上 下
69 / 85

兄様の襲撃

しおりを挟む
 アダマンタイトをゲットし神器の作成をするべく、ノエル主導の元、みんなで準備をしている。

 まずはウィツモ渓谷のダンジョンから持って帰ってきた瓦礫から、アダマンタイトを精製する作業をしているのだが、この作業にはレイナのスキルを使うので、大量のコアが必要だ。でも、アダマンタイトを直接作るのと比べると、十分の一程度で済むらしい。

 ノエルとレイナはアダマンタイトの生成にかかりっきりだが、俺を含めた他のみんなは、コア集めの為に連日手分けして各地のダンジョンに潜った。

 最近は、誰が一番コアを集められるか勝負になっている。それぞれが、一人でもダンジョンの最深部まで余裕で攻略出来るようになった証拠であり、とても頼もしく感じる。

 ちなみにAランク冒険者は、人数制限のあるダンジョンでも一人で潜れるという特権がある。わざわざAランク昇級試験を受けておいてよかった。

 そんなこんなで一週間コア集めをして、ようやく必要量のアダマンタイトを精製することができた。

 アダマンタイトが生成出来たら、ようやく俺の剣を修復する準備に取り掛かれる。

 修復のためには、特別な魔法陣を魔力を込めて描かないといけない。かなり大きなもので、屋敷の敷地の一角を整地して魔法陣を作成している。 

 俺はノエルの指示に従って魔力を込めながら線を引いていると、強い波動の持ち主がこの屋敷に近づいてきているのを感じた。

「ノエル、誰かこっちに近づいてるね」

「フィリスのお兄さんが、神槍グングニルを奪いに来るみたいね」

「えー、こりないなぁ」

「ここに来られると邪魔だし、準備中の魔法陣を傷つけられたら嫌だから、追い払ってきて」

「了解。ちょっと行ってくるよ」

 俺とノエルのやり取りを聞いていたフィリスが、申し訳なさそうな顔をする。

「あの……、私が一人で行って追い返してくるよ」

 フィリスの実力なら、万に一つも負けないだろうけど、なんとなく心配だな。

「一人では行かせられないよ。一緒に行こう」

 するとクレアは目を輝かせて、元気に「私も行きます!」と挙手した。するとノエルはクレアの首根っこをつかんで引きとめる。

「クレアは魔法陣を描くのを手伝って。大きい魔方陣が必要だから、みんなで手分けして描くよ」

「はい……」

 クレアはしょんぼりとしたので「すぐ戻ってくるから、ノエルを手伝っててね」と頭を撫でてやった。 

「フィリスのお兄さんに後れを取るとは思えないけど、油断しないでね!」

 マユが言うので俺は「ああ、行ってきます」と返して屋敷を出た。




 * * *



 フィリスと手をつなぎ、魔力を合わせてお兄さんのいる方角へ飛び立った。こうして直にフィリスの魔力に触れていると、以前よりもかなり強くなっているのが分かる。連日ダンジョンの最深部まで、一人で潜っているからだろう。

 ほどなくして、フィリスのお兄さんを発見したので地表に降りる。

「こんにちは、お義兄さん。ご機嫌いかが?」

「貴様にお義兄さんと呼ばれる筋合いはない!」

 俺が笑顔で声を掛けると、あからさまに機嫌が悪そうに応える。

「でも俺、お義兄さんの名前知らんしなぁ……」

「我が名はアルベルト=エラッソス。次期エラッソス公爵家の当主だ!」

「どうも。ご丁寧に」

 アルベルトは俺を無視して、フィリスに向く。

「フィリス……。神槍をこの私に返せ」

 フィリスが神槍グングニルを取り出して、先端をアルベルトに向ける。

「神槍はもう私を持ち主として認めています。渡したところで兄様は使えません」

「持ち主が死亡すれば、誰の物でもなくなるのだろう? そうしたら俺を持ち主として認めさせてやる」

 アルベルトの物騒な物言いに、俺はイラついたので「実の妹を手にかけるつもりか?」と問う。

「フン、その槍は本来エラッソス家当主が手にするものだ。バカな妹が勝手に持ち出したのが悪いのだ」

 俺が反論しようとすると、フィリスは俺の手を握って制する。そしてフィリスは余裕たっぷりでアルベルトに問う。

「それで? 私と決闘でもするつもりですか?」

「そうだ。以前の私と同じだと思うなよ!」

 アルベルトはマジックバックから何かを取り出した。青い金属の塊に見えるが……魔道具か?

