68 / 85
ウィツモ渓谷のダンジョン(後編)
しおりを挟む
アイリと二人でダンジョン最深部を目指している。アイリは気合が入っていて、現れるモンスターをあっという間に一掃してくれている。そのおかげで順調に進むことができた。
ノエルとレイナとは、魂のハーネス経由の念話で連絡し合いながら進んだ。彼女たちも問題ないそうだ。
そして50階層に到達。天井が見えない程高くなっている、開けた空間があった。そこには全身黒い格好の男が立っている。
「私は魔王様配下、ディアージェスの一人『常闇』バルガロスと申します」
肩書に二つ名か……。きっとこいつも拗らせてしまったのだろう。気持ちは分かるが、あんまり関わりたくないな。でも魔王の配下って言うくらいだから、向こうは関わる気だろうけど。
「俺を殺しにでも来たのか?」
「いえ、あなたは魔王様が倒すことになっております」
「じゃあ、何しに来たんだ?」
「女神様が殺せと指示する異世界人が、どれほどの者かと思いまして。少し様子を見に」
「さっきの崩落はお前の仕業か?」
「そうです。黒髪の勇者と、銀髪のメイドは少々厄介なので、分断させてもらいました。すこし遊びましょうか? そこの娘は殺しても女神様の決めたルール上は問題ありませんし」
「お前らのルールなんて知るか。アイリを傷つけるつもりなら殺す」
俺は地面を蹴ってバルガロスを急襲。間合いを詰めて腹に拳を叩き込こみ、続けてペネレイトグリームをゼロ距離でぶち込んでやった。バルガロスは光の柱に突き上げられ、吹き飛んで壁に叩きつけられる。
口ほどにもない。と言いたいところだが、妙な違和感がある。感じる波動の強さのわりに、手ごたえが薄い……。
直後、俺の背後に気配を察知。俺は反射的に裏拳で背後を攻撃し命中。奴は派手に吹っ飛び壁に激突した。だがこれも手ごたえは薄い。
吹き飛ばしてやった二人のバルガロスを見ると、黒い靄となって消えた。やはり分身の類か……やれやれ面倒な能力だ。その時俺の背後から囁き声が聞こえる。
「カースバインド」
しまった! と思った時にはもう遅く、俺の背後から黒い触手が伸びてきて、俺の四肢に絡みついた。
俺は拘束を解こうと、魔力を解放して藻掻くが解けない。かなり強力な拘束魔法だ、すぐに抜け出せそうにない。
バルガロスは姿を現すと、俺の目の前に立ち嬉しそうに嘲笑う。
「女神様に聞いていたよりも、ずっと好戦的ですね。どうですか、その拘束魔法の具合は? 早く抜け出さないと、大切な人を守り切れませんよ?」
バルガロスは魔力を両手に凝縮して一気に解放する。高レベルなだけあってかなり強烈な魔力だ。
「シャドウサーヴァント」
奴が言霊を発すると、噴き出した黒い魔力が騎士の形になっていく。無数に現れた影の騎士たちが俺とアイリを取り囲んだ。個々の強さはレベル150程度だと感じるが、数が多すぎる。
動きを封じられていても、俺一人なら何とでもできるが、このままではアイリを守り切れそうにない。
「アイリ逃げろ!!」
しかし、アイリは俺の声を無視して、神弓タスラムを引き絞る。放たれた複数の光の矢は広範囲に散ってバルガロスと影の騎士たちに襲いかかった。バルガロスは光の矢を回避して俺から離れたが、影の騎士たちは光の矢を受けて次々と消滅していく。
アイリが神弓タスラムから撃ちだす攻撃は、少し前の彼女とは比べ物にならない。威力も攻撃範囲も桁違いに強化されていた。彼女も勇者のチートスキルを得たおかげで、短期間で信じられない程強くなっていたのか。
アイリは影の騎士を一掃すると、動けないでいる俺に一瞬で近寄った。魔装術を応用した高速移動術も上手くなっている。魔力の流れに淀がみなく洗練されているな。
俺が「ゴメン、動けなく……」と言いかけたところで、アイリは「カイトのアホー!!」と俺の頭をバシッと叩いた。
俺が「なにするんだよ」とアイリに抗議すると、その顔は怒りに震えていた。
「カイト、私はもうあなたに守られるだけの女じゃないよ!」
アイリはギリと歯を食いしばって、涙を溢し俺の目を真っ直ぐに見る。
「私だってノエルやレイナみたいに、あなたと肩を並べて戦いたいんだ! 私に逃げろなんてもう言わないで!!」
その時、俺の魂に何かが直接触れたような気がした。さらにアイリの魔力の波動が、俺の中に直接流れ込んでくるような感覚があった。
これは……、アイリとも魂のハーネスが繋がってる? 俺は心の中でアイリに語り掛けてみた。
「もしもーし、アイリ、聞こえますかー? どうやら魂のハーネスがアイリとの間にも繋がったみたいだよ」
俺の心の声が届いたのか、アイリは目を見開いた。
「うそ……。あっ、でも、感じる……カイトの魂を直に触れているみたい」
事態を理解したアイリはニターっと顔を緩めた。でも気を緩めるのはまだ早い。まずはバルガロスを倒さなくてはな!
