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- 12章 -
- 本番と本心 -
しおりを挟む「ちょっ、ちょっとどうしたのがっくんっ!?」
授業が終わるや否や、植野は一直線に自分の元へとやってきた鈴橋に手を引かれ廊下を走っていた。
校舎は、授業棟が「H」の形になっており、渡り廊下、中央廊下とも呼ばれる廊下で繋がるようにして「C」の形をした部室棟がある。
そのCの中は鈴橋が冴霧と世話をしていた花壇、そして噴水がある中庭になっている。
授業棟3階から一気に駆け降り、中央廊下を一直線に駆け抜ける。
腕を掴む力は緩まる事なく、そして1度も立ち止まる事なく部室棟の中庭まで来た所でようやく鈴橋が立ち止まり、暫し2人の息を整える音だけが響く。
運動部で日頃鍛えてる植野でさえも息が上がるくらいなのだ。鈴橋にとってはかなりしんどい筈だ。背中をさすろうと無意識に出した手を一瞬で引っ込めた植野は、大人しく鈴橋の息が整うのを待つ。
「いきなりどうしたの、がっくん?」
鈴橋の返事は直ぐに帰ってこない事は分かってはいたが、鈴橋らしからぬ行動に問い掛けずにはいられなかった。
あの時この場所で先輩と楽しそうに話していた鈴橋を見て自分に芽生えた感情に胸を焦がし、そしてその後衝突してしまった見ず知らずの人の言葉で勇気づけられ、今度は逃げないで話をしようと決意した。
のだが…
『なんでよりにもよってココなんだろ…』
発表が終わったらもう1度話をしようと思っていたので連れ出された事に異論はないけれど、場所が気持ちを落ち着かせていくれない。
鈴橋がなんの為にココに連れてきたのかは分からないが、居心地の悪さを感じるには充分すぎた。
とはいえ、折角久しぶりに2人きりになれたのだ。話をするのにこんな絶好のチャンスはないだろう。1つ深呼吸をした植野が意を決した様に口を開いたのだが…
「あのさ、がっくん」
「待てっ!!」
「んっ!?(デジャブ!?)」
「俺に…さき、喋らせろ…」
「う、うん」
鈴橋の待ったがかかり、一旦口を閉じた。
さすが自他共に認めるインテリ。まだ整わない息、体力のなさは少しばかり可哀想なくらいだ。
暫くして鈴橋の肩の動きが収まったころ、植野に背を向けたまま静かに口を開いた。
「…悪かった」
「……えっ、なに、が?」
どんな話をされるかは分からなかったが、まさか謝罪されるとは思ってもおらず、思わず間の抜けた声がでた。
密かに恥ずかしがる植野を知ってか知らずか、鈴橋は言葉を繋げる。
「ずっと…なんとなく避けてたから。悪かったと思って。今まで通りで居て欲しいって…言われたのに。ごめん」
「あぁ、うん……それはしょうがない、と思う。うん。行き成り言われたってって感じだよな」
「…お前が言った事、うまく飲み込めなくて。でもだってで、気のせいだって思ったりとか…少し認めたくない気持ちもあって、理解できないって自分に思わせてたのもあったと思う」
「うん」
「ちゃんと逃げ道も作ってくれてたのにな」
「…逃げ道?」
「同じ気持ち返さなくてもいいって言っただろ?」
「あぁ…あれね。あれは、あれだよ。がっくんとはどんな形でも一緒に居たかたって言うか…ね。でも、しょうがないよ。急に言われても、困っちゃうよね」
「………」
落ち込んでいる鈴橋をどうにかしたくて曖昧に笑って見せるがその顔に笑顔が浮かぶことはなく、ベンチへ向かう鈴橋に視線で促され並んで腰を下ろした。
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