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兄様の襲撃

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 アダマンタイトをゲットし神器の作成をするべく、ノエル主導の元、みんなで準備をしている。

 まずはウィツモ渓谷のダンジョンから持って帰ってきた瓦礫から、アダマンタイトを精製する作業をしているのだが、この作業にはレイナのスキルを使うので、大量のコアが必要だ。でも、アダマンタイトを直接作るのと比べると、十分の一程度で済むらしい。

 ノエルとレイナはアダマンタイトの生成にかかりっきりだが、俺を含めた他のみんなは、コア集めの為に連日手分けして各地のダンジョンに潜った。

 最近は、誰が一番コアを集められるか勝負になっている。それぞれが、一人でもダンジョンの最深部まで余裕で攻略出来るようになった証拠であり、とても頼もしく感じる。

 ちなみにAランク冒険者は、人数制限のあるダンジョンでも一人で潜れるという特権がある。わざわざAランク昇級試験を受けておいてよかった。

 そんなこんなで一週間コア集めをして、ようやく必要量のアダマンタイトを精製することができた。

 アダマンタイトが生成出来たら、ようやく俺の剣を修復する準備に取り掛かれる。

 修復のためには、特別な魔法陣を魔力を込めて描かないといけない。かなり大きなもので、屋敷の敷地の一角を整地して魔法陣を作成している。 

 俺はノエルの指示に従って魔力を込めながら線を引いていると、強い波動の持ち主がこの屋敷に近づいてきているのを感じた。

「ノエル、誰かこっちに近づいてるね」

「フィリスのお兄さんが、神槍グングニルを奪いに来るみたいね」

「えー、こりないなぁ」

「ここに来られると邪魔だし、準備中の魔法陣を傷つけられたら嫌だから、追い払ってきて」

「了解。ちょっと行ってくるよ」

 俺とノエルのやり取りを聞いていたフィリスが、申し訳なさそうな顔をする。

「あの……、私が一人で行って追い返してくるよ」

 フィリスの実力なら、万に一つも負けないだろうけど、なんとなく心配だな。

「一人では行かせられないよ。一緒に行こう」

 するとクレアは目を輝かせて、元気に「私も行きます!」と挙手した。するとノエルはクレアの首根っこをつかんで引きとめる。

「クレアは魔法陣を描くのを手伝って。大きい魔方陣が必要だから、みんなで手分けして描くよ」

「はい……」

 クレアはしょんぼりとしたので「すぐ戻ってくるから、ノエルを手伝っててね」と頭を撫でてやった。 

「フィリスのお兄さんに後れを取るとは思えないけど、油断しないでね!」

 マユが言うので俺は「ああ、行ってきます」と返して屋敷を出た。




 * * *



 フィリスと手をつなぎ、魔力を合わせてお兄さんのいる方角へ飛び立った。こうして直にフィリスの魔力に触れていると、以前よりもかなり強くなっているのが分かる。連日ダンジョンの最深部まで、一人で潜っているからだろう。

 ほどなくして、フィリスのお兄さんを発見したので地表に降りる。

「こんにちは、お義兄さん。ご機嫌いかが?」

「貴様にお義兄さんと呼ばれる筋合いはない!」

 俺が笑顔で声を掛けると、あからさまに機嫌が悪そうに応える。

「でも俺、お義兄さんの名前知らんしなぁ……」

「我が名はアルベルト=エラッソス。次期エラッソス公爵家の当主だ!」

「どうも。ご丁寧に」

 アルベルトは俺を無視して、フィリスに向く。

「フィリス……。神槍をこの私に返せ」

 フィリスが神槍グングニルを取り出して、先端をアルベルトに向ける。

「神槍はもう私を持ち主として認めています。渡したところで兄様は使えません」

「持ち主が死亡すれば、誰の物でもなくなるのだろう? そうしたら俺を持ち主として認めさせてやる」

 アルベルトの物騒な物言いに、俺はイラついたので「実の妹を手にかけるつもりか?」と問う。

「フン、その槍は本来エラッソス家当主が手にするものだ。バカな妹が勝手に持ち出したのが悪いのだ」

 俺が反論しようとすると、フィリスは俺の手を握って制する。そしてフィリスは余裕たっぷりでアルベルトに問う。

「それで? 私と決闘でもするつもりですか?」

「そうだ。以前の私と同じだと思うなよ!」

 アルベルトはマジックバックから何かを取り出した。青い金属の塊に見えるが……魔道具か?