「アイリがこんなにも強くなっていたなんて、知らなかったよ。二人で反撃開始といこうか!」
そうは言っても、俺は自由に動けないのでアイリ頼りになるのだが。ともかく、二人揃ってバルガロスに向く。
「ほぉ、その女が神器をそこまで使いこなせるのなら、影どもを何体出そうと無意味ですね。いいでしょう、この私が直々に相手をしましょう」
バルガロスはそう言うと、片手を上げてアイリに向ける。
「ダークバレット」
あれはリーゼロッテが使っていたの同じ魔法だな。威力はリーゼロッテの魔法よりいくらか弱いが、かなりの速度で連射される魔弾にアイリは対応できるのだろうか。
ところが、そんな俺の心配を他所に、アイリは高速移動を駆使してそれを回避していた。
「ノエルの魔法の方がもっと速くて強いんだから」
そういえば、アイリも毎日のようにノエルにしごかれていたもんな。俺が感心していると、アイリは回避の動作をしながら神弓タスラムを引き絞る。
「こっちからも行くよ! ラジアントバラージ」
アイリは弦を放つと、聖弓から無数の光球が飛び散った。すべてが誘導弾らしくバルガロスを取り囲んで、全方位からから襲いかかる。しかしバルガロスは黒い障壁を展開して、それを防いでしまった。
「なかなかの威力ですね。ですがこの程度では私の障壁は破れません」
「そんなことは、これを喰らってから言ってよね!」
アイリはさっきよりも多くの魔力を神弓タスラムに込める。
「神弓タスラムの固有技、セレスティアルスクレイド」
解き放たれたミサイルのような光の矢は、直後にバルガロスの障壁に衝突した。激しく爆発した後、続けて何度も爆発している。その衝撃でダンジョン内が揺れ動く。
爆炎で巻き上げられた砂煙がおさまると、立っている人影が見えてきた。バルガロスの障壁はひび割れすらしていない。
バルガロスは「フフフ、無駄ですよ」と余裕の笑みを崩さない。
アイリの攻撃力では、バルガロスの防御障壁を貫通できないのか。いや、もし俺が動けたとしても、あれほどの魔力が込められている障壁を壊すのは難しいだろう。魔剣ベイルスティングに、全開の魔装術を込めて攻撃すれば斬れるかもしれないが、魔剣ベイルスティングは折れているしな。
バルガロスは障壁を展開したまま、ダークバレットでアイリを攻撃する。今のところアイリは上手くかわしているが……。
「くっ、このままじゃジリ貧ね」
アイリの顔にも焦りが見えてきた。俺の魔力量を神弓タスラムで増幅して撃ちだせば、破れるかもしれないが……。俺は動けないし、神弓タスラムはアイリを主と認めているだろうから俺は使えない。
……そういえばさっき魂のハーネスがアイリと繋がった時、アイリの魔力が直に感じられた。ノエルは霊的な作用で魂が繋がってるとか言っていたよな。もしかして、魔力を直接アイリに送れるんじゃないのか?
俺には他にできそうなこともないし、試してみるか。俺は念話でアイリに話しかける。
「魂のハーネス経由でアイリに魔力を送るから、それを使って神弓の全力攻撃をアイツにぶちかまして!」
「魂のハーネスで魔力を送るって、そんなことできるの?」
「分からない。でもできそうな気がするんだ。やってみるよ」
俺は意識を集中して、魂のハーネス経由でアイリに魔力を送るイメージをした。すると俺の魔力が魂のハーネスを通して流れ出ている感じがする。手をつないで魔力を混ぜるよりもずっと多くの魔力が移動しているのが分かる。
「ああ、カイトの熱い魔力が、勢いよく私に流れ込んでくる……!」
アイリはぐらりと体を揺らして倒れそうになるが、どうにか踏ん張った。魔力を送れたのは間違いなさそうだが……。
「アイリ! 苦しいのか!?」
「ううん、どっちかって言うと、気持ちいい」
顔を染めて俺に返すアイリ。苦しくないならいいが、なんか様子が変だ。魔力を送るのを一旦やめるか? 俺が躊躇しているのを感じたのか、アイリは俺に向かって叫ぶ。
「カイト! もっと魔力を送って! とびきり強烈なのをアイツに撃ち込んでやるから!」
「なら思いっきり送るからな」
俺は集中してアイリに目いっぱいの魔力を送り込んだ。
「んあぁぁっ、これ、しゅごいぃぃぃー!!」
なんかアイリから、ものすごい声が出ているが、本当に大丈夫なんだろうか?
だがここは彼女を信じるほかない。俺は目いっぱいの魔力をアイリに送り込んだ。アイリは神弓タスラムを構えて、二人分の魔力を集中させた。
「いっけええぇぇぇ!! セレスティアルスクレイド」
俺とアイリの魔力が混じってできた矢は、バルガロスめがけて一直線に飛んでいく。奴の障壁に激突して爆ぜると、矢が砕けて飛び散る。それらの飛び散った無数の光も奴めがけて飛んでいき、次々と連鎖的に爆発した。
先ほどよりも大きな爆発がダンジョンを揺らし、壁や天井が崩れ落ちてきた。あの爆発を凌がれたら、もうどうしようもないな。
煙が収まり人影が見えてきた。バルガロスは立っていた。でも障壁は砕けており、奴も相当なダメージを受けているのは明らかだ。
「まさかこれほどとは……。勝負は預けておきます」
バルガロスは、それだけ言い残して姿を消した。同時に俺の拘束も解かれる。
なにが勝負を預けるだ。完全にアイリの勝ちだっただろ。アイリを見ると、その場に倒れ込んでいた。
俺はアイリに駆け寄って抱き起した。アイリの体は火照っており、汗びっしょりで浅く呼吸している。
「アイリ、しっかりしろ! 大丈夫か!?」
「えへへー、へーきへーき!」
アイリは幸せそうに顔を緩めている。大丈夫なんだろうか?
「私、カイトの魔力でいっぱいになっちゃった」
「ああ、よくやったな」
魂のハーネス経由で魔力を送れるのは発見だった。今のアイリでは俺の全力の魔力に耐えられないようだったが、色々応用できそうだ。
俺がアイリに治癒魔法を掛けつつ、タオルを出して汗を拭いていると、みんなもこの広間に到達した。
みんなは俺とアイリを取り囲んで、何があったのかを口々に問う。俺はここであったことを、みんなに説明した。俺とアイリの間にも、魂のハーネスが発現したことを説明すると一斉にざわついた。
何をやったら魂のハーネスが発現したのか詳しく説明を求められたが、俺もよく分からないので答えようがない。
ノエルは腕を組んで考え込んでいるようだ。
「魂のハーネスの発現の条件はともかく、互いの魔力が流れ合うなんて、とても興味深いわね。また今度、ラプラスの記録で確認してみるね」
クレアは不服そうに頬を膨らます。
「発現の条件はともかくって何ですか!? ノエル様はもう繋がっているからいいかもしれませんが、私もカイト様と繋がりたいんです!」
「ああ、そのことならきっと大丈夫。近いうちにみんなも魂のハーネスが発現するでしょうし。それよりも早くアダマンタイトを持って帰ろう」
俺はこの広間内を見回して「どこにあるの?」とノエルに問う。
「この階層の床とか壁にアダマンタイトが含まれてる。そこらへんに散らばっているガレキをいっぱい持って帰って、あとで精製しよう」
アイリの攻撃の余波で破壊された、壁の残骸の山をアイテムボックスに収納して、俺達はダンジョンから帰還した。
ノエルとレイナとは、魂のハーネス経由の念話で連絡し合いながら進んだ。彼女たちも問題ないそうだ。
