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ウィツモ渓谷のダンジョン(後編)
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アイリと二人でダンジョン最深部を目指している。アイリは気合が入っていて、現れるモンスターをあっという間に一掃してくれている。そのおかげで順調に進むことができた。
ノエルとレイナとは、魂のハーネス経由の念話で連絡し合いながら進んだ。彼女たちも問題ないそうだ。
そして50階層に到達。天井が見えない程高くなっている、開けた空間があった。そこには全身黒い格好の男が立っている。
「私は魔王様配下、ディアージェスの一人『常闇』バルガロスと申します」
肩書に二つ名か……。きっとこいつも拗らせてしまったのだろう。気持ちは分かるが、あんまり関わりたくないな。でも魔王の配下って言うくらいだから、向こうは関わる気だろうけど。
「俺を殺しにでも来たのか?」
「いえ、あなたは魔王様が倒すことになっております」
「じゃあ、何しに来たんだ?」
「女神様が殺せと指示する異世界人が、どれほどの者かと思いまして。少し様子を見に」
「さっきの崩落はお前の仕業か?」
「そうです。黒髪の勇者と、銀髪のメイドは少々厄介なので、分断させてもらいました。すこし遊びましょうか? そこの娘は殺しても女神様の決めたルール上は問題ありませんし」
「お前らのルールなんて知るか。アイリを傷つけるつもりなら殺す」
俺は地面を蹴ってバルガロスを急襲。間合いを詰めて腹に拳を叩き込こみ、続けてペネレイトグリームをゼロ距離でぶち込んでやった。バルガロスは光の柱に突き上げられ、吹き飛んで壁に叩きつけられる。
口ほどにもない。と言いたいところだが、妙な違和感がある。感じる波動の強さのわりに、手ごたえが薄い……。
直後、俺の背後に気配を察知。俺は反射的に裏拳で背後を攻撃し命中。奴は派手に吹っ飛び壁に激突した。だがこれも手ごたえは薄い。
吹き飛ばしてやった二人のバルガロスを見ると、黒い靄となって消えた。やはり分身の類か……やれやれ面倒な能力だ。その時俺の背後から囁き声が聞こえる。
「カースバインド」
しまった! と思った時にはもう遅く、俺の背後から黒い触手が伸びてきて、俺の四肢に絡みついた。
俺は拘束を解こうと、魔力を解放して藻掻くが解けない。かなり強力な拘束魔法だ、すぐに抜け出せそうにない。
バルガロスは姿を現すと、俺の目の前に立ち嬉しそうに嘲笑う。
「女神様に聞いていたよりも、ずっと好戦的ですね。どうですか、その拘束魔法の具合は? 早く抜け出さないと、大切な人を守り切れませんよ?」
バルガロスは魔力を両手に凝縮して一気に解放する。高レベルなだけあってかなり強烈な魔力だ。
「シャドウサーヴァント」
奴が言霊を発すると、噴き出した黒い魔力が騎士の形になっていく。無数に現れた影の騎士たちが俺とアイリを取り囲んだ。個々の強さはレベル150程度だと感じるが、数が多すぎる。
動きを封じられていても、俺一人なら何とでもできるが、このままではアイリを守り切れそうにない。
「アイリ逃げろ!!」
しかし、アイリは俺の声を無視して、神弓タスラムを引き絞る。放たれた複数の光の矢は広範囲に散ってバルガロスと影の騎士たちに襲いかかった。バルガロスは光の矢を回避して俺から離れたが、影の騎士たちは光の矢を受けて次々と消滅していく。
アイリが神弓タスラムから撃ちだす攻撃は、少し前の彼女とは比べ物にならない。威力も攻撃範囲も桁違いに強化されていた。彼女も勇者のチートスキルを得たおかげで、短期間で信じられない程強くなっていたのか。
アイリは影の騎士を一掃すると、動けないでいる俺に一瞬で近寄った。魔装術を応用した高速移動術も上手くなっている。魔力の流れに淀がみなく洗練されているな。
俺が「ゴメン、動けなく……」と言いかけたところで、アイリは「カイトのアホー!!」と俺の頭をバシッと叩いた。
俺が「なにするんだよ」とアイリに抗議すると、その顔は怒りに震えていた。
「カイト、私はもうあなたに守られるだけの女じゃないよ!」
アイリはギリと歯を食いしばって、涙を溢し俺の目を真っ直ぐに見る。
「私だってノエルやレイナみたいに、あなたと肩を並べて戦いたいんだ! 私に逃げろなんてもう言わないで!!」
その時、俺の魂に何かが直接触れたような気がした。さらにアイリの魔力の波動が、俺の中に直接流れ込んでくるような感覚があった。
これは……、アイリとも魂のハーネスが繋がってる? 俺は心の中でアイリに語り掛けてみた。
「もしもーし、アイリ、聞こえますかー? どうやら魂のハーネスがアイリとの間にも繋がったみたいだよ」
俺の心の声が届いたのか、アイリは目を見開いた。
「うそ……。あっ、でも、感じる……カイトの魂を直に触れているみたい」
事態を理解したアイリはニターっと顔を緩めた。でも気を緩めるのはまだ早い。まずはバルガロスを倒さなくてはな!
