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- 15章 -
-謝罪と始まり-
しおりを挟む「面と向かって言えないあたり、俺って結構意気地なしかも」
でも、今はこれで良い。
班乃がいつも通りに接してくるのなら、あえて自分から触れることはないだろう。自分が触れられなかったように、もしかしたら班乃にもそうする理由があるのかもそしれない。
もし班乃がこの話題を口にした時は、今言った事を伝えれば良い。その時は、今ならきっと伝えられる気がする。
場合によっては傷つけてしまうこともあるかもしれないけれど、嘘をついて関係がギクシャクしてしまうよりは絶対良いはずだ。
もう1度顔を覗かせ、規則正しい寝息を立てている班乃をぼんやりと眺める。
寝ている時の無防備な顔は普段より少し幼く見える。この気を許してくれている感じが安積は好きだった。
友達や親友に順位をつけるわけではないけれど、自分にとって班乃はきっと、他の子たちよりも特別で大切で、親友を卓越した特別な存在。
きっと班乃にとっての自分も…
そんな感じなんだろう。
「…よし、寝よ」
スッキリした所で一気に眠気が襲う。 意識すると一層まぶたが重く感じて、まぶたを閉じると同時に意識も夢の中へと落ちていった。
安積が規則正しい寝息を立て始めた頃、班乃は静かに立ち上がり部屋を出るとリビングのソファーへと深く腰かけた。
あの日から、時折何か言いたそうにしていたのは分かっていた。
それに対する答えも用意していた。
けれど、結局安積が口を開く事無く就寝の言葉を交わした。
その後自分を呼ぶ声安積の声に対して寝たふりをしたのは、寝入った頃を見計らったかのようなタイミングが自分の返事をまだ求めていないように感じたから。
小さな声でもたらされた安積の独白は、予想していた通りで、予想していた通り辛いもので…。
あの川での一件の後、ずっと考えていた。
安積への気持ちは間違いではない。友達という枠から飛び出して、恋愛感情へと達してしまった気持ち。
いつも明るく、真っ直ぐで、元気で、他人を自分以上に思いやる。どんな時でも、どんな事が自分の身に降りかかっても、諦めず真っ直ぐに立ち向かうそんな姿は、太陽のように強かで包み込んでくれる暖かさを持って居る。
そんな明るさに惹かれてしまった。
それに比べて自分はどうだろう。
大切な人を失って、立ち直る努力もせず、悲しみに任せて自暴自棄になって…
声をかけてくれる人なら誰でも良かった。年齢も、性別も、抱くも抱かれるも。
温もりをくれるのなら、なんだって良かった。
誰にも心を開かず上辺だけの関係を築き、幸せそうに歩いている恋人や家族連れを見ては、何で自分だけと逆恨みをしたりもした。
そんな小さな自分が安積を好きだなんて、許されない。安積が思っているほど、自分は立派な人間じゃないのだから。
自分にもっと良い人がいるのではない。
安積に、もっと良い人がいるのだ。
『…だから、これで良かった』
友達として、自分を救ってくれた恩人として、今まで通り過ごせば良い。
自分にはそれだって贅沢すぎるくらいだ。
これで良かった…
視界がボヤけ雫が頬を伝う。拭う気力もないまま静かに目を閉じ、リビングのソファーで1人声を押し殺し気持ちが収まるのを待った。
『……今、だけだから』
どんなに辛く悲しくても、たとえ止まるなと願ったとしても、永遠と泣き続けることが出来ないように
いつかは安積への気持ちも
きっと乾いてなくなるはずだから。
「だから…大丈夫。……大丈夫、だから」
今が刹那に変わる時をただただ願う。
そんな悲痛な呟きを、静かな夜だけが聞いていた。
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