そして50階層に到達。天井が見えない程高くなっている、開けた空間があった。そこには全身黒い格好の男が立っている。
「私は魔王様配下、ディアージェスの一人『常闇』バルガロスと申します」
肩書に二つ名か……。きっとこいつも拗らせてしまったのだろう。気持ちは分かるが、あんまり関わりたくないな。でも魔王の配下って言うくらいだから、向こうは関わる気だろうけど。
「俺を殺しにでも来たのか?」
「いえ、あなたは魔王様が倒すことになっております」
「じゃあ、何しに来たんだ?」
「女神様が殺せと指示する異世界人が、どれほどの者かと思いまして。少し様子を見に」
「さっきの崩落はお前の仕業か?」
「そうです。黒髪の勇者と、銀髪のメイドは少々厄介なので、分断させてもらいました。すこし遊びましょうか? そこの娘は殺しても女神様の決めたルール上は問題ありませんし」
「お前らのルールなんて知るか。アイリを傷つけるつもりなら殺す」
俺は地面を蹴ってバルガロスを急襲。間合いを詰めて腹に拳を叩き込こみ、続けてペネレイトグリームをゼロ距離でぶち込んでやった。バルガロスは光の柱に突き上げられ、吹き飛んで壁に叩きつけられる。
口ほどにもない。と言いたいところだが、妙な違和感がある。感じる波動の強さのわりに、手ごたえが薄い……。
直後、俺の背後に気配を察知。俺は反射的に裏拳で背後を攻撃し命中。奴は派手に吹っ飛び壁に激突した。だがこれも手ごたえは薄い。
吹き飛ばしてやった二人のバルガロスを見ると、黒い靄となって消えた。やはり分身の類か……やれやれ面倒な能力だ。その時俺の背後から囁き声が聞こえる。
「カースバインド」
しまった! と思った時にはもう遅く、俺の背後から黒い触手が伸びてきて、俺の四肢に絡みついた。
俺は拘束を解こうと、魔力を解放して藻掻くが解けない。かなり強力な拘束魔法だ、すぐに抜け出せそうにない。
バルガロスは姿を現すと、俺の目の前に立ち嬉しそうに嘲笑う。
「女神様に聞いていたよりも、ずっと好戦的ですね。どうですか、その拘束魔法の具合は? 早く抜け出さないと、大切な人を守り切れませんよ?」
バルガロスは魔力を両手に凝縮して一気に解放する。高レベルなだけあってかなり強烈な魔力だ。
「シャドウサーヴァント」
奴が言霊を発すると、噴き出した黒い魔力が騎士の形になっていく。無数に現れた影の騎士たちが俺とアイリを取り囲んだ。個々の強さはレベル150程度だと感じるが、数が多すぎる。
動きを封じられていても、俺一人なら何とでもできるが、このままではアイリを守り切れそうにない。
「アイリ逃げろ!!」
しかし、アイリは俺の声を無視して、神弓タスラムを引き絞る。放たれた複数の光の矢は広範囲に散ってバルガロスと影の騎士たちに襲いかかった。バルガロスは光の矢を回避して俺から離れたが、影の騎士たちは光の矢を受けて次々と消滅していく。
アイリが神弓タスラムから撃ちだす攻撃は、少し前の彼女とは比べ物にならない。威力も攻撃範囲も桁違いに強化されていた。彼女も勇者のチートスキルを得たおかげで、短期間で信じられない程強くなっていたのか。
アイリは影の騎士を一掃すると、動けないでいる俺に一瞬で近寄った。魔装術を応用した高速移動術も上手くなっている。魔力の流れに淀がみなく洗練されているな。
俺が「ゴメン、動けなく……」と言いかけたところで、アイリは「カイトのアホー!!」と俺の頭をバシッと叩いた。
俺が「なにするんだよ」とアイリに抗議すると、その顔は怒りに震えていた。
「カイト、私はもうあなたに守られるだけの女じゃないよ!」
アイリはギリと歯を食いしばって、涙を溢し俺の目を真っ直ぐに見る。
「私だってノエルやレイナみたいに、あなたと肩を並べて戦いたいんだ! 私に逃げろなんてもう言わないで!!」
その時、俺の魂に何かが直接触れたような気がした。さらにアイリの魔力の波動が、俺の中に直接流れ込んでくるような感覚があった。
これは……、アイリとも魂のハーネスが繋がってる? 俺は心の中でアイリに語り掛けてみた。
「もしもーし、アイリ、聞こえますかー? どうやら魂のハーネスがアイリとの間にも繋がったみたいだよ」
俺の心の声が届いたのか、アイリは目を見開いた。
「うそ……。あっ、でも、感じる……カイトの魂を直に触れているみたい」
事態を理解したアイリはニターっと顔を緩めた。でも気を緩めるのはまだ早い。まずはバルガロスを倒さなくてはな!
