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魔王軍始動

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 俺達はレベル上げのためのダンジョン周回と、ノエルに鍛えられる日々を過ごしていた。

 そんなある日、魔王の配下の三人がナロッパニア王国、カークヨムルド王国、アルパリス王国の王都に進軍の準備をしているのがノエルによって知らされる。

 ノエルが、俺のスキル『物知りさん』の権能を、魂のハーネスを通して使っているのだが、遠く離れた所の出来事だろうと、正確に知ることができるとは便利なスキルだ。

 以前、自分で『物知りさん』を使おうとしたときは、目の前に意味不明な文字が大量に出てきて、全く理解できなかった。その時に必要な情報を手に入れられるは『検索スキル』を持っているノエルのみだということが良く分かった。

「ノエルの能力って便利だな」

「まぁね。とは言ってもこれはカイトのスキルを、私が使っているだけなんだけどね」

 ノエルは得意げに胸を張って笑う。うむ、かわいいな。それにしても、俺のスキルなのに俺が直接使えないようにするあたり、あの女神の性格の悪さが伺える。いや、この能力の有能っぷりを考えれば、何らかの制約を与えるのも当然なのか?

 俺が考え事をしていると、ノエルは話を進めだしたので、そちらに意識を持って行く。

「奴ら、自分が管理しているダンジョンから大量のモンスターを排出して、攻撃の準備をしている」

「例のディアージェスとかっていう奴? リーゼロッテは厨二っぽい感じだったから、ノリノリだろうな」

「ちなみに魔王は今回の進軍を知らない。ディアージェス三人が、勝手にやっているみたいよ」

「配下が勝手に行動って……」

「彼女達は強固な信念を持った集団じゃなくて、女神の手の上で遊ばれているただの駒だから。でもレベルは高いから、ラングザードかベイルスティングで斬って、私たちのレベル上げの足しにしよう」

「しかし……、奴らは元人間だしリーゼロッテも俺と同じ転生者なんだろ? 殺すのはちょっとね……」

 ノエルは厳しい視線を俺に向ける。

「あのね、いくらあの魔王が可愛い女の子だからって、手心を加えたらだめだからね。放っておけばモンスターの軍勢と共に、多くの人間を虐殺するよ。私は20年前守り切れなかった街の人々がどうなったのか、嫌というほど見てきたんだから」

「今はラプラスの記録を見て正確に魔王軍の動きが把握できるし、魂のハーネスによってそれを瞬時に仲間と共有できる。戦力だって、20年前の勇者たち以上に私たちは強い。だから今回は必ず守り切る。奴らに容赦なんて必要ないわ! 殲滅するわよ!」 

 20年前の悲惨な状況を思い出しているのだろうか。ノエルの強い意志の込められた言葉に、俺は「分かった」と頷くしかなかった。

「奴ら、三か所に分かれているんだろ? 俺達も三組に分かれて攻撃しに行く?」

「いいえ、一か所づつ全員で行って確実に倒すわよ。奴らが進軍を始めるのは、それぞれの王都を落とすのに十分なモンスターを揃えてからになる。あと1~2日あるわ。軍勢が王都に到達するまでにはさらに2~3日かかるから、時間的には余裕があるし」

「進軍が早い順から潰しましょう。まずはアルパリス、次にカークヨムルド、最後にナロッパニアに行くわよ!」

「了解!!」

 ノエルの号令の下、俺達はアルパリス王国へ飛んだ。



 * * *



 魔王城にある会議室にて、ディアージェス四人が集まって話をしている。

 そのうちの一人ラフィードは、侵攻の準備をしている他の三人に怒りを露わにして、声を荒げていた。

「なぜ進軍の準備などしているのですか!? そのような命令はフォルトゥナ様からもリーゼ様からも受けていないでしょう!」

 イグニスは机に頬杖をついて、面倒くさそうな顔でラフィードに応える。

「女神様からは、好きなようにやっていいって言われてるぜ? どうせ人間どもは滅ぼすつもりなんだから、少しそれが早くなって問題あるのか?」

「戦いを仕掛けるのは、リーゼ様が力を使いこなせるようになってからだと言っているでしょう! 今のリーゼ様を勇者と戦わせるわけにはいきません!」

 腕を組み、黙って様子を伺っていたバルガロスは、不機嫌そうに口を開いた。

「ラフィード、何でお前がそんなことを仕切る? 女神様の指示は、あの小娘魔王ちゃんが転生者のカイトと、復活した勇者を殺すのを手伝えとのことだったはず」

 ラフィードは苛立ちを堪えられず立ち上がると「くっ、貴様!」と、攻撃的な波動を放って威圧した。するとレクトールが、ラフィードをなだめるように手を前に出す。

「まぁまぁ、そんなに熱くなるなよラフィードさんよ? 確かにあの小娘魔王は顔も体も極上だが、俺達四人交代で相手だし、お姫様扱いしてやらないとだから面倒だろ? 王都を潰したついでに女をかっさらってきて少し遊ぶだけだ」

 イグニスも、面倒くさそうに欠伸をしながらレクトールに続く。

「そうそう。俺達はダンジョンマスターとかいうしょうもないことを、もう何十年もさせられて禁欲生活してるんだ。せっかく自由にしていいって言われてるんだし、少しくらいガス抜きさせてくれよ?」

 ラフィードは「しかし!」と到底認められないといった様子だ。するとレクトールはククッと鼻で笑う。

「お前は、あの小娘魔王に本気で惚れてるみたいだしな。そんなにあの小娘魔王が大切なら、お前にナイトの役を任せてやるよ。その代わり俺達には好きにさせてくれ」

「待て!!」

 ラフィードの必死の説得も届かず、バルバトス、レクトール、イグニスの三人は自分の管理するダンジョンへと転移していった。

「リーゼロッテ様……。あなたは私めが必ずお守りいたします」

 一人残されたラフィードは、拳を強く握りそう呟くのだった。
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