「アイリがこんなにも強くなっていたなんて、知らなかったよ。二人で反撃開始といこうか!」
そうは言っても、俺は自由に動けないのでアイリ頼りになるのだが。ともかく、二人揃ってバルガロスに向く。
「ほぉ、その女が神器をそこまで使いこなせるのなら、影どもを何体出そうと無意味ですね。いいでしょう、この私が直々に相手をしましょう」
バルガロスはそう言うと、片手を上げてアイリに向ける。
「ダークバレット」
あれはリーゼロッテが使っていたの同じ魔法だな。威力はリーゼロッテの魔法よりいくらか弱いが、かなりの速度で連射される魔弾にアイリは対応できるのだろうか。
ところが、そんな俺の心配を他所に、アイリは高速移動を駆使してそれを回避していた。
「ノエルの魔法の方がもっと速くて強いんだから」
そういえば、アイリも毎日のようにノエルにしごかれていたもんな。俺が感心していると、アイリは回避の動作をしながら神弓タスラムを引き絞る。
「こっちからも行くよ! ラジアントバラージ」
アイリは弦を放つと、聖弓から無数の光球が飛び散った。すべてが誘導弾らしくバルガロスを取り囲んで、全方位からから襲いかかる。しかしバルガロスは黒い障壁を展開して、それを防いでしまった。
「なかなかの威力ですね。ですがこの程度では私の障壁は破れません」
「そんなことは、これを喰らってから言ってよね!」
アイリはさっきよりも多くの魔力を神弓タスラムに込める。
「神弓タスラムの固有技、セレスティアルスクレイド」
解き放たれたミサイルのような光の矢は、直後にバルガロスの障壁に衝突した。激しく爆発した後、続けて何度も爆発している。その衝撃でダンジョン内が揺れ動く。
爆炎で巻き上げられた砂煙がおさまると、立っている人影が見えてきた。バルガロスの障壁はひび割れすらしていない。
バルガロスは「フフフ、無駄ですよ」と余裕の笑みを崩さない。
アイリの攻撃力では、バルガロスの防御障壁を貫通できないのか。いや、もし俺が動けたとしても、あれほどの魔力が込められている障壁を壊すのは難しいだろう。魔剣ベイルスティングに、全開の魔装術を込めて攻撃すれば斬れるかもしれないが、魔剣ベイルスティングは折れているしな。
バルガロスは障壁を展開したまま、ダークバレットでアイリを攻撃する。今のところアイリは上手くかわしているが……。
「くっ、このままじゃジリ貧ね」
アイリの顔にも焦りが見えてきた。俺の魔力量を神弓タスラムで増幅して撃ちだせば、破れるかもしれないが……。俺は動けないし、神弓タスラムはアイリを主と認めているだろうから俺は使えない。
……そういえばさっき魂のハーネスがアイリと繋がった時、アイリの魔力が直に感じられた。ノエルは霊的な作用で魂が繋がってるとか言っていたよな。もしかして、魔力を直接アイリに送れるんじゃないのか?
