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- 12章 -
- 本番まであと少し -
しおりを挟む授業搭から離れた場所にある部活搭の中庭、植野はそこにあるベンチの上に寝転んでいた。
流石私立だけあって、この中庭はなかなかのものだ。
中央には中規模の噴水、その周りを360℃囲む様に花壇があり、4方にベンチが設置されている。そして更にその周りを囲む様に花壇がある。
授業搭から離れているだけあって、昼休みという限られた貴重な時間を大事にする生徒には人気がなく、今は植野1人しか居ない。
雲一つない快晴の空に向かって、植野はため息をついた。
鈴橋に気持ちを伝えてから既に1週間程たっている。その時間は後悔を感じるには十分な時間だった。
話しかけて無視されると言うことはない。
けれど、話しかければ微かに肩が震え、一瞬口ごもる。教室に居る時も、昼休み屋上で並び座る時も、2人の距離は物理的にも開かれ、今まで何気なく居た距離が今は遠い。
なによりも、目を合わせてくれなくなった。
避けられているのは間違いないだろう。
あの時、鈴橋の返事を聞かずに逃げ、一方的に気持ちを伝え避けられている現状。
あの時、ちゃんと返事を聞いていれば、こんな宙ぶらりんな事にはならなかっただろう。
あの時、気持ちなんて伝えなければ、今までと変わらず友達として側に居られたのに。
あの時、あの時、あの時………
そんな考えがずっと植野の頭を埋めている。
全てが今になってはどしようもないことなのだが。
何度目かも分からないため息をついた時、ふと植野の寝転がるベンチの裏側、噴水を挟んだ場所から鼻歌が聞こえてきた。
『あー…確か今人気のロックバンドの…新曲?だったけか』
聞き覚えのない声の持ち主の鼻歌を聴きながらぼんやりと考える。
その鼻歌の合間合間に聞こえる水の音は、恐らく花壇に水でもあげている音だろう。
『こんなメルヘンな場所で水やりしながら、ロック歌うって…』
ミスマッチだ。
しかも、鼻歌がだんだんと歌になってきている。
『もしかして歌詞、忘れてた?…あるある』
そんなどうでも良いことを考えているのが、今は心地良かったりする。
鈴橋のことを一時でも頭から離せる事が、悲しい事に今の植野を少し楽にした。
「白いバラを紅く染める~君の叫び声がぁー…あ? おぉ!?」
『叫び声が…なんだっけ?…なんだっけこの続きっ!!よくTVで聞くのにっ…』
誰だか分からない相手の途中で止まってしまった歌の続きが気になる。
TVでしょっちゅう流れてる為自然と耳に入りメロディーは割りと覚えているのだけど、歌詞は思いのほか耳に入ってなかったりする。
誰しもこんな経験はあるだろう。
無駄に気になり始めた植野は誰だか知らないその人物に話しかけようと身を起こそうとした、その瞬間。
「冴霧先輩!」
「やっぱ学かぁ!どうした?なんか用事?」
『……がっくん?』
思いもよらず今最も会いづらい人物に会ってしまい、起こしかけた身を沈め息をつめた。
正確には自分の存在に気がついて居ないのだから、“ 会う ” の表現はあっては居ないのだが。
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