 アルベルトがそれを天に掲げると、強烈な魔力が解放され、青い全身鎧がアルベルトの体を包んだ。アルベルトから感じる波動が大幅に上昇している。魔王リーゼロッテには及ばないが、それに近い物がある。

 アルベルトは続けてマジックバックから、赤黒い宝玉のようなものを取り出した。あれも何かの魔道具か?

 アルベルトは俺に向かってそれを放り投げると、空中で砕け五つの光弾となって速度を上げ、俺に向かって飛んできた。

 俺がそれを回避すると、光弾は向きを変えて追尾してきた。だったら破壊するまでだ。

 俺はグロージャベリンを連射し光弾の迎撃を試みるが、光弾はそれを粉砕しながら俺に迫る。

 あれ、俺の神聖魔法を弾いた? 並の魔道具にそんなこと出来るのか!?

 五つの光弾は、かなりの速度で俺に次々に迫ってくる。ついに回避しきれなくり光弾が俺に命中すると、一辺が5mくらいの赤黒いピラミッド型の結界に閉じ込められてしまった。

 ほー、結界ね……。とりあえず魔法でもぶつけてみるか。

「ペネレイトグリーム」

 結界は破壊どころか傷一つ付かない。ペネレイトグリームでも破壊できないのか。かなり強力な結界のようだ。ならば……

 折れたベイルスティングを取り出して魔装術を発動、結界に思い切り叩きつける。ギィン! と衝撃音が起こるが、やはりびくともしないな。

 さて、どうするか……。俺が結界の壁に手を当て考えていると、アルベルトが得意げに語りだした。

「結界内にとらわれた人物の能力を、全て10分の1に弱めるデバフ付きだ! そのうえ結界内の空気が徐々に抜けていき20分ほどで真空になる。いかに貴様が強かろうとも、呼吸できなければ死ぬはずだ!」

 なんてチートな魔道具だ。さすが公爵家、凄い魔道具を持っているんだなぁ……。と感心していると、フィリスが叫んだ。

「兄様、どこでそんな強力な魔道具を!?」

「魔王軍のラフィード殿にいただいたのだ」

「魔王と手を組んだの!? 信じられない!」

 フィリスの非難を受けながらも、アルベルトはしたり顔で言い放つ。

「フッ、手を組んだわけじゃないさ。いいように利用してやったのだ」

 あ、コレ、いいように利用された奴のセリフだね。俺のジト目をよそにアルベルトは嬉しそうに続ける。

「いかに貴様が強かろうと、息が出来なければ死ぬ。せいぜいあがいて見せろ!」

 あー、盲点だった。アイギスの盾があっても、それなら確かに死んじゃうね。俺は全力で結界の破壊を試みたけど、びくともしなかった。なんか体が重いし、攻撃の威力も弱くなっている気がする。

 中からどうにもできないんじゃ仕方ない。ここはフィリスを信じて待つとしよう。

 俺のスキル『先生』のおかげで、フィリスの成長率にはプラス補正が掛かっている。なのでフィリスのレベルと同程度の相手ならステータスは彼女の方が高いはずだ。

 さらに今のフィリスは『勇者』のチートスキルを持っている。ノエルの言葉をそのまま使うなら超越者だ。あの魔道具の鎧がチート級の性能だったとしても、アルベルト自体のスペックはたいしたことはないのでフィリスは負けないだろう。