俺には他にできそうなこともないし、試してみるか。俺は念話でアイリに話しかける。
「魂のハーネス経由でアイリに魔力を送るから、それを使って神弓の全力攻撃をアイツにぶちかまして!」
「魂のハーネスで魔力を送るって、そんなことできるの?」
「分からない。でもできそうな気がするんだ。やってみるよ」
俺は意識を集中して、魂のハーネス経由でアイリに魔力を送るイメージをした。すると俺の魔力が魂のハーネスを通して流れ出ている感じがする。手をつないで魔力を混ぜるよりもずっと多くの魔力が移動しているのが分かる。
「ああ、カイトの熱い魔力が、勢いよく私に流れ込んでくる……!」
アイリはぐらりと体を揺らして倒れそうになるが、どうにか踏ん張った。魔力を送れたのは間違いなさそうだが……。
「アイリ! 苦しいのか!?」
「ううん、どっちかって言うと、気持ちいい」
顔を染めて俺に返すアイリ。苦しくないならいいが、なんか様子が変だ。魔力を送るのを一旦やめるか? 俺が躊躇しているのを感じたのか、アイリは俺に向かって叫ぶ。
「カイト! もっと魔力を送って! とびきり強烈なのをアイツに撃ち込んでやるから!」
「なら思いっきり送るからな」
俺は集中してアイリに目いっぱいの魔力を送り込んだ。
「んあぁぁっ、これ、しゅごいぃぃぃー!!」
なんかアイリから、ものすごい声が出ているが、本当に大丈夫なんだろうか?
だがここは彼女を信じるほかない。俺は目いっぱいの魔力をアイリに送り込んだ。アイリは神弓タスラムを構えて、二人分の魔力を集中させた。
「いっけええぇぇぇ!! セレスティアルスクレイド」
俺とアイリの魔力が混じってできた矢は、バルガロスめがけて一直線に飛んでいく。奴の障壁に激突して爆ぜると、矢が砕けて飛び散る。それらの飛び散った無数の光も奴めがけて飛んでいき、次々と連鎖的に爆発した。
先ほどよりも大きな爆発がダンジョンを揺らし、壁や天井が崩れ落ちてきた。あの爆発を凌がれたら、もうどうしようもないな。
煙が収まり人影が見えてきた。バルガロスは立っていた。でも障壁は砕けており、奴も相当なダメージを受けているのは明らかだ。
「まさかこれほどとは……。勝負は預けておきます」
バルガロスは、それだけ言い残して姿を消した。同時に俺の拘束も解かれる。
なにが勝負を預けるだ。完全にアイリの勝ちだっただろ。アイリを見ると、その場に倒れ込んでいた。
俺はアイリに駆け寄って抱き起した。アイリの体は火照っており、汗びっしょりで浅く呼吸している。
「アイリ、しっかりしろ! 大丈夫か!?」
「えへへー、へーきへーき!」
アイリは幸せそうに顔を緩めている。大丈夫なんだろうか?
「私、カイトの魔力でいっぱいになっちゃった」
「ああ、よくやったな」
魂のハーネス経由で魔力を送れるのは発見だった。今のアイリでは俺の全力の魔力に耐えられないようだったが、色々応用できそうだ。
俺がアイリに治癒魔法を掛けつつ、タオルを出して汗を拭いていると、みんなもこの広間に到達した。
みんなは俺とアイリを取り囲んで、何があったのかを口々に問う。俺はここであったことを、みんなに説明した。俺とアイリの間にも、魂のハーネスが発現したことを説明すると一斉にざわついた。
何をやったら魂のハーネスが発現したのか詳しく説明を求められたが、俺もよく分からないので答えようがない。
ノエルは腕を組んで考え込んでいるようだ。
「魂のハーネスの発現の条件はともかく、互いの魔力が流れ合うなんて、とても興味深いわね。また今度、ラプラスの記録で確認してみるね」
クレアは不服そうに頬を膨らます。
「発現の条件はともかくって何ですか!? ノエル様はもう繋がっているからいいかもしれませんが、私もカイト様と繋がりたいんです!」
「ああ、そのことならきっと大丈夫。近いうちにみんなも魂のハーネスが発現するでしょうし。それよりも早くアダマンタイトを持って帰ろう」
俺はこの広間内を見回して「どこにあるの?」とノエルに問う。
「この階層の床とか壁にアダマンタイトが含まれてる。そこらへんに散らばっているガレキをいっぱい持って帰って、あとで精製しよう」
アイリの攻撃の余波で破壊された、壁の残骸の山をアイテムボックスに収納して、俺達はダンジョンから帰還した。
ノエルとレイナとは、魂のハーネス経由の念話で連絡し合いながら進んだ。彼女たちも問題ないそうだ。
