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- 12章 -
- 本番まであと少し -
しおりを挟む最悪だっ
最悪だっ!
最悪だっ!!!
あの場所に居たくなくて反射的に走り出した。
どこに行こうかなんて考えてなんかいない。
ただただ闇雲に走った。
自分の頭に浮かんだ最悪な考えを振り払いたくて。
『最悪だっっ!!!』
勢い良くそのままのスピードで角を曲がったそと時―
「っ!?」
「あっ!!」
ドスンッ
そこを歩いてきただろう人物と鉢合わせ、勢いづいたまま止まることが出来ずにその人物の胸に飛び込むと押し倒す形で地面に倒れた。
「痛っ………あっ、悪いっ!大丈ぶー」
痛みに一瞬顔を歪めるが、直ぐ様誰かとぶつかってしまった事に思考が追い付く。起き上がろうと腕に力を込めるが…
それは頭と背中に回された相手の腕に阻止をされた。
「えっ?あのっ」
『なんなんだ…ってかこの人誰っ?』
咄嗟の事で顔の確認は出来ず、今は今で頭を胸元に押し付けられて居るせいで確認のしようがない。
ただ唯一分かるのは、この人物が男だということ。
押し付けられた胸元は平べったい…
同性に恋をしてるとはいえ、健全な高校生にとっては誰だか分からない男の胸に飛び込むより、誰だか分からなくとも、女の子の胸が良い。
『…でも、なんだろう』
押し付けられた耳には、一定のリズムで心臓が血液を運んでいる音が聞こえてくる。それがひどく心地良い。
力強く回された腕も、植野が起き上がる事を諦め力を抜くと同時に緩められた。
「えっと、すいません…ちょっと考え事してて」
「うん」
この状況はおかしいだろ。ぶつかって、2人共々地面に倒れこんで、しかもそのまま落ち着いちゃってるなんて。
でも、なんだかこのまま動きたくない。
このまま寝れさえしそうだ。
「なにか、悲しい事でもあった?」
「え?」
時間が止まりかけていた中、不意にその人物が声を発した。
「悲しい事…」
「…そう、大切な思いが打ち砕かれたような…なにかに…裏切られた、ような…」
「え?なんで」
なんでそんなことを知っているのか。
今思い当たるとすれば、鈴橋の事しかない。
大切な思いが、打ち砕かれた。
確かにその通りだ。
「それと…なんだろう。凄く腹がたって…でもそれが許せない、のかな。妬み、嫉妬…自己嫌悪?」
「まっ、待ってくださいっ!」
「…………」
次々と発せられる言葉にいてもたってもいられず、その言葉を途中で止めた。
「貴方はなんの事を言ってるんですか?」
「なんの事…君の事だよ」
「いや、でも…」
「声が、聞こえたから」
「声…って」
「……しょうがないと思う」
「え?」
自分の事と言われても、多分この人物の事は知らないし話をしたこともない。なにからなにまでおかしな事だらけなこの状況なのに、何故か不思議な安定感と安心感とが感覚を麻痺させている。
この人が聞いたという自分の声は、一体どんなものだったのだろうか。
自分はこの人になにを言ったのだろう?
この人はなにに対してしょうがないと言っているのだろう。
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