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- 15章 -
- 波乱 -
しおりを挟む渡せなかったものにいつまでも縋っていてもしょうがないし、外す切っ掛けとなったと思えば…と、静かにその指から指輪を引き抜いた。
「ありがとうございます。ですが、市ノ瀬くんの言う通り校則違反な事には変わりないですし」
「えっ? 外しちゃうんですかっ?」
「トレードマークがぁ…」
「よくよく考えれば見本にならなくてはならない生徒会長のトレードマークが校則違反なんて目も当てられないですし、僕らも後輩が出来るわけですし」
「いやー…でも多少そういう所があった方が取っつきやすさも増すと言うか…」
「すいません、僕そんなに取っつきにくかったです?」
「いや、そう言うわけではっ!?」
「冗談ですよ」
「「会長っ!?」」
外すことに対して不満を漏らすクラスメイトを諌めながらも楽しげに話す班乃の姿は、市ノ瀬にとっては面白くない光景だった。
何が面白くないというなら決まっている。
同級生であるはずなのに特別視されている事。
同級生であるはずなのに皆が敬い敬語で話しかけること。
色々な役割を一身に引き受け、誰にでも良い顔をする班乃自体にも…
自分でも自覚できているくらい、態度悪く悪態をつく自分にも嫌な顔せず接する所。
様々な役割をこなし
教師達にも信頼を受けている所。
班乃と、班乃を取り巻くすべての事が気に入らない。
『この…』
「…偽善者が」
「え?」
小さく呟いた市ノ瀬の言葉は誰にも聞こえる事無く、勢い良く立ち上がると班乃の手から先ほど外したばかりの指輪を奪い取った。
「ちょっとっ!!」
部活以外では決して聞くことのないイヤフォン越しにも届いた班乃の大声に、安積が勢い良く顔を上げる。
その背後を風が駆け抜け反射的にそちらへと目を向けると、風を起こした張本人が教室の窓を開け放ち、大きく振りかぶると “ 何か ” を思いっきり窓の外へと投げた。
一瞬なにがどうなったのか分らなかった。
窓の傍で動かない市ノ瀬。
その様子を唖然と見つめるクラスメイト。
声を張り上げた班乃は、口を引き結び呆然としている。
なにが起こっている?
「ねっ、ねぇ…どうしたの?」
立ち上がり班乃の元へと近づくと、自分を見たその目が大きく揺れた。その目は今にも泣き出しそうに見えて胸騒ぎを覚えた。
「…ねぇっ、あっきー!?」
焦りから班乃の両肩を掴むと、力の入っていない体が後ろへとよろめく。今にも倒れそうで掴む手に力を込めると安積を見下ろす弱々しい目が数回目蓋に隠れ、そして唇がぎこちない項を描いた。
「…ぃえ、なんでもー」
「指輪っ」
「……指輪?」
なんでとないと言おうとしたのだろうが、その言葉を誰かの “ 指輪 ” という言葉が遮る。
『指輪…あっきーの…指輪、はー』
増していく胸騒ぎに呼吸がしづらい。なんとか呼吸を繰り返しながら班乃の手に視線落とすと、そこにある筈のものがない。
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