そして50階層に到達。天井が見えない程高くなっている、開けた空間があった。そこには全身黒い格好の男が立っている。
「私は魔王様配下、ディアージェスの一人『常闇』バルガロスと申します」
肩書に二つ名か……。きっとこいつも拗らせてしまったのだろう。気持ちは分かるが、あんまり関わりたくないな。でも魔王の配下って言うくらいだから、向こうは関わる気だろうけど。
「俺を殺しにでも来たのか?」
「いえ、あなたは魔王様が倒すことになっております」
「じゃあ、何しに来たんだ?」
「女神様が殺せと指示する異世界人が、どれほどの者かと思いまして。少し様子を見に」
「さっきの崩落はお前の仕業か?」
「そうです。黒髪の勇者と、銀髪のメイドは少々厄介なので、分断させてもらいました。すこし遊びましょうか? そこの娘は殺しても女神様の決めたルール上は問題ありませんし」
「お前らのルールなんて知るか。アイリを傷つけるつもりなら殺す」
俺は地面を蹴ってバルガロスを急襲。間合いを詰めて腹に拳を叩き込こみ、続けてペネレイトグリームをゼロ距離でぶち込んでやった。バルガロスは光の柱に突き上げられ、吹き飛んで壁に叩きつけられる。
口ほどにもない。と言いたいところだが、妙な違和感がある。感じる波動の強さのわりに、手ごたえが薄い……。
直後、俺の背後に気配を察知。俺は反射的に裏拳で背後を攻撃し命中。奴は派手に吹っ飛び壁に激突した。だがこれも手ごたえは薄い。
吹き飛ばしてやった二人のバルガロスを見ると、黒い靄となって消えた。やはり分身の類か……やれやれ面倒な能力だ。その時俺の背後から囁き声が聞こえる。
「カースバインド」
しまった! と思った時にはもう遅く、俺の背後から黒い触手が伸びてきて、俺の四肢に絡みついた。
俺は拘束を解こうと、魔力を解放して藻掻くが解けない。かなり強力な拘束魔法だ、すぐに抜け出せそうにない。
バルガロスは姿を現すと、俺の目の前に立ち嬉しそうに嘲笑う。
「女神様に聞いていたよりも、ずっと好戦的ですね。どうですか、その拘束魔法の具合は? 早く抜け出さないと、大切な人を守り切れませんよ?」
バルガロスは魔力を両手に凝縮して一気に解放する。高レベルなだけあってかなり強烈な魔力だ。
「シャドウサーヴァント」
奴が言霊を発すると、噴き出した黒い魔力が騎士の形になっていく。無数に現れた影の騎士たちが俺とアイリを取り囲んだ。個々の強さはレベル150程度だと感じるが、数が多すぎる。
動きを封じられていても、俺一人なら何とでもできるが、このままではアイリを守り切れそうにない。
「アイリ逃げろ!!」
しかし、アイリは俺の声を無視して、神弓タスラムを引き絞る。放たれた複数の光の矢は広範囲に散ってバルガロスと影の騎士たちに襲いかかった。バルガロスは光の矢を回避して俺から離れたが、影の騎士たちは光の矢を受けて次々と消滅していく。
アイリが神弓タスラムから撃ちだす攻撃は、少し前の彼女とは比べ物にならない。威力も攻撃範囲も桁違いに強化されていた。彼女も勇者のチートスキルを得たおかげで、短期間で信じられない程強くなっていたのか。
アイリは影の騎士を一掃すると、動けないでいる俺に一瞬で近寄った。魔装術を応用した高速移動術も上手くなっている。魔力の流れに淀がみなく洗練されているな。
俺が「ゴメン、動けなく……」と言いかけたところで、アイリは「カイトのアホー!!」と俺の頭をバシッと叩いた。
俺が「なにするんだよ」とアイリに抗議すると、その顔は怒りに震えていた。
「カイト、私はもうあなたに守られるだけの女じゃないよ!」
アイリはギリと歯を食いしばって、涙を溢し俺の目を真っ直ぐに見る。
「私だってノエルやレイナみたいに、あなたと肩を並べて戦いたいんだ! 私に逃げろなんてもう言わないで!!」
その時、俺の魂に何かが直接触れたような気がした。さらにアイリの魔力の波動が、俺の中に直接流れ込んでくるような感覚があった。
これは……、アイリとも魂のハーネスが繋がってる? 俺は心の中でアイリに語り掛けてみた。
「もしもーし、アイリ、聞こえますかー? どうやら魂のハーネスがアイリとの間にも繋がったみたいだよ」
俺の心の声が届いたのか、アイリは目を見開いた。
「うそ……。あっ、でも、感じる……カイトの魂を直に触れているみたい」
事態を理解したアイリはニターっと顔を緩めた。でも気を緩めるのはまだ早い。まずはバルガロスを倒さなくてはな!
