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- 15章 -
- 転校生 -
しおりを挟む今までよりも長く見学している市ノ瀬に一抹の不安を覚えながら彼の返答を待つが、なにも言わず静かに教室から出て行ってしまう。顧問へと軽く一礼をすると、市ノ瀬に続き班乃も教室を出た。
「どうでした?」
「決めた」
「…決めた?」
「演劇部にする」
「えっ?」
好ましくない。
正直、かなり好ましくない。
なぜよりにもよって、わざわざ自分と安積の居る演劇部を選んだのか。
「理由、聞いてもいいですか?」
「なんで?」
「部員としては気になるじゃないですか」
「だとしても言わなきゃいけない理由にはならないだろ」
「それは、まぁ…そうかもしれませんが」
そう言われてしまえば“そうですよね”としか言えず、一先ず今考え得る可能性について考えてみる。
嫌いな人間が2人も居る部活に入る、その理由とは…
『……もしかして、嫌がらせ?』
「…なんだよ?」
「いえ、なんでも」
人生最速と言って良いほどの早さで嫌われたと言うことは、自分は彼にとって相当馬の合わない人種だったのだろう。
それなのにと考えると真っ先に嫌がらせの文字が浮かんだが…それはどうも違う気がする。女々しい事を嫌っている様だったし、言いたいことは包み隠さず発言するタイプだ。そんな姑息な事をするくらいなら入部自体を止めるかお前らが辞めろ言うだろう。
そうでもないもなると…
『とんでもない、承認欲求の持ち主なのでは…?』
キャストになればもちろん舞台でスポットライトを浴びることになる。注目されるのが好きなだけと公言していたし、その為に嫌いな人が居ても入部を選ぶのならそれは相当なものなのだろう…
どんな理由にせよ部活に真剣に取り組んでくれるのなら構わないが、協調性がかけていれば揉め事の原因になる可能性は大いにある。
1人考え込む班乃を横目にしばし黙り込んでいた市ノ瀬だったが、大きく溜め息をつくとポケットに両手を突っ込み、どこか気まずそうな表情を浮かべた。
「別に、心配しなくてもいい加減にやったりしねぇよ」
「え?」
「……モデル」
「モデル?」
「 …目指してんだよ。だから、表現力を勉強するのも悪くないと思っただけ」
突然なにを言い出したのかと市ノ瀬の顔をうかがうと、即座に苛立った様子で目を反らされる。一瞬言っている意味が分からなかったのだが、冷静に考えれば演劇部を選んだ理由だと言うことに直ぐに行き着いた。
「…ちゃんと考えているんですね」
「馬鹿にしてんの?」
部活を選ぶ基準も、その理由も思いもよらぬもので、おおよそ市ノ瀬からは想像がつかなかったもので、自然と感心の言葉が口をついた。
「いえ、馬鹿にしてるわけではないですよ。僕らの歳で将来の事を考えてる人なんてそうそう居ないので、関心しているんです」
「お前に関心されても嬉しくねぇよ…俺からすれば将来を何も考えていないなんて脳ミソ足りねぇ馬鹿な奴だと思うけど」
「いやいや、貴方がしっかりしているだけですって」
「………」
そういう理由であれば入部を止めるわけには行かないだろう。気苦労が目に見えるが、ここは頑張るしかなさそうだ。
『入部届け、貰いにいかないとですね』
とにかく、まさか今日一日で決めるとは思って居なかった。今日は案内だけで入部届けなどは明日になるため、その旨の説明をしつつ並んで教室へと歩き出した。
その後特に会話もなく市ノ瀬は淀みない足取りで鞄を肩にかけ帰路へとつき、その姿を見送り1人になった班乃は自分の椅子へと脱力したように座り、これからの事を考えて大きく息を吐いた。
「….安積に報告、しないといけませんね」
あぁ、気が重い。
正直、自身も市ノ瀬の事はあまり快く思って居ない。まぁ、自分は良いとして、あの2人が仲良く出来るだろうか…
でも、話を聞く限り“演劇”に関しては頑張ってくれそうな気もする。
どう上手く折り合いをつけてやっていくか。
「はぁ…」
もう一度息を吐き出すと、気合を入れるため勢いをつけて立ち上がり、自分も部室へと歩き始めた。
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