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- 15章 -
-謝罪と始まり-
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けれど行動を共にし会話を交わし、相手を知ってみればその考えが間違いだったって事はなんとなくだけど分る気がした。
良い人ぶっているわけでもないし、教師に媚を売っている分けでもない。
人に親切にするのは見返りを求めているわけでも自分を良く見せる為でもない。なぜそんなことが出来るのか自分にはまだ理解出来ないけれど、ただそうしたいからという嘘偽りない彼の思いだ。
与えられた役割をこなすのも自分自身への挑戦でしかない。
様々な役割を任せられるのも、それによって人から尊敬されるのも、彼自身の行動により後からついてきた産物でしかすぎず、校則違反を許される理由でもなかった。
今彼を取り巻く環境は、彼が自分の意思にストイックで素直に従った結果だ。
無理をしているわけでも作っているわけでもなくて、それが“班乃 明”という人物なのだ。
自分に素直という点では自分だって負けない自身はあるが、どうにも“質”が違い過ぎる。
「………」
聞こえているのか居ないのか。
市ノ瀬の謝罪には答えず、班乃はいまだ自分の手のひらに転がっている指輪を凝視していた。
2度と戻らないと諦めた指輪。
見るたびにあの日の記憶を見せつけ、言い表しようのない悔しさと後悔、悲しみを鮮やかにし忘れさせてくれない指輪。
捨てたくても捨てられなかった指輪。
…捨てたくない、なによりも大切な指輪。
あるだけで、辛く、幸せな指輪。
機能を果たすことが出来なくなったペアリングの片割れ。
これがあったからこそ
彼女と、彼女との幸せな思い出を忘れずに居られた。
これがあったからこそ
あの日の後悔に縛られ続けていた。
本当は心のどこかでホッとしていた。
自分で捨てる事が出来ないからこそ、
彼が投げ捨ててくれた事で、前に進めると…
でもー…
「…あっきー。へーき?」
なにも喋らない班乃を心配し肩に手を乗せた安積が顔を覗きこむ。指輪を見つめたままのその表情はただただ無表情で、喜んでいるのか、悲しんでいるのか、なにを考えているのかがまったく分からず不安が押し寄せる。
「あぁ…すいません。…平気、です」
肩に乗せられた手に重ねるようにして自分の手を乗せて笑いかけるが、変わらず心配そうな顔をしている。
「ただ、驚いただけで…。捨てられずにあって、良かった…んだと思います。 ありがとう、睦月」
「……別に」
『…思う?』
良かったと言いきらない班乃に、今彼の中ではどんな思いが渦巻いているのか不安になる。
なくてはならないものだと思った。だからこそ、探し出さなければと思った。
けれど、もしかしたら自分のしたことは間違いだったのではないかという思いが、安積の中で首をもたげた。
「 えーっと…そう。明、指輪貸して」
「え? えぇ、どうぞ」
「……捨てるなよ」
「捨てねぇよっ」
また捨てられるのではとは思わないが、自分よりも心配そうに釘を刺す安積になんだか心が和む。
言われるがままたった今戻ってきたばかりの指輪を渡すと、受け取った指輪を暫し眺めた市ノ瀬が不意に班乃の左手を掴み取り自分の方へと引き寄せた。
良い人ぶっているわけでもないし、教師に媚を売っている分けでもない。
人に親切にするのは見返りを求めているわけでも自分を良く見せる為でもない。なぜそんなことが出来るのか自分にはまだ理解出来ないけれど、ただそうしたいからという嘘偽りない彼の思いだ。
与えられた役割をこなすのも自分自身への挑戦でしかない。
様々な役割を任せられるのも、それによって人から尊敬されるのも、彼自身の行動により後からついてきた産物でしかすぎず、校則違反を許される理由でもなかった。
今彼を取り巻く環境は、彼が自分の意思にストイックで素直に従った結果だ。
無理をしているわけでも作っているわけでもなくて、それが“班乃 明”という人物なのだ。
自分に素直という点では自分だって負けない自身はあるが、どうにも“質”が違い過ぎる。
「………」
聞こえているのか居ないのか。
市ノ瀬の謝罪には答えず、班乃はいまだ自分の手のひらに転がっている指輪を凝視していた。
2度と戻らないと諦めた指輪。
見るたびにあの日の記憶を見せつけ、言い表しようのない悔しさと後悔、悲しみを鮮やかにし忘れさせてくれない指輪。
捨てたくても捨てられなかった指輪。
…捨てたくない、なによりも大切な指輪。
あるだけで、辛く、幸せな指輪。
機能を果たすことが出来なくなったペアリングの片割れ。
これがあったからこそ
彼女と、彼女との幸せな思い出を忘れずに居られた。
これがあったからこそ
あの日の後悔に縛られ続けていた。
本当は心のどこかでホッとしていた。
自分で捨てる事が出来ないからこそ、
彼が投げ捨ててくれた事で、前に進めると…
でもー…
「…あっきー。へーき?」
なにも喋らない班乃を心配し肩に手を乗せた安積が顔を覗きこむ。指輪を見つめたままのその表情はただただ無表情で、喜んでいるのか、悲しんでいるのか、なにを考えているのかがまったく分からず不安が押し寄せる。
「あぁ…すいません。…平気、です」
肩に乗せられた手に重ねるようにして自分の手を乗せて笑いかけるが、変わらず心配そうな顔をしている。
「ただ、驚いただけで…。捨てられずにあって、良かった…んだと思います。 ありがとう、睦月」
「……別に」
『…思う?』
良かったと言いきらない班乃に、今彼の中ではどんな思いが渦巻いているのか不安になる。
なくてはならないものだと思った。だからこそ、探し出さなければと思った。
けれど、もしかしたら自分のしたことは間違いだったのではないかという思いが、安積の中で首をもたげた。
「 えーっと…そう。明、指輪貸して」
「え? えぇ、どうぞ」
「……捨てるなよ」
「捨てねぇよっ」
また捨てられるのではとは思わないが、自分よりも心配そうに釘を刺す安積になんだか心が和む。
言われるがままたった今戻ってきたばかりの指輪を渡すと、受け取った指輪を暫し眺めた市ノ瀬が不意に班乃の左手を掴み取り自分の方へと引き寄せた。
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