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修行パート  挿絵有

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 目を開くと、青い空が広がっていた。

 立ち上がると足元に波紋が広がる。まるで水面に立っているみたいだ。でも濡れないし沈まない。

「ここは、どこだ?」

 呟き、首の可動範囲で視線を動かし周囲を見ると、水面みたいな地面と青空以外何もなく見渡す限りの地平線だ。果てしなく広い。

 背後に気配を感じ振り向くと、長い黒髪の美少女が立っていた。

 俺、また死んじゃったのかな? 今度の女神様は日本人みたいだな……。

 美少女は優し気な目で俺を見てにっこりと微笑む。



「初めましてだね? カイト。私がノエルだよ」

「ノエル……、凄い美人だったんだね」

「ふふっ、ありがと。でも、長々と話している暇はないから手短に行くよ」

「ここはカイトの精神世界。肉体はアーリキタの街の宿屋で寝ているよ」

「スタークはエラッソス公爵に報告した後に再びフィリスを連れ戻しに来る。次に戦ったら、今のままじゃ勝てない」

「さっきの戦いでカイトも分かったでしょ? スタークは素の能力も、こなして来た場数も、磨き上げた技量も全てにおいてカイトを大きく上回っている」

 確かに今の俺の力では、どうやってもスタークには勝てないだろう。俺の攻撃がほとんど効いていなかった。

「なら次は神器を使えば……」

「カイトの攻撃力ではスタークにまともにダメージを与えられない。仮にエクスカリバーやグングニルを使って戦っても、攻めきれずにスタークに奪われて勝てなかった」

「そこで、スタークに強力な魔法を使わせて、それを反射させようと考えたんだよ。カイトがそこそこ強いとを認めさせないと強力な魔法を使ってくれないだろうし。まぁ、ギリギリだったけど上手くいって良かったよ」

 ここまでノエルは笑顔で話していたが、真剣な目つきに変わる。

「でも次は無い。……だから、カイトに戦い方を教えるよ」

「戦い方?」

「そ、魔法を使っての身体能力の強化、高速移動、視覚に頼らない状況把握を習得してね」

「分かった。頼む」

 ノエルは「よし」と一言うと、どこからともなく光り輝く剣を出した。俺はビビって後ずさりしつつ問う。

「エクスカリバー使うの!?」

「これはエクスカリバーじゃないよ。それにここはカイトの心の中。カイトの心が折れなければ死なないから大丈夫」

「さあ、カイトも剣を出して。思い浮かべれば出てくるはずだよ」

 剣を思い浮かべると、いつも使っているオウデルさんに貰った剣が現れた。その剣を握り構える。

「私に一撃入れられたら、ここから出してあげる」

 そう言うと、ノエルの雰囲気が変わった。スタークなんて目じゃない程の獰猛なプレッシャーを感じて全身から汗が噴き出す。本当にここは俺の精神世界なのだろうか?

 プレッシャーに押しつぶされないように踏ん張りながら、ノエルを見つめている。ノエルがゆらりと動いたと認識した瞬間、俺は両断されて地に伏していた。

 が、パッと視点か切り替わったと思ったら立っていた。両断された体も元に戻っている。

「ここは全てがイメージの世界だからね。魔法も使い放題だし、体が損傷してもすぐに元どうり。でも、さっきも言ったけど、心が折れたらそれで終わりだから頑張ってね」

「さあ、カイトの持てる力の全てを使ってかかっておいで」

 俺は必死になってノエルに一撃を入れるべく攻撃を仕掛ける。

 ノエルはそのすべてを、一見すると緩やかともいえるような動作で軽々と躱し、鋭く反撃して俺を容赦なく切り捨てる。そして切り捨てるたびに助言をくれる。

「魔法を常に体と剣に纏わせて。魔法の込められていない斬撃なんてAランク以上には効かないよ」

「魔力を魔法に変換して放つときの無駄が大きい。MPを消費しすぎる原因だよ」

「目だけで動きを追わずに、相手の波動を感じ取って」

 この手の修業は多くの主役級の英雄たちが通った道だろうけど、まさか俺がやる羽目になるとは……。実際やると結構きつい。痛みはそれほどでもないけど、一方的に斬られ続けるのは参るね。

 だが、これを乗り越えれば俺Tueeeee&ハーレム実現にまた一歩近づけるはず。絶対にやり遂げる!!

 強力な信念煩悩が俺を突き動かすも、ノエルに一撃を入れるまでには何千何万とノエルに斬り捨てられたのだった。


 

 * * *



 アーリキタの街の宿屋のベッドで目を覚ますと、マユとクレアとフィリスが心配そうに俺を見ていた。

「マユ、クレア、フィリス心配かけてゴメン」

 マユは額を俺の額に押し当てて「このまま目覚めなかったらどうしようかと思った」と呟く。

 クレアは泣き顔で「カイト様ー、無事で良かったです」と俺に抱き着いている。

 フィリスは俺の手を握って「良かった」と溢した。

 俺にしがみついているクレアの頭を撫でながら三人に問う。

「ところで今何時?」

「18時を少し過ぎたとこ」

 8時間くらい眠っていたのか。何日も精神世界で過ごしたように感じたけど、思ったより時間は立っていないな。お腹も空いたことだし、とりあえずなんか食べたいな。

「ゴハン行こうか。食べながら明日から何するか説明する」



 体の調子を確認しながらテンプーレ亭へと向かう。体に異変は無く気分も良い。

 意識を軽く集中すると周囲の人の波動を感じる。

 なるほど、確かに人それぞれが全く違う。異なる楽器が奏でる音色のようだ。マユ、クレア、フィリスの波動は他の人たちよりも力強い。

 深い階層でレベルを上げているので感じる波動も強いのだろう。それに、強いだけではなくて温かくて少しくすぐったいような心地い感触だ。きっと俺に対しての感情とかも波動に現れるのかもしれない。



 テンプーレ亭に入り空いている席に着き注文をする。しばらくしてテーブルに並べられた料理を食べながら話し出した。

「スタークは近いうちにアーリキタの街に再び来る。今回はスタークに油断があって何とか勝てたけど今のままじゃ勝てない。次に戦うまでにしっかり鍛えて実力できっちり勝つ。三人とも協力してね」

 フィリスは曇った表情で聞く。

「私のせいでカイトに負担をかけているよね?」

 俺は首を振り、フィリスの心配をかき消すように精一杯の笑顔を作る。

「フィリスを取られないようにしたいんだから俺の為だよ。俺の我儘に付き合って」

 フィリスは「……ええ」と微笑むと、マユもクレアも力強く頷いてくれた。

「今更だよ。私はカイトのしたいことを手伝うから」

「私もカイト様の意思に従います」

 二人の決意に満ちた目を見て改めて思う。本当に俺は恵まれているな……。

「ダンジョンに潜るのはこれまで通り。でも、今までよりも深い階層へ行って強いモンスターを倒して出来るだけレベルあげよう」

「それと、みんなには魔装術を身に着けて欲しい」

 マユ、クレア、フィリスはきょとんとしている。代表してマユが問う。

「魔装術ってなに?」

「魔法を直接纏って身体強化して戦う技術の事だよ。スタークがやっていたでしょ? あれが出来ないとAランク以上とは勝負にならないからね」

「そんな事カイトも出来ないんじゃない?」

「さっき寝ている間にマスターしたからみんなに教えるよ」

「寝てる間って……、カイトって、本当に非常識だよね……」 

 マユは呆れているようだったが、今後の行動指針を一通り説明したのだった。
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