「アイリがこんなにも強くなっていたなんて、知らなかったよ。二人で反撃開始といこうか!」
そうは言っても、俺は自由に動けないのでアイリ頼りになるのだが。ともかく、二人揃ってバルガロスに向く。
「ほぉ、その女が神器をそこまで使いこなせるのなら、影どもを何体出そうと無意味ですね。いいでしょう、この私が直々に相手をしましょう」
バルガロスはそう言うと、片手を上げてアイリに向ける。
「ダークバレット」
あれはリーゼロッテが使っていたの同じ魔法だな。威力はリーゼロッテの魔法よりいくらか弱いが、かなりの速度で連射される魔弾にアイリは対応できるのだろうか。
ところが、そんな俺の心配を他所に、アイリは高速移動を駆使してそれを回避していた。
「ノエルの魔法の方がもっと速くて強いんだから」
そういえば、アイリも毎日のようにノエルにしごかれていたもんな。俺が感心していると、アイリは回避の動作をしながら神弓タスラムを引き絞る。
「こっちからも行くよ! ラジアントバラージ」
アイリは弦を放つと、聖弓から無数の光球が飛び散った。すべてが誘導弾らしくバルガロスを取り囲んで、全方位からから襲いかかる。しかしバルガロスは黒い障壁を展開して、それを防いでしまった。
「なかなかの威力ですね。ですがこの程度では私の障壁は破れません」
「そんなことは、これを喰らってから言ってよね!」
アイリはさっきよりも多くの魔力を神弓タスラムに込める。
「神弓タスラムの固有技、セレスティアルスクレイド」
解き放たれたミサイルのような光の矢は、直後にバルガロスの障壁に衝突した。激しく爆発した後、続けて何度も爆発している。その衝撃でダンジョン内が揺れ動く。
爆炎で巻き上げられた砂煙がおさまると、立っている人影が見えてきた。バルガロスの障壁はひび割れすらしていない。
バルガロスは「フフフ、無駄ですよ」と余裕の笑みを崩さない。
アイリの攻撃力では、バルガロスの防御障壁を貫通できないのか。いや、もし俺が動けたとしても、あれほどの魔力が込められている障壁を壊すのは難しいだろう。魔剣ベイルスティングに、全開の魔装術を込めて攻撃すれば斬れるかもしれないが、魔剣ベイルスティングは折れているしな。
バルガロスは障壁を展開したまま、ダークバレットでアイリを攻撃する。今のところアイリは上手くかわしているが……。
「くっ、このままじゃジリ貧ね」
アイリの顔にも焦りが見えてきた。俺の魔力量を神弓タスラムで増幅して撃ちだせば、破れるかもしれないが……。俺は動けないし、神弓タスラムはアイリを主と認めているだろうから俺は使えない。
……そういえばさっき魂のハーネスがアイリと繋がった時、アイリの魔力が直に感じられた。ノエルは霊的な作用で魂が繋がってるとか言っていたよな。もしかして、魔力を直接アイリに送れるんじゃないのか?