 アルベルトがそれを天に掲げると、強烈な魔力が解放され、青い全身鎧がアルベルトの体を包んだ。アルベルトから感じる波動が大幅に上昇している。魔王リーゼロッテには及ばないが、それに近い物がある。

 アルベルトは続けてマジックバックから、赤黒い宝玉のようなものを取り出した。あれも何かの魔道具か?

 アルベルトは俺に向かってそれを放り投げると、空中で砕け五つの光弾となって速度を上げ、俺に向かって飛んできた。

 俺がそれを回避すると、光弾は向きを変えて追尾してきた。だったら破壊するまでだ。

 俺はグロージャベリンを連射し光弾の迎撃を試みるが、光弾はそれを粉砕しながら俺に迫る。

 あれ、俺の神聖魔法を弾いた? 並の魔道具にそんなこと出来るのか!?

 五つの光弾は、かなりの速度で俺に次々に迫ってくる。ついに回避しきれなくり光弾が俺に命中すると、一辺が5mくらいの赤黒いピラミッド型の結界に閉じ込められてしまった。

 ほー、結界ね……。とりあえず魔法でもぶつけてみるか。

「ペネレイトグリーム」

 結界は破壊どころか傷一つ付かない。ペネレイトグリームでも破壊できないのか。かなり強力な結界のようだ。ならば……

 折れたベイルスティングを取り出して魔装術を発動、結界に思い切り叩きつける。ギィン! と衝撃音が起こるが、やはりびくともしないな。

 さて、どうするか……。俺が結界の壁に手を当て考えていると、アルベルトが得意げに語りだした。

「結界内にとらわれた人物の能力を、全て10分の1に弱めるデバフ付きだ! そのうえ結界内の空気が徐々に抜けていき20分ほどで真空になる。いかに貴様が強かろうとも、呼吸できなければ死ぬはずだ!」

 なんてチートな魔道具だ。さすが公爵家、凄い魔道具を持っているんだなぁ……。と感心していると、フィリスが叫んだ。

「兄様、どこでそんな強力な魔道具を!?」

「魔王軍のラフィード殿にいただいたのだ」

「魔王と手を組んだの!? 信じられない!」

 フィリスの非難を受けながらも、アルベルトはしたり顔で言い放つ。

「フッ、手を組んだわけじゃないさ。いいように利用してやったのだ」

 あ、コレ、いいように利用された奴のセリフだね。俺のジト目をよそにアルベルトは嬉しそうに続ける。

「いかに貴様が強かろうと、息が出来なければ死ぬ。せいぜいあがいて見せろ!」

 あー、盲点だった。アイギスの盾があっても、それなら確かに死んじゃうね。俺は全力で結界の破壊を試みたけど、びくともしなかった。なんか体が重いし、攻撃の威力も弱くなっている気がする。

 中からどうにもできないんじゃ仕方ない。ここはフィリスを信じて待つとしよう。

 俺のスキル『先生』のおかげで、フィリスの成長率にはプラス補正が掛かっている。なのでフィリスのレベルと同程度の相手ならステータスは彼女の方が高いはずだ。

 さらに今のフィリスは『勇者』のチートスキルを持っている。ノエルの言葉をそのまま使うなら超越者だ。あの魔道具の鎧がチート級の性能だったとしても、アルベルト自体のスペックはたいしたことはないのでフィリスは負けないだろう。

