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- 15章 -
-君と僕と君と-
しおりを挟む朝から安積とは余り話をしていない気がする。
酷い事をしてしまっていたかもしれない。
まだ部活に入って間もない市ノ瀬に気が向いてしまっていて、そういうつもりではなかったが、蔑ろにされたと感じさせてしまったかもしれない。
安積が転校してきた時から、学校でも私生活でもずっと行動を共にしてきたし、朝練からHRまでの短い間だとしても、今日ほど安積との会話が少ない日はなかった。
…と、思う。
本当に、申し訳ないことをしてしまった。
しかし、もしその事で怒っていたとしても。
自分が安積の立場だったら、“何かしてしまったのか”と問いかけられても答えられる自信はない。
自分で“相手にされなくて寂しかった”なんて言える分けがない。
個室のドアを挟んで暫く沈黙が続いた後、聞き取れるか取れないか位の声が聞こえてきた。
「っきーの…は、俺の…のに」
「え? すいません、良く聞き取れなくて」
聞き返すとまた暫し沈黙。
言うか、言うまいか迷っている様子が感じ取れる。
すると、小さな音と共にドアを掴む指先が覗き、指分だけ開けた所で止まった。
「あのさ…すっげー子供な事言っても良い?」
「は…? あ、はい。 良い、ですけど?」
不意に予想とは斜め45度ほど違う答えが返され、思わず素っ気無く返してしまう。物凄く言いづらそうにしているが、自分としては安積の言葉なら大人っぽくても子供っぽくても全然大歓迎だ。
「今日さ…朝からずっと、あっきーと市ノ瀬が並んで歩いててさ…俺、2人の後ろ姿しか見てない、くて。 会話もなんか2人で盛り上がってて上手く入れなくて……」
「…すいません」
「本当、ガキかっ! ーってくらいの事言ってるって分ってるんだけどさ…」
「……」
「市ノ瀬が今日居た所…あっきーの隣はいつも自分が歩いてた所なのにっーって、思っちゃって」
「えぇ」
「そしたら、なんかイライラっとしちゃってさ」
「………」
「だから…その…寂し、かったんだよね」
ドアを掴んでいる指先が白くなっている。それは彼がどれ悲しい思いをしたかを表しているようで、申し訳なさで胸が閉まる。
なにも返すことが出来ないまま、その指先へ静かに手を伸ばした。
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