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- 15章 -
-君と僕と君と-
しおりを挟む「別にあっきーは悪くないんだよ! ただ、俺が…市ノ瀬に対して苦手意識、とか、そういうのがあって…上手く輪に入れなかっただけで、勝手に俺がそう思っただけで、だから…ごめん」
謝ると言うことは自分の至らなさを露出させると言うことでもある。非を認めることの大切さは理解しているが、落ち込まないのは難しい。
なんて情けないんだろう。
「頑張るから。だからー」
その時、ドアを掴んでいた指に暖かい感触が触れ言葉を詰まらせる。その温もりが指先から包むように滑り、手全体を包み込んだ。
「すいませんでした。 知らず知らずとは言え寂しい思いをさせてしまって」
「………」
更に力のこもった指先をそっと撫でると、ゆっくりとその指先をほどきドアを開ける。
一瞬絡んだ視線を直ぐ様反らし気まずそうに口を引き結んだ安積に、不謹慎だけれど嬉しいと感じてしまう。
もちろんそんな思いをさせてしまった事は自分の配慮不足という落ち度で申し訳ないと思う。
けれど、言い方は悪いとだけれど…
たった1日。それも朝練が終わるまでの短い時間の出来事で、ここまで落ち込んでくれるなんて。
それ程までに自分という存在を必要としてくれたことが、嬉しくてたまらない。
「…睦月には、“偽善者”とか“友達ごっこ”とか言われてしまうかもしれませんが、僕は安積とも睦月とも、仲良くできればと思っています」
「そんな事ないよ。俺もそう思う。 自分が輪に入れないだけなのに、それを相手のせいにするなんて駄目だよな。 ごめん」
「謝らないで下さい。まぁ、なんというか…なかなか癖の強い子なので、仲良くするのが難しいのは正直分かりますしね」
しばし俯き考え込んでいた安積だったが、意を決した様に顔を上ると班乃の両手を取り力強く握った。
「頑張る…頑張るよっ!そうだよねっ、学生生活なんて短いのに、いつまでもギスギスしてるのももったいないしな!だからっ、えっと…よろしくっ!」
そう言って笑顔を放つ前向きなその姿は、童顔な事も手伝ってよりいっそう幼く見えた。
そして思う。
『本当に、僕とは大違いですね…』
多分、自分は安積の事を好きなんだと思う。
それは友達を通り越した感情。
昨日は思わず感情に任せてキスをしてしまったが、今日の安積の様子を見る限り気のせいとかで済まされてる気もする。
でも、今はそれで良いとも思う。
決して好きになって欲しくないわけじゃない。
けれど、まだこのままの安積で居て欲しい。同性愛なんて、その先の事なんてまだ知らないで欲しい。
…勝手すぎるのは百も承知だけれど。
しばらくは、友達のままで。
繋がれた手を力強く握り返しその手を自分の方へと引き寄せようとしたその時、瞬時に今までの自分が頭をよぎった。
もし、この少年が今まで自分がしてきた事を知ってしまったらどうなってしまうのだろう。
夜遊びを繰り返し、人も性別すらも構わず流されるまま媾合を交わし、めんどくさくなると直ぐに切り捨てて…
そんな生活に終止符を打った今だとしても…
“お前は安積には似合わない人間だ”
頭の中で、誰かがそう呟く声が聞こえた気がした。
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