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ウィツモ渓谷のダンジョン(前編)

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 アダマンタイトを手に入れるために、ウィツモ渓谷に来た。屋敷から魔装術で飛んできて、上空から木々の生い茂る渓谷を見下ろす。

「この辺りのはずなんだけど……。空からではよく分からないから、降りようか」

 俺達は先導するノエルについていく形で地表に降りた。そしてしばらく歩く。

「この崖の下ダンジョンがあるよ」

 そう言って、ノエルは足を止め崖の下の方を指差す。切り立った岩壁に谷の底は見えない程深い。これは飛ばなきゃたどり着けないな。

 そんなわけで、俺達は魔装術を使って飛翔し崖を下りる。この崖を飛び降りなければダンジョンの入口が発見できないのか。今まで誰も発見できなかったわけだ。

 周囲を探りながら崖を下りていくと、岩壁に直径3m程の大きな横穴が開いているのを見つけた。

 その穴に降り立って奥を覗くと、下へ続く階段があった。他のダンジョンみたいに、入口が整備された感じもないし、番をしている人もいない。

「さ、いくわよ」

 みんなでノエルの後に続いて、階段を下っていく。

 ダンジョンの内部は、青く透き通った水晶のような鉱石でできており、天井の鉱石の一部が発光して、ある種幻想的な雰囲気があった。

「このダンジョンも綺麗なところだなぁ」

 俺が感心していると、早速モンスターのお出ましだ。水晶製の透き通ったゴーレムが、ガチャガチャと鉱石が擦れる音を立てながら複数体襲い掛かってきた。

 事前の情報通り、このダンジョンのモンスターは確かに他のダンジョンよりも強いが、みんなもチートスキルを得たおかげで強くなっている。苦戦することもなくモンスターどもを排除して、奥へと駆け抜けた。

 30階層まで一気に進んだが、みんな疲れた様子はない。俺は少し喉が渇いたな。

 俺が「ここで少し休憩しようか」とみんなに提案すると、ノエルが「いいよ。慌てることも無いし」と返し、みんなもそれに賛成した。

 マユが聖杖を取り出して結界を張ってくれたので、俺はアイテムボックスからテーブルと椅子、お菓子と飲み物を取り出した。みんなで座ってお菓子をつまむ。

「魔王軍ってさー、やっぱり人間の町とかを襲うのかなぁ?」

 俺の何気ない問いに、ノエルは辛そうに話し始めた。

「20年前の魔王軍は酷いものだった。人のいるあらゆる場所を攻撃した。私は必死に戦ったけど、そのすべてを防ぎきれずに、多くの街や村が犠牲になった」

「なら今回は俺達が戦って守らなきゃいけない?」

「ナロッパニアの国王は元勇者だし、アルパリスは王妃が元勇者。超越者なんだから神器は無くてもそれなりに戦えるだろうし、魔王軍が攻めてきても被害を抑えるための対策をとっているはず」

「カークヨムルドは少し心配ね。国王は元勇者じゃないから戦力として期待できないし、他の二国が軍備を増強しているのを戦争の為だと勘違いしている様子だったし」

 俺はフィリスに視線を向けと、フィリスは苦笑いを浮かべる。

「ほら、カークヨムルドだって偽グングニルとか強い武器も作っているし、エラッソス公爵家を含む貴族たちも戦争の準備をしていたわけだから、すぐに滅ぼされたりはしない……と思う」

 ノエルはそれを聞いて「それもそうね」と頷きながら続ける。

「それに今は私がラプラスの記録を見ることが出来る。魔王軍の動きだって手に取るように分かるから、対策もしやすいよ。魔王やディアージェスと呼ばれる一部の強者が自在に転移出来たとしても、モンスターの軍勢を丸ごと転移させるなんて不可能だから、魔王軍の動きを察知してから、すぐに動けば撃退も可能だと思う」

「ディアージェス? なんだそれ?」

「魔王軍の幹部たちよ。奴らが幹部達をそう呼んでいると、ラプラスの記録にはあったわ」

 ほー、四天王的な奴がいるのか。

「魔王の配下ってやっぱりモンスターなの?」

「魔王軍の大部分はモンスターだけど、ディアージェスは違うわ。この世界で死んでしまった転生者の中から選ばれた者たちだよ」

「元は俺達と同じ人間なのか……。あれ、もしかしてこの前言っていたダンジョンマスター?」

「ええそうよ。ダンジョンマスターの中からディアージェスは選ばれたようね。事情を知らない魔王には、彼らのことを魔族って説明してるみたい」

 魔王もディアージェスも、女神の玩具ってことか。それはそれで気の毒だな……。出来ることなら戦いたくない。ノエルは、そんな俺の考えを見透かすように続ける。

「でも油断は出来ない。下級神とは言え、ディアージェス達のレベルはいずれも300以上よ」

「300か。強そうだな」

「そ、だから私たちも今以上に強くならないとね」

 分かってる、女神を倒す気でいるんだから、ディアージェスごときに苦戦してられないからな!



 * * *



 テーブルと椅子をかたずけ、出発しようとしたところで、ダンジョンに地響きがした。その直後、地面が広範囲に崩落した。

 俺は咄嗟に魔装術を発動し宙に浮く。周囲を見渡して一番近くにいたアイリの手を握ったが、ダンジョン内に、魔力の込められた風が吹き荒れているせいで自由に飛べない。

 この風、神聖魔法によるものか? それもかなり強力な魔力が込められている。 

 俺は風に流されて、みんなと離れ離れになってしまった。近くにいるのは咄嗟に手を握ったアイリだけだ。

「アイリ、怪我はない?」
「うん、平気だよ」

 ほかのみんなも安否が気になるところだ。魂のハーネスでつながっているノエル、レイナとは念話ができるはず。試してみるか。

「ノエル、レイナ聞こえるか?」

「ええ聞こえるわ」「はい、聞こえます」

 二人同時に返事が聞こえる。

「ノエル、無事か?」

「こちらは心配ないわ。マユと、クレアもいる。三人とも無傷よ」

 続いてレイナが報告する。

「こちらも問題ありません。フィリス様も私と一緒です」

 どうやら全員無事のようなので、ひとまず安心だ。ノエルとレイナもいることだし、モンスターにやられる心配もないだろう。

「先に進んで合流しよう」

「了解」「承知しました」

 ノエルとレイナの返事を受けて、俺とアイリもダンジョンの奥へ進んだ。



 * * *



「久しぶりにカイトと二人きりになれたね!」

 アイリは嬉しそうに、赤いポニーテールを揺らして俺に飛びつく。

 二人で手をつないでダンジョンを歩いていると、それを邪魔するかのようにモンスターが次々と出てきた。

「あの程度のモンスターなら私一人でやれるよ! カイトは手を出さないでね!」

 俺としては少し心配だったが、アイリは神弓タスラムの力をより引き出せるようになったらしく、火力が大きく上がっていた。

 弓を引き絞ると大量の光弾がアイリの周辺に発生し、光の弦を解き放つと同時にそれらの光弾がモンスターへ一斉に襲い掛かる。

 あれはもはや弓矢の攻撃じゃないな。魔法による広範囲攻撃と大差ない。弓を引くことで、魔力を溜めて、一気に打ち出す感じか。

「どう? 惚れ直したでしょ?」

 得意げなアイリの顔はとても可愛い。道中に出現するモンスターは、次々と彼女のレベル上げの足しになっていった。
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