106 / 1,055
- 9章 -
- すれ違い -
しおりを挟む暫くの間、広い体育館には二人の息遣いだけが聞こえていた。
呼吸が完全に落ち着いた戻った頃、力尽きた様に大の字に寝転がりぼんやりと天井を眺めている安積の隣で、班乃は立てた片膝に腕と顎を乗せた体勢で黙りこくっていた。
「……ねぇ、あっきー」
「………」
「あの…」
「ーんで」
「え?」
沈黙の中先に口を開いたのは安積だったが、その言葉にかぶせるように、なにもない空間に視線を向けたままの班乃が口を開いた。
「なんで黙ってたんですか?」
「…そ、れはー」
「なんで倉庫の掃除なんて引き受けたんですか?」
「ー…だって俺しか空いてる奴が居ないって言うから」
「…心配する事は迷惑ですか?」
「え?…いや、そんなんじゃ、ないけど」
心配をかけたり気をつかわせてしまうのが申し訳ないとは思えどそれが迷惑だなんて考えた事などなかったし、掃除を引き受けたのはただ誰かの役にたちたかっただけだ。
今の今まで自分の引き出しになかった班乃の返答に戸惑うが、もし逆の立場だったらと考えたならー…
寝転がって言うことではないと上体を起こし班乃へと視線を向けるが、即座に反らされた視線が苛立ちを表して居るようで言葉が詰まる。
けれどここで言葉をつぐみ自分の過ちを謝罪しないなんて、そんな不誠実な事はしたくない。ぎゅっと手を握るとなんとか気持ちを震い立たせた。
「ーごめんあっきー。迷惑かけちゃった。ありがとう、すごく助かった」
自分にそんな意図はなかったとしても、そんなに頼りないのかと悲しませてしまったかもしれない。不甲斐ないと落ち込ませてしまったかもしれない。
でも…
「でっ、…でもっ、皆には言わないで欲しいんだよね。変な気使わせたくないし。無理して運動したりとか、そういうの、ちょっと気を付ければ大丈夫だから。今日はたまたま…えと、油断しちゃって…」
「…………」
自分にとって発作は何度も経験してきた良くあるだと油断していたのは確かで、今日だって薬を飲むなりマスクをするなり予防をしていればこんな事にはならなかった筈だ。これは完全な自分の落ち度でしかない。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
3人の弟に逆らえない
ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。
主人公:高校2年生の瑠璃
長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。
次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。
三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい?
3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。
しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか?
そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。
調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m
部室強制監獄
裕光
BL
夜8時に毎日更新します!
高校2年生サッカー部所属の祐介。
先輩・後輩・同級生みんなから親しく人望がとても厚い。
ある日の夜。
剣道部の同級生 蓮と夜飯に行った所途中からプチッと記憶が途切れてしまう
気づいたら剣道部の部室に拘束されて身動きは取れなくなっていた
現れたのは蓮ともう1人。
1個上の剣道部蓮の先輩の大野だ。
そして大野は裕介に向かって言った。
大野「お前も肉便器に改造してやる」
大野は蓮に裕介のサッカーの練習着を渡すと中を開けて―…
童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった
なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。
ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる