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- 13章 -
- 再会 (続) -
しおりを挟む「―…俺だけ、なんの不便もなく両親とのうのうと暮らしてた…そんな権利俺にはないのに。だから、ずっとずっと謝りたくて。今まで何もしてこなくてごめんって。自分の事だけしか考えないで、酷い事してきてごめんって…」
頬に当てられた手をギュッとつかむと、先ほどまでデッサンをしていたせいか、その指からは微かに鉛筆の香がする。
『この匂い…そうだ。昔もよく、絵、描いてたな…』
兄の真似をして、ローテーブルに並び一緒に色々な絵を描いた。あの絵は今、いったいどこにあるのだろう…
思い起こされる懐かしさが暖かな気持ちや罪悪感といった様々な感情をつれてきて、自分の気持ちの所在が分からなくなりそうだ。
揺れ動く心情になんとも言えない表情を浮かべる弟に緩く笑いかけた月影は、弟の言葉が止まったこのタイミングでずっと噤んでいた口を静かに開いた。
「そういうことなら……聖を許すよ。…まぁ許すも何も、俺は聖に酷いことされたとか、聖が悪いことをしたとか思ってもないから変な感じだなんだけど。それじゃ気がすまないでしょ?」
「…思って、ないの?どうして?」
「どうして?そんなの当たり前じゃない。記憶なんて薄れてくものだよ。誰だってね。聖はまだ小さかったし、俺の事思い出してくれただけでも奇跡だよ。俺を見て俺だって気付いてくれただけで凄く嬉しいし、それに俺が今こうして生きているのだって、聖が居てくれたからなんだよ」
「……俺の?」
言っている意味が分らないのか、泣きっ面で頭上にはてなマークを飛ばしているその姿に思わず小さく息を噴出した。
「正直ね、なんで俺ばっかりこんな目にあわなきゃならないのかって思った時もあったよ。祐子さんが憎いって、もう嫌だって、色々投げ出したくなった。でも、お前が居てくれたから、俺はそんな気持ちを祐子さんにぶつける事なく過ごせたんだ。 ―どうしてか分かる?」
「……わかんない。だって俺、なにもしてないもん」
月影の問いに暫く答えを考えてみたが、迷惑をかけたという以外に自分が兄になにかをしたとは思えない。考え付かず正直に口にすると、また月影が小さく笑った。
「…ごめん」
「良いの、謝らなくて。そうだなぁー…あの時は家でも自分の居場所なんてなかったし、学校でも色々あって、もう死んでやりたいって思う気持ちもあったんだ」
「そんなっー」
「だけど聖が会いに来てくれて、嬉しそうに笑って、もっと一緒に遊びたい、大好き、楽しいって、俺を必要としてくれて。それだけで、もっと頑張ってみようって思えたんだ。聖だけが、俺の救いだった。だから、謝る必要もないし、謝って欲しくもなかったかな」
「…でも、憎く思わなかったの?自分が酷い目にあってるのに俺だけ両親と一緒に過ごしてたんだよ?…母さんは別としても、父さんは聖にとっても本当の父親なんだし…」
「思わないよ。聖だって俺にとって血の繋がった家族でしょ?家族と一緒に過ごせてたのは俺も一緒」
「それは…そうかも、しれないけど」
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