上 下
60 / 85

物知りさんの権能

しおりを挟む
 女神の姿が消えて気が緩んだのか、俺は体中に感じる激痛に耐えられなくなって膝をつく。傷は魔法で治癒したというのに、この痛みとは……。さすがは神の攻撃だ。

 ノエルが吹っ飛ばされた方を見ると、うつ伏せで倒れていた。俺はノエルが倒れているところまで、痛んだ体を引きずっていく。

「ノエル、無事かー?」

 ノエルは体を起こし「クソ!」と悔しそうに地面を殴った。どうやら命に別状は無いみたいだな。良かった。

 レイナも派手に吹っ飛ばされていたけど大丈夫かな? 飛ばされた方を見ると、レイナは俺の目の前に瞬間移動してきた。そして苦い顔で俺に頭を下げる。

「カイト様、お役に立てずに申し訳ありません」

「いやー、あれは無理だって。さすが女神ってだけある」

 ノエルは起き上がると、俺の両肩に掴みかかって揺さぶった。
 
「カイト、落ち着いてる場合!?」

「慌てても仕方ないだろ? もう女神は帰ったんだし。せっかくのお肉がもったいないから、食べながらこれからどうするか考えようか?」

「……そうね」

 ノエルは俺から離れて、深く息を吐いて椅子に座る。そして、焼きあがった肉を頬張り始めた。

 俺はマユ、クレア、フィリス、アイリに近づく。女神のプレッシャーに気圧されてうずくまっていたけど大丈夫だろうか?
 
 ゆっくりと立ち上がったマユは、血の気の引いた顔をして震えている。

「あれが女神……。私はあのプレッシャーに委縮して、立ち上がることさえできなかった」

 クレア、フィリス、アイリも同様に青ざめた顔をしている。ノエルは肉を食べながら四人を見る。

「まぁ、普通の人間ならそうなるのは仕方ない。私とカイト、それにレイナみたいに普通の人間を超越しないと」

 クレアは悔しそうに拳を握って震えている。

「カイト様が危険にさらされていたのに、立ち上がる事も出来ないなんて……」

 フィリスは神妙な面持ちでノエルに問う。

「私たちは、その普通の人間の壁を越えられないの?」

 するとノエルは「超えられるよ」と、あっさり答えた。意外と簡単なんだろうか? と思いつつ俺はノエルの話に耳を傾けることにした。

 彼女の話では普通の人間はレベル150前後で頭打ちになり、それ以上はどれだけモンスターを倒してもレベルは上がらなくなると言う。

 ノエルはチートスキル『勇者』を持っていて、俺はチートスキル『天才』を持っている。また、レイナはそもそももう人間じゃない。

 チートスキルを習得するか、人間をやめれば、普通の人間の限界を超えて強くなれると言う。でもこの条件ならチートスキルの習得一択だよな。だって人間をやめるには、一旦死なないといけないんだから。

 一通りノエルの説明を聞き終わると、マユは食い気味にノエルに問う。

「具体的にどうすればいいの!?」

「マユはノーブルスキル『聖光』を使うことで、聖女としての資質が育っている。それだけではチートスキルを得ることはできないけど、スキルポイントを使ってチートスキル『聖女』を習得させる」

「スキルポイントを使う?」

 マユは首を傾げて、ノエルが何を言っているのか、分からないといった顔をしているが、ノエルは構わず続ける。

「他の子も神器の使用と神聖魔法の使用で、勇者としての資質が育っている。スキルポイントもレベルが上がったことにより必要量溜まっているから、それを使えばチートスキル『勇者』を習得できる」

「ならもっと早く習得させればよかったのに」

 俺がそう言うとノエルは薄く微笑みながら、指でピストルの形を作って俺を撃つ仕草をする。

「この子たちが強くなると、カイトを殺すときに邪魔されると思ったから」

「そ、そうか……」

「本来、レアスキルの習得には、必要なスキルポイントがたまった状態で、強烈にその能力が欲しいと願うことでスイッチが入り習得できる」

「ノーブルスキルは、女神の気まぐれで与えられた人間が生まれつき持っていて、チートスキルは転生者に女神が与える。どちらも基本的には後から習得はできない」
「それを物知りさんの権能で習得させる。資質が十分に育っていてスキルポイントが必要量あれば、物知りさんの権能で強制的にスイッチを入れて習得させられる」

 へー、物知りさんの権能って凄いなぁと感心していると、ノエルは腕を組んで「一つ問題がある」と難しい顔をする。

 俺が「問題?」と聞き返すとノエルはコクリと頷いた。

「私はカイトの魂から離れて肉体を得たことで、カイトとの魂のつながりが途切れた。物知りさんはあくまでもカイトのスキルだから、今の私は物知りさんの権能を行使できない。だから、ラプラスの記録へのアクセスもできないし、強制的にスイッチを入れてスキルを習得させることも出来ない」

「え、出来ないの?」

 俺が問うと、ノエルは首を横に振って続ける。

「方法はある。レイナはカイトの魂に紐付けされているので、それを外して私に接続することで物知りさんの権能を使えるようになる」

「レイナの、カイトの魂への紐づけは悪霊だった時の未練の名残だけど、今は精霊として現世で存在を維持するための、依り代と霊体をつなぐ魂のハーネスの役割をしている。これを外すとレイナは急速に力を失って、消滅してしまう」