「ごめん、フィリス! 悪いけどお義兄さんをぶっ倒して!」

 俺は応援がてら、フィリスに手を振りながら声を掛ける。すると、フィリスはアルベルトに向かって俯き加減で低い声を出す。

「カイトを……、解放しろ……」

 それを受けて挑発するお兄さん。

「ハッ、解放したけりゃ俺を倒してみせろ!」

「今すぐ……、今すぐカイトを解放しろー!!」

 フィリス、なんか凄い顔で怒ってるな……。あんな風に怒るフィリスは見たこと無い。だがそれもまた綺麗だな。まぁ、笑ってる方が綺麗だけどね。

 紫の稲妻を伴うオーラがフィリスを覆った。強烈な魔力の波動が広がって周囲にあるものをなぎ倒す。

 アルベルトはビビッて半歩下がるも、踏ん張って槍を構えた。

「勝負だ! フィリス!」

「カイトは私の一番大切な人! 傷つけるというなら、何者も許さない!!」

 フィリスは叫び、更に魔力を増大させてそれを神槍グングニルに集中させていく。

 その時、俺の中に温かい何かが繋がれたような気がした。あ、この感じ……。フィリスと魂のハーネスが繋がったのか? 間違いない。フィリスの魔力を直に感じられる。

 やったね! と俺が喜んでいると、結界の外では怒り荒ぶるフィリスの魔力によって顕現した雷で凄いことになっている。この中の方が逆に安全なのでは? と思ってしまうほどだ。

「神器の雷光! ネメシスイグナイト!!」

 フィリスが気合を入れて神槍グングニルを一突きすると、アルベルトに向かって一直線に稲妻が走る。

 アルベルトの纏う雷属性魔法の魔装術かき消して、魔王軍にもらったという鎧も粉砕した。アルベルトは吹き飛んできりもみ状に回転しながら、地面に叩きつけられた。

 あれはかなり痛いだろうなぁ……。俺もフィリスを怒らせないように気を付けないとな。

 アルベルトを行動不能にしたフィリスは、すぐに俺が閉じ込められている結界に駆け寄ってきた。そして神槍グングニルで、ピラミッド型の頂点部分にある魔力の塊を破壊した。

 するとあっさり結界は消滅する。中からは壊しにくいが、外からは脆いのか。

 俺は息を切らしているフィリスに笑いかける。

「助かったよ。ありがとね!」

 フィリスは安心したのか、表情を緩めると俺に思い切り抱き着いた。

「カイト! 無事で本当に良かった!」

 んごぅ! フィリスの締め上げる腕によって、俺の背骨が軋む。ステータスが上がりすぎるのも少々問題だな……。

「カイトはあの結界にとらわれても、落ち着いているように見えたけど、空気が無くなって死ぬのが怖くなかったの?」

「ああ、だってフィリスが何とかしてくれるって信じてたから」

 フィリスは目を輝かせて「うん!」と俺に抱き着く腕の力を強めていく。俺はフィリスの背中をポンポンと優しく叩いてなだめるのだった。



 * * *



 倒れているアルベルトに俺とフィリスは近寄る。彼は倒れたまま、すがるように話し出した。

「今回のことは私の独断で、父上は知らん。エラッソス公爵家には関係のないことだ。だからエラッソス公爵家に報復はしないでくれ」

「どうでもいいよ、そんなこと。俺達もやらないきゃいけないことがあるから、お前らの相手なんかしてられないんだ」

 それを聞いたアルベルトはホッとしたのか、そのまま意識を失った。死なれても気分が悪いので、一応治癒魔法を掛けておいた。

「兄様もそれなりに力はあるから、目が覚めたら自力で帰れるよ。放っておこう」

「ああ、分かった」

 アルベルトを放置して帰ることにした俺達は、手をつなぎ屋敷に向かって飛ぶ。少し飛んだところで俺はふと思った。

「最近はフィリスと二人きりになることもあまりないから、たまにはのんびり歩こうか?」

「え、いいの?」

 フィリスは嬉しそうに、パッと花が咲いたような笑顔を見せる。やっぱりフィリスはそういう表情の方がかわいいよな。

 地上に降りて歩いていると、フィリスは申し訳なさそうに俺を見る。

「ごめんね、私の家のせいで面倒かけたよね」

「別に気にすることじゃないよ。いいこともあったし」

 俺はそう言って横に首を振った後、フィリスの目を見ながら、心の中で話しかけた。

「気付いてる? フィリスも俺と魂のハーネスでつながったんだよ」

 フィリスは目を丸くして驚いたかと思うと、満面の笑みで俺に飛びついてきた。俺の胸に顔を押し付けながら、何度も「嬉しい」と言葉にならない声を繰り返していた。俺はフィリスが落ち着くまで彼女の頭を撫でていた。

 お義兄さんの襲撃はやれやれだったけど、フィリスと魂のハーネスが繋がったことは思わぬ収穫だった。そんなことを思いながら帰路についたのだった。
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