「ごめん、フィリス! 悪いけどお義兄さんをぶっ倒して!」

 俺は応援がてら、フィリスに手を振りながら声を掛ける。すると、フィリスはアルベルトに向かって俯き加減で低い声を出す。

「カイトを……、解放しろ……」

 それを受けて挑発するお兄さん。

「ハッ、解放したけりゃ俺を倒してみせろ!」

「今すぐ……、今すぐカイトを解放しろー!!」

 フィリス、なんか凄い顔で怒ってるな……。あんな風に怒るフィリスは見たこと無い。だがそれもまた綺麗だな。まぁ、笑ってる方が綺麗だけどね。

 紫の稲妻を伴うオーラがフィリスを覆った。強烈な魔力の波動が広がって周囲にあるものをなぎ倒す。

 アルベルトはビビッて半歩下がるも、踏ん張って槍を構えた。

「勝負だ! フィリス!」

「カイトは私の一番大切な人! 傷つけるというなら、何者も許さない!!」

 フィリスは叫び、更に魔力を増大させてそれを神槍グングニルに集中させていく。

 その時、俺の中に温かい何かが繋がれたような気がした。あ、この感じ……。フィリスと魂のハーネスが繋がったのか? 間違いない。フィリスの魔力を直に感じられる。

 やったね! と俺が喜んでいると、結界の外では怒り荒ぶるフィリスの魔力によって顕現した雷で凄いことになっている。この中の方が逆に安全なのでは? と思ってしまうほどだ。

「神器の雷光! ネメシスイグナイト!!」

 フィリスが気合を入れて神槍グングニルを一突きすると、アルベルトに向かって一直線に稲妻が走る。

 アルベルトの纏う雷属性魔法の魔装術かき消して、魔王軍にもらったという鎧も粉砕した。アルベルトは吹き飛んできりもみ状に回転しながら、地面に叩きつけられた。

 あれはかなり痛いだろうなぁ……。俺もフィリスを怒らせないように気を付けないとな。

 アルベルトを行動不能にしたフィリスは、すぐに俺が閉じ込められている結界に駆け寄ってきた。そして神槍グングニルで、ピラミッド型の頂点部分にある魔力の塊を破壊した。

 するとあっさり結界は消滅する。中からは壊しにくいが、外からは脆いのか。

 俺は息を切らしているフィリスに笑いかける。

「助かったよ。ありがとね!」

 フィリスは安心したのか、表情を緩めると俺に思い切り抱き着いた。

「カイト! 無事で本当に良かった!」

 んごぅ! フィリスの締め上げる腕によって、俺の背骨が軋む。ステータスが上がりすぎるのも少々問題だな……。

「カイトはあの結界にとらわれても、落ち着いているように見えたけど、空気が無くなって死ぬのが怖くなかったの?」

「ああ、だってフィリスが何とかしてくれるって信じてたから」

 フィリスは目を輝かせて「うん!」と俺に抱き着く腕の力を強めていく。俺はフィリスの背中をポンポンと優しく叩いてなだめるのだった。



 * * *



 倒れているアルベルトに俺とフィリスは近寄る。彼は倒れたまま、すがるように話し出した。

「今回のことは私の独断で、父上は知らん。エラッソス公爵家には関係のないことだ。だからエラッソス公爵家に報復はしないでくれ」

「どうでもいいよ、そんなこと。俺達もやらないきゃいけないことがあるから、お前らの相手なんかしてられないんだ」

 それを聞いたアルベルトはホッとしたのか、そのまま意識を失った。死なれても気分が悪いので、一応治癒魔法を掛けておいた。

「兄様もそれなりに力はあるから、目が覚めたら自力で帰れるよ。放っておこう」

「ああ、分かった」

 アルベルトを放置して帰ることにした俺達は、手をつなぎ屋敷に向かって飛ぶ。少し飛んだところで俺はふと思った。

「最近はフィリスと二人きりになることもあまりないから、たまにはのんびり歩こうか?」

「え、いいの?」

 フィリスは嬉しそうに、パッと花が咲いたような笑顔を見せる。やっぱりフィリスはそういう表情の方がかわいいよな。

 地上に降りて歩いていると、フィリスは申し訳なさそうに俺を見る。

「ごめんね、私の家のせいで面倒かけたよね」

「別に気にすることじゃないよ。いいこともあったし」

 俺はそう言って横に首を振った後、フィリスの目を見ながら、心の中で話しかけた。

「気付いてる? フィリスも俺と魂のハーネスでつながったんだよ」

 フィリスは目を丸くして驚いたかと思うと、満面の笑みで俺に飛びついてきた。俺の胸に顔を押し付けながら、何度も「嬉しい」と言葉にならない声を繰り返していた。俺はフィリスが落ち着くまで彼女の頭を撫でていた。

 お義兄さんの襲撃はやれやれだったけど、フィリスと魂のハーネスが繋がったことは思わぬ収穫だった。そんなことを思いながら帰路についたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

エラーから始まる異世界生活

KeyBow
ファンタジー
45歳リーマンの志郎は本来異世界転移されないはずだったが、何が原因か高校生の異世界勇者召喚に巻き込まれる。 本来の人数より1名増の影響か転移処理でエラーが発生する。 高校生は正常?に転移されたようだが、志郎はエラー召喚されてしまった。 冤罪で多くの魔物うようよするような所に放逐がされ、死にそうになりながら一人の少女と出会う。 その後冒険者として生きて行かざるを得ず奴隷を買い成り上がっていく物語。 某刑事のように”あの女(王女)絶対いずれしょんべんぶっ掛けてやる”事を当面の目標の一つとして。 実は所有するギフトはかなりレアなぶっ飛びな内容で、召喚された中では最強だったはずである。 勇者として活躍するのかしないのか? 能力を鍛え、復讐と色々エラーがあり屈折してしまった心を、召還時のエラーで壊れた記憶を抱えてもがきながら奴隷の少女達に救われるて変わっていく第二の人生を歩む志郎の物語が始まる。 多分チーレムになったり残酷表現があります。苦手な方はお気をつけ下さい。 初めての作品にお付き合い下さい。

【R18】清掃員加藤望、社長の弱みを握りに来ました!

Bu-cha
恋愛
ずっと好きだった初恋の相手、社長の弱みを握る為に頑張ります!!にゃんっ♥ 財閥の分家の家に代々遣える“秘書”という立場の“家”に生まれた加藤望。 ”秘書“としての適正がない”ダメ秘書“の望が12月25日の朝、愛している人から連れてこられた場所は初恋の男の人の家だった。 財閥の本家の長男からの指示、”星野青(じょう)の弱みを握ってくる“という仕事。 財閥が青さんの会社を吸収する為に私を任命した・・・!! 青さんの弱みを握る為、“ダメ秘書”は今日から頑張ります!! 関連物語 『お嬢様は“いけないコト”がしたい』 『“純”の純愛ではない“愛”の鍵』連載中 『雪の上に犬と猿。たまに男と女。』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高11位 『好き好き大好きの嘘』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高36位 『約束したでしょ?忘れちゃった?』 エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高30位 ※表紙イラスト Bu-cha作

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

このステータスプレート壊れてないですか?~壊れ数値の万能スキルで自由気ままな異世界生活~

夢幻の翼
ファンタジー
 典型的な社畜・ブラックバイトに翻弄される人生を送っていたラノベ好きの男が銀行強盗から女性行員を庇って撃たれた。  男は夢にまで見た異世界転生を果たしたが、ラノベのテンプレである神様からのお告げも貰えない状態に戸惑う。  それでも気を取り直して強く生きようと決めた矢先の事、国の方針により『ステータスプレート』を作成した際に数値異常となり改ざん容疑で捕縛され奴隷へ落とされる事になる。運の悪い男だったがチート能力により移送中に脱走し隣国へと逃れた。  一時は途方にくれた少年だったが神父に言われた『冒険者はステータスに関係なく出来る唯一の職業である』を胸に冒険者を目指す事にした。  持ち前の運の悪さもチート能力で回避し、自分の思う生き方を実現させる社畜転生者と自らも助けられ、少年に思いを寄せる美少女との恋愛、襲い来る盗賊の殲滅、新たな商売の開拓と現実では出来なかった夢を異世界で実現させる自由気ままな異世界生活が始まります。

所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!

ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。 幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。 婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。 王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。 しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。 貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。 遠回しに二人を注意するも‥ 「所詮あなたは他人だもの!」 「部外者がしゃしゃりでるな!」 十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。 「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」 関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが… 一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。 なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…

【R18】幼馴染の魔王と勇者が、当然のようにいちゃいちゃして幸せになる話

みやび
恋愛
タイトル通りのエロ小説です。 ほかのエロ小説は「タイトル通りのエロ小説シリーズ」まで

【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで

あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。 連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。 ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。 IF(7話)は本編からの派生。

転生皇太子は、虐待され生命力を奪われた聖女を救い溺愛する。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

処理中です...