「レイナが消えちゃったら嫌だよ?」

「消えてしまわない為に、レイナのスキル『物質の生成と分解』を使って肉体を作り、それに宿ってもらおうと考えているんだけど、レイナはそれでいい?」

「でしたら、私が物知りさんの権能を行使して皆さんのチートスキルを習得させてはどうでしょうか?」

 レイナの提案をノエルは「それは無理ね」と首を横に振って否定した。

「ラプラスの記録は、例えるなら一億冊の本がある図書館のような物。ラプラスの記録へのアクセス権だけでは欲しい情報を得ることも、物知りさんの権能を扱うことも容易じゃないわ」
「欲しい情報にたどり着くための検索機能は、私のスキルとして与えられているから、私がカイトの魂と接続しないと無理ね」

 するとレイナはノエルに頭を下げる。

「そうでしたか、失礼致しました。それではノエル様の指示に従います」

「よし! ならやることは決まったわね」

 レイナが了解したところで、ノエルはそう言って立ち上がる。

「まずは高レベルモンスターのコアを沢山集める。次にそのコアを使ってレイナの肉体を生成する。どうせ作るなら、可能な限り強力な肉体にしましょう。そして私の魔法でレイナとカイトをつなぐ魂のハーネスを私に付け替えてから、創った肉体にレイナを宿らせる」

「ノエルはそんな魔法も使えるんだ?」

「こんなこともあろうかと、カイトの中にいたときにラプラスの記録を閲覧して、これらを可能にする魔法を習得していたのよ」

 こんなことがあるかもしれないって、思っていたんだ……。

「食べ終わったらすぐにダンジョンに行って、コアを大量に集めるよ!」

 ノエルの号令に「おー!」と俺が返事すると、マユ、クレア、フィリス、アイリの瞳には力が戻り「おー!」と声を揃えるのだった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。

鏑木 うりこ
恋愛
 クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!  茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。  ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?    (´・ω・`)普通……。 でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。

大きくなったら結婚しようと誓った幼馴染が幸せな家庭を築いていた

黒うさぎ
恋愛
「おおきくなったら、ぼくとけっこんしよう!」 幼い頃にした彼との約束。私は彼に相応しい強く、優しい女性になるために己を鍛え磨きぬいた。そして十六年たったある日。私は約束を果たそうと彼の家を訪れた。だが家の中から姿を現したのは、幼女とその母親らしき女性、そして優しく微笑む彼だった。 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

辺境薬術師のポーションは至高 騎士団を追放されても、魔法薬がすべてを解決する

鶴井こう
ファンタジー
【書籍化しました】 余分にポーションを作らせ、横流しして金を稼いでいた王国騎士団第15番隊は、俺を追放した。 いきなり仕事を首にされ、隊を後にする俺。ひょんなことから、辺境伯の娘の怪我を助けたことから、辺境の村に招待されることに。 一方、モンスターたちのスタンピードを抑え込もうとしていた第15番隊。 しかしポーションの数が圧倒的に足りず、品質が低いポーションで回復もままならず、第15番隊の守備していた拠点から陥落し、王都は徐々にモンスターに侵略されていく。 俺はもふもふを拾ったり農地改革したり辺境の村でのんびりと過ごしていたが、徐々にその腕を買われて頼りにされることに。功績もステータスに表示されてしまい隠せないので、褒賞は甘んじて受けることにしようと思う。

お母さん冒険者、ログインボーナスでスキル【主婦】に目覚めました。週一貰えるチラシで冒険者生活頑張ります!

林優子
ファンタジー
二人の子持ち27歳のカチュア(主婦)は家計を助けるためダンジョンの荷物運びの仕事(パート)をしている。危険が少なく手軽なため、迷宮都市ロアでは若者や主婦には人気の仕事だ。 夢は100万ゴールドの貯金。それだけあれば三人揃って国境警備の任務についているパパに会いに行けるのだ。 そんなカチュアがダンジョン内の女神像から百回ログインボーナスで貰ったのは、オシャレながま口とポイントカード、そして一枚のチラシ? 「モンスターポイント三倍デーって何?」 「4の付く日は薬草デー?」 「お肉の日とお魚の日があるのねー」 神様からスキル【主婦/主夫】を授かった最弱の冒険者ママ、カチュアさんがワンオペ育児と冒険者生活頑張る話。 ※他サイトにも投稿してます

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

異世界でゆるゆる生活を満喫す 

葉月ゆな
ファンタジー
辺境伯家の三男坊。数か月前の高熱で前世は日本人だったこと、社会人でブラック企業に勤めていたことを思い出す。どうして亡くなったのかは記憶にない。ただもう前世のように働いて働いて夢も希望もなかった日々は送らない。 もふもふと魔法の世界で楽しく生きる、この生活を絶対死守するのだと誓っている。 家族に助けられ、面倒ごとは優秀な他人に任せる主人公。でも頼られるといやとはいえない。 ざまぁや成り上がりはなく、思いつくままに好きに行動する日常生活ゆるゆるファンタジーライフのご都合主義です。

私から略奪婚した妹が泣いて帰って来たけど全力で無視します。大公様との結婚準備で忙しい~忙しいぃ~♪

百谷シカ
恋愛
身勝手な理由で泣いて帰ってきた妹エセル。 でも、この子、私から婚約者を奪っておいて、どの面下げて帰ってきたのだろう。 誰も構ってくれない、慰めてくれないと泣き喚くエセル。 両親はひたすらに妹をスルー。 「お黙りなさい、エセル。今はヘレンの結婚準備で忙しいの!」 「お姉様なんかほっとけばいいじゃない!!」 無理よ。 だって私、大公様の妻になるんだもの。 大忙しよ。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

処理中です...