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慰弦

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- 8章 -

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「どうでしょう…。教えてはもらったんですけど僕もまだ分からなくて…良かったら今度レシピ持って来ましょうか?」

「本当っ!?わぁーっ、嬉しいっ!是非お願いしますっ!」


料理について和気あいあいと弾ませる2人の会話も耳には入らず、植野は固まったまま凝視するし続けていた。

同級生に食べさせてと言う母の突拍子もない行動。

同級生の母とは言え、女性に躊躇いなく直箸で食べさせる鈴橋。

何故か弾む会話。

『そんな躊躇なく食べさせるなんて…
がっくんに…食べさせてもらうなんて…
がっくんに……っ』


「っ、羨ましぃ…」

「ん?なにか言った?」

「…なんでもねぇよ」


意気消沈といった様子で項垂れる植野を不思議そうに見つめる2人だったが、母がいち早くなにかに気がつき“ あっ ”と声をあげた。

まさか…
まさかっ!!


「さては綾ちゃんっ…焼きもちだなぁっ!?」


にやにやと笑いながら息子の隣へとにじりよる様子からは、からかう気満々な様子がうかがえる。誰もが “そんなんじゃねぇ” と言う反応を予想して居たのだが…


「しょうがねぇだろ…」

「「っ!?」」

「わっ、悪いっ、俺別にそういうつもりじゃっ」


そんな予想を覆すしおらしい植野の反応に、無意識のうちに自分がしでかした事に気がついた鈴橋は多いに狼狽し


「焼きもちっ、焼きもちって…綾ちゃんっ!」


母はやたらと嬉しそうな声をあげる。

この時、鈴橋に想いを寄せる複雑な心情などつゆ程も知らない2人の中では、満場一致でこう言う解釈がなされていた。

母が同級生にとられたと感じ、不機嫌になったのだと。

「心配しなくても綾ちゃんだけの母さんだよっ!」

「………はぁ!?」

「紗千によくやるから…つい癖で。配慮が足りなかった…悪い」

「いやいやいやっ!なんの話してんの二人とも!?」

「やぁね、照れちゃって!かーわいいーっ♡♡」

「ちょっ、一体なに、が…っ!」


テンションMAXに腕に抱き満面の笑みで擦りよる母を見下げ、ここでようやく鈴橋と若子の中で巻き起こっている勘違いに気がつく。

だが、だからといって修正するのは難しい。

鈴橋に食べさせて貰った母親が羨ましいなんて口が避けても言えるもんじゃない。盛大な溜め息をつきなんとか気を取り直すと、このどうしようもない状況から逃げ出すべく話題を反らす事に尽力することにした。
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