俺には他にできそうなこともないし、試してみるか。俺は念話でアイリに話しかける。
「魂のハーネス経由でアイリに魔力を送るから、それを使って神弓の全力攻撃をアイツにぶちかまして!」
「魂のハーネスで魔力を送るって、そんなことできるの?」
「分からない。でもできそうな気がするんだ。やってみるよ」
俺は意識を集中して、魂のハーネス経由でアイリに魔力を送るイメージをした。すると俺の魔力が魂のハーネスを通して流れ出ている感じがする。手をつないで魔力を混ぜるよりもずっと多くの魔力が移動しているのが分かる。
「ああ、カイトの熱い魔力が、勢いよく私に流れ込んでくる……!」
アイリはぐらりと体を揺らして倒れそうになるが、どうにか踏ん張った。魔力を送れたのは間違いなさそうだが……。
「アイリ! 苦しいのか!?」
「ううん、どっちかって言うと、気持ちいい」
顔を染めて俺に返すアイリ。苦しくないならいいが、なんか様子が変だ。魔力を送るのを一旦やめるか? 俺が躊躇しているのを感じたのか、アイリは俺に向かって叫ぶ。
「カイト! もっと魔力を送って! とびきり強烈なのをアイツに撃ち込んでやるから!」
「なら思いっきり送るからな」
俺は集中してアイリに目いっぱいの魔力を送り込んだ。
「んあぁぁっ、これ、しゅごいぃぃぃー!!」
なんかアイリから、ものすごい声が出ているが、本当に大丈夫なんだろうか?
だがここは彼女を信じるほかない。俺は目いっぱいの魔力をアイリに送り込んだ。アイリは神弓タスラムを構えて、二人分の魔力を集中させた。
「いっけええぇぇぇ!! セレスティアルスクレイド」
俺とアイリの魔力が混じってできた矢は、バルガロスめがけて一直線に飛んでいく。奴の障壁に激突して爆ぜると、矢が砕けて飛び散る。それらの飛び散った無数の光も奴めがけて飛んでいき、次々と連鎖的に爆発した。
先ほどよりも大きな爆発がダンジョンを揺らし、壁や天井が崩れ落ちてきた。あの爆発を凌がれたら、もうどうしようもないな。
煙が収まり人影が見えてきた。バルガロスは立っていた。でも障壁は砕けており、奴も相当なダメージを受けているのは明らかだ。
「まさかこれほどとは……。勝負は預けておきます」
バルガロスは、それだけ言い残して姿を消した。同時に俺の拘束も解かれる。
なにが勝負を預けるだ。完全にアイリの勝ちだっただろ。アイリを見ると、その場に倒れ込んでいた。
俺はアイリに駆け寄って抱き起した。アイリの体は火照っており、汗びっしょりで浅く呼吸している。
「アイリ、しっかりしろ! 大丈夫か!?」
「えへへー、へーきへーき!」
アイリは幸せそうに顔を緩めている。大丈夫なんだろうか?
「私、カイトの魔力でいっぱいになっちゃった」
「ああ、よくやったな」
魂のハーネス経由で魔力を送れるのは発見だった。今のアイリでは俺の全力の魔力に耐えられないようだったが、色々応用できそうだ。
俺がアイリに治癒魔法を掛けつつ、タオルを出して汗を拭いていると、みんなもこの広間に到達した。
みんなは俺とアイリを取り囲んで、何があったのかを口々に問う。俺はここであったことを、みんなに説明した。俺とアイリの間にも、魂のハーネスが発現したことを説明すると一斉にざわついた。
何をやったら魂のハーネスが発現したのか詳しく説明を求められたが、俺もよく分からないので答えようがない。
ノエルは腕を組んで考え込んでいるようだ。
「魂のハーネスの発現の条件はともかく、互いの魔力が流れ合うなんて、とても興味深いわね。また今度、ラプラスの記録で確認してみるね」
クレアは不服そうに頬を膨らます。
「発現の条件はともかくって何ですか!? ノエル様はもう繋がっているからいいかもしれませんが、私もカイト様と繋がりたいんです!」
「ああ、そのことならきっと大丈夫。近いうちにみんなも魂のハーネスが発現するでしょうし。それよりも早くアダマンタイトを持って帰ろう」
俺はこの広間内を見回して「どこにあるの?」とノエルに問う。
「この階層の床とか壁にアダマンタイトが含まれてる。そこらへんに散らばっているガレキをいっぱい持って帰って、あとで精製しよう」
アイリの攻撃の余波で破壊された、壁の残骸の山をアイテムボックスに収納して、俺達はダンジョンから帰還した。
44
お気に入りに追加
427
あなたにおすすめの小説
お持ち帰り召喚士磯貝〜なんでも持ち運び出来る【転移】スキルで異世界つまみ食い生活〜
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ひょんなことから男子高校生、磯貝章(いそがいあきら)は授業中、クラス毎異世界クラセリアへと飛ばされた。
勇者としての役割、与えられた力。
クラスメイトに協力的なお姫様。
しかし能力を開示する魔道具が発動しなかったことを皮切りに、お姫様も想像だにしない出来事が起こった。
突如鳴り出すメール音。SNSのメロディ。
そして学校前を包囲する警察官からの呼びかけにクラスが騒然とする。
なんと、いつの間にか元の世界に帰ってきてしまっていたのだ!
