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- 14章 -
- 日常のひとこま達 - 植野&長谷川
しおりを挟む「やっほー鉄兄!!」
「おぉ、綾雪」
月影と別れた後そのままレンタルショップへと赴くと、返却されたものを棚に戻している長谷川を見つけ一直線に側へと駆け寄った。
「どうした?なに借りに来たんじゃないのか?」
「うぅん、ちょっと会いたくなっちゃっただけ!」
「彼女かw」
あきれたようなニュアンスを込めた言葉だったが、反面その顔は笑顔で植野の頭をわしゃわしゃと撫でる。
いつどんな時に来ても、何時も笑顔で迎えてくれる長谷川が植野はたまらなく好きだった。兄が居たらきっとこんな感じなのだろうなぁと思う。
「さっきさぁ」
「んー?」
仕事を邪魔しないように、近くの棚でDVDを物色しながら話しかける。
「月影さんに会ったんだぁ」
「ふぅん。今日は暇なのかね」
「どうかな?仕事で使うの買いに来てたみたい」
「へぇー」
「でさ、声かけたらお茶に誘われてさぁ」
「ひーが?なんで? 」
「俺もそう思ったんだけどさぁ…」
そこまで言いかけた後、長谷川には鈴橋との事を言って居ないことを思い出した。
長谷川なら、鈴橋と恋仲だといっても受け入れてくれるだろう。正確には、鈴橋は無自覚だし正式に付き合ってるわけではないけれど…
今説明するにはこの場はふさわしくないだろう。
何より仕事の邪魔になるだろうし…
「いや、前に学校で盛大にぶつかっちゃったことがあってさぁ」
「あー…あいつ結構ぼんやりしてる時あるしな。大丈夫だったか?」
「大丈夫っ!でね、その時はまだ月影さんって知らなかったんだよね」
「あぁ、まだ正体隠してた時か。よく逃げられたなw」
「ねっw その種明かしの話しだった」
「お疲れだったな、綾雪」
「お疲れ?」
「いや、あいつの相手は結構疲れるんじゃないかと思って」
「あぁ…かなりマイペースな人だよね。昔からあぁなの?」
「昔から…」
そういうと、顎に手を当て昔の記憶を遡るかのように上を向き考えるそぶりを見せた。
「そうだなぁ…どっちかって言うと、自分以外敵とでも思ってるんじゃないかってくらい、ピリピリしてて人を寄せ付けない空気醸し出してたなぁ」
「えぇ!?」
「必要最低限しか口開かないめちゃくちゃ無口なヤツで、人を避けていつも1人で居るようなタイプだったな」
「…うっそ?」
「本当本当。しかも常に無表情でなに考えてるか分らないような奴だったから、怖がられてたりもしてたなw」
「うわー…想像つかねぇ」
「まぁ、それで気になってちょっかい出して今みたいになってる訳だけど」
両手にまた新しい返却されたDVDを抱え、手は休めずに仕事を続けながらそういう顔は、それも満更じゃないような笑顔だ。
「鉄兄なんか良い顔してる」
「そうかぁ?まぁ、そうだな。あいつのおかげで大分楽しい人生だよ」
「今度もっと聞かせてよ」
「ん? なにを?」
「鉄兄と月影さんの学生時代の話。なんか面白そうだしw」
「あー…、また今度な」
「うん!」
そこまで話した所で少しづつお客さんが増えてきた事もあり、そろそろ帰ることにした。
「じゃぁ、そろそろ帰るよ。急にきてごめんね」
「いやいや、気にするなよ。気をつけて帰れよ」
「あいよー! じゃお仕事頑張ってねー」
軽く手を振ってレンタルショップを後にする。夜道を歩きながら、先ほど撫でられた頭に手をあてる。
大きくて暖かくて優しい手。昔から全く変わらない。植野の大好きな手。
「もしかして…」
今の月影しか知らない自分からしたら、先ほどの長谷川の話しはとても信じがたい。けれど嘘をついているわけではないだろう。
そらなら、月影が今のように変われたのはー
自分と同じように、長谷川の存在が大きかったのかもしれない。
「なんかちょっと嫉妬」
別に自分だけの長谷川ではないのは分っているが、少しだけとられたようで面白くない。
「なに子供みたいな事言ってんだか」
自嘲気味に笑っては、不意に吹いた冷たい風に身をかがめて、早足に自宅へと帰るのだった。
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