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- 9章 -
- すれ違い -
しおりを挟む急激に思い出されたのは中学の頃の記憶だ。
同級生に “ 喘息 ” 持ちの子が居た。その子が発作を起こした時の音と全く一緒の音が、今目の前に居る安積の口から聞こえてくる。
やはり、疑いは正しかったようだ。
『そんなこと考えてる場合じゃないっ!薬っ!』
恐らく常備しているはずだと急いで辺りを見回すが、安積の鞄はどこにも見当たらない。
探さないとっ!
勢い良く立ち上がった班乃だが、それは自分のズボンを掴む手に阻止をされてしまう。
「安積っ、薬はっ!?」
班乃のズボンを掴んだのは他ならぬ安積張本人であり、尚も短い呼吸を繰り返し思うように入ってこない酸素に顔を歪ませながら、苦し気に涙をためた目で班乃を見上げた。
問いには答えられないまま班乃へと手を伸し、差し出された手を借り上体を起こすと自分のズボンのポケットから筒状の缶を取り出した。
それを咥え震える指でボタンを押すと、吹き出し始める薬を思い切り吸い込む。
その一連の行動はスムーズで、今までに何度もやってきたであろう事が容易にうかがえた。
口から缶を離し大きく息を吐きだすと、薬を持つ手が力なく地面に落ちた。呼吸は少し落ち着いたようだが、まだ肩が大きく揺れている。
「…安積、とりあえず倉庫から出ましょう。ここは良くないです」
座り込む安積の腕を自身の肩に回し腰を支え立ち上がらせると、動きの鈍い足を引きずらせながらなんとか倉庫を出た。
「あっ、きー…も、大丈夫だから、とりあえず座りたい」
「……えぇ」
体育館の中央あたりに来たところで、安積の要望通り一旦腰を下ろす。
俯き黙り込んでしまっているのは心配だけれど、呼吸がほぼ普段通りに戻っているのを見ると薬はちゃんと効いてくれているようだ。
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