。 せめて名前くらいちゃんと呼べ」
「名前?…学、だっけ?明がそう呼んでたような…」
悪びれもせず言い放つ姿はいっそ清々しい。
いくらクラスが違うと言っても既に2週間程昼食を共にしており、初日には自己紹介までしてやったと言うのに。
『…まぁ、したのは植野だけど』
とはいえ、誰がしたとしても伝えた事には変わりない。失礼極まりない態度に苛立ちを覚え早々に立ち去りたい気分だが、ここで聞きたい聞きたくないの押し問答をしても時間の無駄だ。
隠すことなく大きなため息をつくと、掴まれた腕を振り払い市ノ瀬へと向き直った。
「…で、なに?HRまで時間ねぇし、さっさとしろ」
「偉そうな奴がだな。まぁ、良い。それよりっ!」
そう言うや否や再び腕を掴まれると引きずられる勢いで準備室の前まで連行され、中を覗けと顎で示される。
『…誰が居るかなんて分かってんだけど』
しかたなく促されるまま中を覗くと、予想に反してそこに撫子の君の姿はなかった。美術道具が並べられ、独特の匂いが充満する静かな室内がただただ存在しているだけだ。
「……別に、なにもないけど」
「は?」
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