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- 8章 -
- 休日 -
しおりを挟む丁度同時刻頃、植野は地球上には居なかった。
そんな言い回しをする人は高確率で周りに一人は居るだろう。主に正月辺りに。
正確には、部活で飛んでいるだけなのだが。
バサッとマットに落ちる音が校庭に響く。
「綾雪おしいっ!」
「あーっ!くっそっ!」
後数cm、むしろmm単位かもしれない。ほんのちょっとが越えられない大きな壁となっている。
「この間は一日に二回も自己新だしたのに、どうした?今日は不調だな」
「だってこの間は……」
「なんだ、ドーピングでもしたか?」
「ちょっ、その発言顧問としてどうなのよ?」
「あっはっは、悪い悪いw」
部活の皆の軽口やノリが好きだ。
飛んだ時に見える青空、風を切り落下する感覚、遠ざかる横に伸びた棒を見るのが好きだ。
教室を見上げれば見える鈴橋が好きだ。
そこだけ切り取られたように輝いて見える。
それが植野の大好きな棒高跳び。
だけど今日は一つだけ足りない。栽培部は休日は交代制で整備に来るのだが、今日は鈴橋の担当ではない。
したがって教室の窓から覗く鈴橋の姿はあるわけがないのだ。
「がっくんがいないと自己新も出ないとか…どれだけ俺格好つけたがりなんだろうね」
小さく自嘲気味に呟いて、再び自己最高記録を塗り替えるために勢いをつけて走りだした。
『大丈夫、俺は飛べるっ!』
意気込んで棒を地面に着けた瞬間、視界の先にとある人物を捕らえた。
「っ!?」
その人物に気をとられ、見事バーに激突しながらマットに倒れこんだ。
「ちょっ、植野大丈夫かっ!?」
「いきなりどうした?」
「あっ…あ、いや…」
バーを背中に引いたまま、呆然と校舎から見える裏門を凝視していた。
見間違いか…いや、でも自分が彼を見間違う事などあり得るだろうか?
「お、おい植野?」
「あっ、あぁ、大丈夫」
マットの上で呆然としていた事に気がつき急いで立ち上がった。
もう一度裏門へ目を向けるが誰もいない。
ついに幻覚迄見るようになったか…植野は首をふって再び練習へと戻った。
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