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- 15章 -
-謝罪と始まり-
しおりを挟む街灯に照らされた静かな道を2人は無言で歩く。
駅から10分も離れれば割と閑静な住宅街が広がるこの場所は、日本の首都だという事を忘れさせる。
そんな中で、ぼんやりと先ほどの事を思い出す。
指輪の事を問うた市ノ瀬に答えた内容は、決して嘘ではないが全てではなかった。
それは、自分だけが知ることを許されたようで…
「…俺だけが知ってる、俺だけに話してくれたー明の」
「あ? なんか言ったか?」
「えっ!? あ、いや、なんでもない」
無意識に声に出してしまって居たのだろう。小さな呟きを聞き取った市ノ瀬は後ろを歩いている安積を振り返ったが、なんでもないと言うとさほど興味はなかったようで再び前を向いて歩き出した。
「別に送りとか要らなかったのに」
「…うん」
「女じゃあるまいし。1回来てるから道も分るし」
「うん」
「もうココで良いから帰れば? 明が待ってんだろ?」
「うん」
「帰るの?帰らねぇの?」
「うん」
「………」
あからさまに心ここに在らずな返事を返され続けられれば苛立ちもするもので、足を止めると安積に向き直った。
「おい、少しは人の話をっ」
「睦月はさ、秘密ってある?」
「はぁ? お前、なにいきなー」
行き成りなんだ?
そう言いかけた言葉は、自分を見据える安積の真剣な目によって遮られた。
「…まぁ、それなりには」
そう答えたが、良くも悪くも自分に素直に生きてきた市ノ瀬には人に言えないような秘密は特にはない。ただないと言うのもなんとなく癪で、思わずあると口にした。
「じゃぁさ、その秘密を誰かに言うなら誰に言う?」
「…どういう意味だよ?」
「えーと…だからさ、例えば友達とか、信用してるとか、そう言う感じの…」
「あぁ、そういう。…まぁ、信用してなきゃまず話さないだろうな。 後は、頼りになる人とか」
「それって、自分にとって特別な人って事だよな?」
「は? あー…まぁー、そう、だろうな」
なぜそんな事を聞きたがるのか意味が分からない。
『っつーか、俺に聞かれてもな…』
秘密どころか悩みすらない市ノ瀬に分かる筈もなかったが、信用だとか頼りがいがあるとか、何かしらの特別を感じていない相手には話さないと思う…多分。
市ノ瀬の答えに納得していないのか、安積はまだ腑に落ちないといった顔をしている。
たまに通りすがる人が、立ち話をしている自分達を不審げに見てくるのを睨んで追い払いつつ、安積の次の言葉をまった。
普段の自分ならこう言ったいかにも悩んでます的な会話は直ぐに断ち切るのだが、何故だか安積の事を放っておくには気が引けた。
もしかしたら、自覚がないだけで安積にした事に引け目があったのかもしれない。
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