「アイリがこんなにも強くなっていたなんて、知らなかったよ。二人で反撃開始といこうか!」
そうは言っても、俺は自由に動けないのでアイリ頼りになるのだが。ともかく、二人揃ってバルガロスに向く。
「ほぉ、その女が神器をそこまで使いこなせるのなら、影どもを何体出そうと無意味ですね。いいでしょう、この私が直々に相手をしましょう」
バルガロスはそう言うと、片手を上げてアイリに向ける。
「ダークバレット」
あれはリーゼロッテが使っていたの同じ魔法だな。威力はリーゼロッテの魔法よりいくらか弱いが、かなりの速度で連射される魔弾にアイリは対応できるのだろうか。
ところが、そんな俺の心配を他所に、アイリは高速移動を駆使してそれを回避していた。
「ノエルの魔法の方がもっと速くて強いんだから」
そういえば、アイリも毎日のようにノエルにしごかれていたもんな。俺が感心していると、アイリは回避の動作をしながら神弓タスラムを引き絞る。
「こっちからも行くよ! ラジアントバラージ」
アイリは弦を放つと、聖弓から無数の光球が飛び散った。すべてが誘導弾らしくバルガロスを取り囲んで、全方位からから襲いかかる。しかしバルガロスは黒い障壁を展開して、それを防いでしまった。
「なかなかの威力ですね。ですがこの程度では私の障壁は破れません」
「そんなことは、これを喰らってから言ってよね!」
アイリはさっきよりも多くの魔力を神弓タスラムに込める。
「神弓タスラムの固有技、セレスティアルスクレイド」
解き放たれたミサイルのような光の矢は、直後にバルガロスの障壁に衝突した。激しく爆発した後、続けて何度も爆発している。その衝撃でダンジョン内が揺れ動く。
爆炎で巻き上げられた砂煙がおさまると、立っている人影が見えてきた。バルガロスの障壁はひび割れすらしていない。
バルガロスは「フフフ、無駄ですよ」と余裕の笑みを崩さない。
アイリの攻撃力では、バルガロスの防御障壁を貫通できないのか。いや、もし俺が動けたとしても、あれほどの魔力が込められている障壁を壊すのは難しいだろう。魔剣ベイルスティングに、全開の魔装術を込めて攻撃すれば斬れるかもしれないが、魔剣ベイルスティングは折れているしな。
バルガロスは障壁を展開したまま、ダークバレットでアイリを攻撃する。今のところアイリは上手くかわしているが……。
「くっ、このままじゃジリ貧ね」
アイリの顔にも焦りが見えてきた。俺の魔力量を神弓タスラムで増幅して撃ちだせば、破れるかもしれないが……。俺は動けないし、神弓タスラムはアイリを主と認めているだろうから俺は使えない。
……そういえばさっき魂のハーネスがアイリと繋がった時、アイリの魔力が直に感じられた。ノエルは霊的な作用で魂が繋がってるとか言っていたよな。もしかして、魔力を直接アイリに送れるんじゃないのか?