──王城ごと。
王様達は警察官に武力行為を示すべく魔法の詠唱を行うが、それらが発動することはなく、現行犯逮捕された!
そのあとクラスメイトも事情聴取を受け、翌日から普通の学校生活が再開する。
何故元の世界に帰ってきてしまったのか?
そして何故か使えない魔法。
どうも日本では魔法そのものが扱えない様で、異世界の貴族達は魔法を取り上げられた平民として最低限の暮らしを強いられた。
それを他所に内心あわてている生徒が一人。
それこそが磯貝章だった。
「やっべー、もしかしてこれ、俺のせい?」
目の前に浮かび上がったステータスボードには異世界の場所と、再転移するまでのクールタイムが浮かび上がっていた。
幸い、章はクラスの中ではあまり目立たない男子生徒という立ち位置。
もしあのまま帰って来なかったらどうなっていただろうというクラスメイトの話題には参加させず、この能力をどうするべきか悩んでいた。
そして一部のクラスメイトの独断によって明かされたスキル達。
当然章の能力も開示され、家族ごとマスコミからバッシングを受けていた。
日々注目されることに辟易した章は、能力を使う内にこう思う様になった。
「もしかして、この能力を金に変えて食っていけるかも?」
──これは転移を手に入れてしまった少年と、それに巻き込まれる現地住民の異世界ドタバタコメディである。
序章まで一挙公開。
翌日から7:00、12:00、17:00、22:00更新。
序章 異世界転移【9/2〜】
一章 異世界クラセリア【9/3〜】
二章 ダンジョンアタック!【9/5〜】
三章 発足! 異世界旅行業【9/8〜】
四章 新生活は異世界で【9/10〜】
五章 巻き込まれて異世界【9/12〜】
六章 体験! エルフの暮らし【9/17〜】
七章 探索! 並行世界【9/19〜】
95部で第一部完とさせて貰ってます。
※9/24日まで毎日投稿されます。
※カクヨムさんでも改稿前の作品が読めます。
おおよそ、起こりうるであろう転移系の内容を網羅してます。
勇者召喚、ハーレム勇者、巻き込まれ召喚、俺TUEEEE等々。
ダンジョン活動、ダンジョンマスターまでなんでもあります。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
スキル『モデラー』で異世界プラモ無双!? プラモデル愛好家の高校生が異世界転移したら、持っていたスキルは戦闘と無関係なものたったひとつでした
大豆茶
ファンタジー
大学受験を乗り越えた高校三年生の青年『相模 型太(さがみ けいた)』。
無事進路が決まったので受験勉強のため封印していた幼少からの趣味、プラモデル作りを再開した。
しかし長い間押さえていた衝動が爆発し、型太は三日三晩、不眠不休で作業に没頭してしまう。
三日経っていることに気付いた時には既に遅く、型太は椅子から立ち上がると同時に気を失ってしまう。
型太が目を覚さますと、そこは見知らぬ土地だった。
アニメやマンガ関連の造形が深い型太は、自分は異世界転生したのだと悟る。
もうプラモデルを作ることができなくなるという喪失感はあるものの、それよりもこの異世界でどんな冒険が待ちわびているのだろうと、型太は胸を躍らせる。
しかし自分のステータスを確認すると、どの能力値も最低ランクで、スキルはたったのひとつだけ。
それも、『モデラー』という謎のスキルだった。
竜が空を飛んでいるような剣と魔法の世界で、どう考えても生き延びることが出来なさそうな能力に型太は絶望する。
しかし、意外なところで型太の持つ謎スキルと、プラモデルの製作技術が役に立つとは、この時はまだ知るよしもなかった。
これは、異世界で趣味を満喫しながら無双してしまう男の物語である。
※主人公がプラモデル作り始めるのは10話あたりからです。全体的にゆったりと話が進行しますのでご了承ください。
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました
平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。
しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。
だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。
まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。
【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。
勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。
そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。
しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。
そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる