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- 13章 -
- 事実は小説よりも奇なり -
しおりを挟むしかし残念ながら、懸命に羞恥心を振り払う植野の様子に鈴橋が気がつくことはなく、変わりに隣に座る安積へと目を向け声をかけた。
「安積」
「……あっ、なに?」
「どうした。さっきからずっとボッとしてるけど。大丈夫か?」
「えっ?」
こういう時人一倍騒ぎそうな人間に途中から押し黙ったまま直ぐ隣でボンヤリとされれば、あまり他人に興味のない鈴橋でも流石に気がつくというもので。
不意に声を掛けられた安積は虚をつかれたように素っ頓狂な声を上げ、若干顔を赤くしながらあわてて両手を降った。
「ごめんごめんっ、大丈夫っ!!いっぺんに色んな事があったから、ちょっと混乱中なだけって言うか…ありがとっ!」
『そっ、そんなぼんやりしてたかなっ? 』
安積自身無自覚ではあったが、鈴橋がそういうならそうなのだろう。今日だけで色々な事があり、正直少しだけキャパオーバーしていたのは事実である。
心配かけさせてしまうのは申し訳ないと落ち着こうとするが、すぐには難しく机の上で組んだ指が世話しなく動いてしまう。
そんな安積を暖かい目で見ていたのは、目の前に座っている長谷川であり、感慨無量な声を上げた。
「そっかぁ。お前がひーの弟ねぇ」
「あっ、はい……その…一応」
「…あぁ、俺も はな も君の事はよく聞かされて知ってるから、なにも気にすることないぞ?」
一応と煮え切らない返事をしてしまったのは、月影が自分達のことを何処まで話ししているか分らず弟と言い切ることに躊躇してしまった故だったが、どうやらそれも必要ないらしい。
「学生の頃、よーく話してたよ。“俺には、天真爛漫で可愛くて天使のようで、命の恩人の大事な大事な弟が”…痛゛っ!?」
話の途中で“ゴッ”という音がし、長谷川の声は最後までつむがれる事はなかった。
カンっとお皿に跳ね返り、テーブル中央まで滑ると動きを止めた半透明な四角い固体。
学生と長谷川の視線を釘付けにしたそれは…
「これは…」
「氷、ですね」
「ですね。氷です」
冷静に分析する班乃と鈴橋。そして、それが飛んできた方向へと一同顔を向けると、その先には何事もなかったかのように食事する自由人2人が居た。
恐らく、氷を投げたのは月影だろう。
「…恥ずかしがるならもっと方法があるだろに」
「あっ、あのっ、ごめんなさいっ、大丈夫ですかっ!?」
「なんで君が謝るの。平気平気、いつもの事だから。気にしなくて良いよ」
「でも…」
「大丈夫だって。鍛えられてっからw」
申し訳なさそうにする安積へ、テーブルの上に鎮座している氷の後始末をしながら長谷川がカラッと笑いかける。
いくら小さいとは言え氷を投げつけられれば結構痛かったはずなのだが…一先ず大事なさそうで良かったと胸を撫で下ろした。
『でも……そっか。そーか、そーかっ』
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