俺には他にできそうなこともないし、試してみるか。俺は念話でアイリに話しかける。
「魂のハーネス経由でアイリに魔力を送るから、それを使って神弓の全力攻撃をアイツにぶちかまして!」
「魂のハーネスで魔力を送るって、そんなことできるの?」
「分からない。でもできそうな気がするんだ。やってみるよ」
俺は意識を集中して、魂のハーネス経由でアイリに魔力を送るイメージをした。すると俺の魔力が魂のハーネスを通して流れ出ている感じがする。手をつないで魔力を混ぜるよりもずっと多くの魔力が移動しているのが分かる。
「ああ、カイトの熱い魔力が、勢いよく私に流れ込んでくる……!」
アイリはぐらりと体を揺らして倒れそうになるが、どうにか踏ん張った。魔力を送れたのは間違いなさそうだが……。
「アイリ! 苦しいのか!?」
「ううん、どっちかって言うと、気持ちいい」
顔を染めて俺に返すアイリ。苦しくないならいいが、なんか様子が変だ。魔力を送るのを一旦やめるか? 俺が躊躇しているのを感じたのか、アイリは俺に向かって叫ぶ。
「カイト! もっと魔力を送って! とびきり強烈なのをアイツに撃ち込んでやるから!」
「なら思いっきり送るからな」
俺は集中してアイリに目いっぱいの魔力を送り込んだ。
「んあぁぁっ、これ、しゅごいぃぃぃー!!」
なんかアイリから、ものすごい声が出ているが、本当に大丈夫なんだろうか?
だがここは彼女を信じるほかない。俺は目いっぱいの魔力をアイリに送り込んだ。アイリは神弓タスラムを構えて、二人分の魔力を集中させた。
「いっけええぇぇぇ!! セレスティアルスクレイド」
俺とアイリの魔力が混じってできた矢は、バルガロスめがけて一直線に飛んでいく。奴の障壁に激突して爆ぜると、矢が砕けて飛び散る。それらの飛び散った無数の光も奴めがけて飛んでいき、次々と連鎖的に爆発した。
先ほどよりも大きな爆発がダンジョンを揺らし、壁や天井が崩れ落ちてきた。あの爆発を凌がれたら、もうどうしようもないな。
煙が収まり人影が見えてきた。バルガロスは立っていた。でも障壁は砕けており、奴も相当なダメージを受けているのは明らかだ。
「まさかこれほどとは……。勝負は預けておきます」
バルガロスは、それだけ言い残して姿を消した。同時に俺の拘束も解かれる。
なにが勝負を預けるだ。完全にアイリの勝ちだっただろ。アイリを見ると、その場に倒れ込んでいた。
俺はアイリに駆け寄って抱き起した。アイリの体は火照っており、汗びっしょりで浅く呼吸している。
「アイリ、しっかりしろ! 大丈夫か!?」
「えへへー、へーきへーき!」
アイリは幸せそうに顔を緩めている。大丈夫なんだろうか?
「私、カイトの魔力でいっぱいになっちゃった」
「ああ、よくやったな」
魂のハーネス経由で魔力を送れるのは発見だった。今のアイリでは俺の全力の魔力に耐えられないようだったが、色々応用できそうだ。
俺がアイリに治癒魔法を掛けつつ、タオルを出して汗を拭いていると、みんなもこの広間に到達した。
みんなは俺とアイリを取り囲んで、何があったのかを口々に問う。俺はここであったことを、みんなに説明した。俺とアイリの間にも、魂のハーネスが発現したことを説明すると一斉にざわついた。
何をやったら魂のハーネスが発現したのか詳しく説明を求められたが、俺もよく分からないので答えようがない。
ノエルは腕を組んで考え込んでいるようだ。
「魂のハーネスの発現の条件はともかく、互いの魔力が流れ合うなんて、とても興味深いわね。また今度、ラプラスの記録で確認してみるね」
クレアは不服そうに頬を膨らます。
「発現の条件はともかくって何ですか!? ノエル様はもう繋がっているからいいかもしれませんが、私もカイト様と繋がりたいんです!」
「ああ、そのことならきっと大丈夫。近いうちにみんなも魂のハーネスが発現するでしょうし。それよりも早くアダマンタイトを持って帰ろう」
俺はこの広間内を見回して「どこにあるの?」とノエルに問う。
「この階層の床とか壁にアダマンタイトが含まれてる。そこらへんに散らばっているガレキをいっぱい持って帰って、あとで精製しよう」
アイリの攻撃の余波で破壊された、壁の残骸の山をアイテムボックスに収納して、俺達はダンジョンから帰還した。
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僧侶A
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沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
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それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
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土曜日以外は毎日投稿してます。

異世界転生漫遊記
しょう
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ブラック企業で働いていた主人公は
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主人公が転生した世界は
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よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!
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