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神槍    挿絵有

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 ザッコスとの勝負を終えて闘技場の外へと出てきた。

 まだ午前中なので、フィリスをパーティーに加えダンジョンに行こうかと話がまとまった。 

「じゃ、冒険者ギルドのポータルから30階層まで行こうか。そこで肩慣らししてから下の階層に進もう」

 フィリスに伝えると驚くと同時に注意されてしまった。

「ポータルでダンジョンに行くとお金がかかるし、カイトたちはDランクでしょ? そんな深い階層は危険だよ」

 不安そうなので軽く冗談でも言って和ませるか。

「大丈夫、俺、最強だから」

 微笑みかけるとフィリスは俺に半眼で視線を向けて黙った。白い頬がほのかに赤く染まっている。

 もしかして俺に惚れているんじゃないのか? 俺はもうフィリスに惚れてるけどね。そんなことを考えていると、マユがあきれた様子で俺に言う。

「それじゃカイトの実力を知らないフィリスは余計不安になるよ。ただのおバカなのかなって思われてるよ?」

「う……」

 もっともな指摘をされて固まっていると、マユは続ける。

「心配しなくていいよ、私達は昨日も30階層で狩りしていたから」

「そうなの? でも危なくなったらすぐに帰ろうね」

 フィリスは30階層に行くことを一応納得したが、まだ半信半疑と言ったところか。



 * * *



 ――ティバンの森のダンジョン30階層。

 ダンジョン内のポータル施設を後にし、奥へと進むとソードリザードの大群がお出ましだ。

 俺はその群れに単身突っ込む。

 マユは神聖魔法を撃ち確実に一体ずつ倒していく。

 クレアはソードリザードから距離を保ち、エクスカリバーを振る。聖剣から煌めく流星群の如く光弾が飛び散ってソードリザードを削る。

 クレアには、俺に当たってもノーダメだから気にせずやってと事前に伝えたあったが、上手く制御できているのか俺には一発もかすることさえ無かった。

 削られたソードリザードを俺が神聖魔法と剣技を織り交ぜてとどめを刺していった。

 10体以上はいたと思うが、あっという間に全滅させて、大量のコアが散らばっている。

 それを四人で手分けして拾っていると、フィリスが近寄ってきた。

「カイトがこれほど強いとは……。Bランク並みの強さじゃない? それに神聖魔法まで使えるなんて」

「だから言ったでしょ。あんなの余裕だよ」

 フィリスが褒めてくれたので軽口で応える。

 それにしてもBランクか。俺にそれほどの強さがあるんだろうか? と考えると、ノエルの声が聞こえる。

「フィリスの見立ては正しいね。カイト個人の強さはBランク相当だよ」

 Bランク……。数日前はCランクのザッコスに手も足も出なかったのに。強くなったなー。と感慨に浸っていると、フィリスは続ける。

「カイトだけじゃない。マユもクレアも相当な腕前ね。私の実力では足手まといになってしまう」

「俺達と一緒に深い階層でモンスターを狩っていればすぐに強くなるよ。気楽に行こうよ」

 それでもフィリスは深刻そうな顔をしている。抜けるとか言わないよな?

 フィリスみたいな綺麗な子を手放したくない。ねぇノエル、フィリスを一気に強く出来ないかな?

「フィリスのマジックバッグに錆びた槍が入っているはず。それを出してもらって」

 錆びた槍だって? それって、まさか……。

「そ、神器の一つ、神槍グングニルだよ」

 なんでそんなものをフィリスが持っているんだよ……。

 疑問はあるが、それをマユの聖光に当てれば戦力大幅アップだな。

「あのー、フィリス。ちょっとおかしなことを聞くけど、錆びたぼろっちい槍とか持ってない?」

「持ってるよ」

 マジックバッグから錆びた槍を取り出し俺に差し出した。

 それを受け取りマユの聖光に近づける。すると聖光の光を吸収して、輝く槍になった。

 フィリスはそれを見て驚く。

「家を飛び出すときに持ち出した槍が……」

「家を飛び出す?」

「いえ、何でもない」

 なんか訳ありか。根掘り葉掘り聞かれても嫌だろうから流しておく。

 しばらくマユの聖光に当てた後、美しく輝く槍”神槍グングニル”をフィリスに手渡した。

「この槍を私が使ってもいいの?」

「その槍はフィリスの物でしょ、それ使ってバンバンモンスターを狩ろう」

「ありがとう」

 前衛が二人に増えバッタバッタとモンスターを薙ぎ払い、危なげなく35階層まで到達。レベルも48まで上がった。

 この日は35階層で岩を収納してから30階層まで戻りポータルで冒険者ギルドに帰った。



 * * *



 資材を引き渡す広場に入っていくと、昨日の鑑定おじさんが俺を見つけて声を掛けてきた。

「ブツを出しな。査定してやろう」

 岩とコアを出すと、鑑定おじさんは鑑定眼鏡で視る。

「今日はまたとんでもない物を持って帰ってきたな。オリハルコンの結晶が含まれている。かなりの高値が付くぞ」

 伝票を受け取り受付へ行くと、岩とコア全部で2500万イェンになった。

 貰える金額が日に日に増えていく。それも倍以上に……。

「テンプーレ亭でフィリスの歓迎会をしようか」

 四人でテンプーレ亭へと向かった。



 空いているテーブル席について周りを眺めると、俺の前には美少女三人がテーブルを囲んでいる。異世界転生最高かよ。

 っと、浸っている場合じゃない。フィリスの歓迎会なのでいつもより豪華なメニューを注文した。

 料理がテーブルに並びそれぞれがグラスを手にして、ソフトドリンクではあるが三人で乾杯をした。

「マユとカイトってすごく仲良く見えるけど付き合ってるの?」

 フィリスの問いにマユはおずおずと俺に確かめる。

「私はカイトの恋人……、だよね?」

「そうだよ。とっても大切な恋人」

 すると嬉しそうにマユは顔を綻ばせる。

 続いてクレアがフィリスに力強く言う。

「私はカイト様の愛玩奴隷です」


 
 クレア、それドヤ顔して言う事じゃないよ、きっと。

 フィリスが半眼で俺を見るので、誤解が無いようにはっきり言っておかなければ。

「確かにクレアは奴隷だけど、俺はそんな風に思ってない。大切な恋人だと思ってるよ」

「はぁ? なら二股してるの?」

「まぁそうなるね。俺の夢は俺Tueeeee&ハーレムだし」

「そんなことを良い顔して言われてもね……。まぁ、カイトの強さは認めるし、あなた達と一緒なら深い階層でモンスターを狩って早く強くなれそうだから今後ともよろしくね」

「フィリスも強くなりたいんだね。お互い頑張って強くなろう。それと、俺はフィリスの事も好きになったから、気が向いたら俺の恋人になって欲しいなー」

 こんなことを言えば大抵は不快に思うだろう。頼むぞモテモテチートスキル……。

「な、なに言ってるの! マユ、クレア、こんなこと言ってるけどいいの?」

「カイトだから仕方ない」

「カイト様だから仕方ありません」

 二人は、さも当然であるかのように答える。フィリスは困惑顔だ。

「……、私がおかしいのかな?」

「おかしいのはカイトの方だよ。変な奴なのに、好きになってしまった私もおかしいのかも」

 マユの自嘲を帯びた笑みを見て、フィリスは呆れたのか言葉を失う。

 あまり無理に口説いても嫌われそうだから、話題を変えるか。

「その件は考えておいてくれると嬉しいな。ところで、錆びた槍の事なんだけど、神器なんてどこで手に入れたの?」

 俺が錆びた槍の事を聞くとフィリスは困ったような顔に変わる。

「言わないとダメかな?」

「ちょっと気になっただけだから、言いたくないなら別にいいよ」

 どうしても知りたくなったらノエルに聞けば全部分かるだろうし。まぁ女の子の秘密を暴くような真似はしないけどね。



 * * *



 食事も終わり、テンプーレ亭を後にして宿屋まで来た。

「俺とマユとクレアの三人は同じ部屋に泊まるけど、フィリスは別の部屋がいいよね?」

 少しの間の後、フィリスが答える。

「そうね、恋人が仲良くしてるところに邪魔できないし」

 少々残念だが、俺とマユとクレアは三人部屋に泊まり、フィリスは一人部屋に泊まることになった。

 三人で部屋に入ると、そそくさとシャワーを浴びてきて、待ってましたとばかりにマユとクレアが抱きついてくる。

 夜遅くまで三人で目一杯楽しむのであった。



 * * *



 ――翌朝。

 俺、マユ、クレアと共に食堂で朝食を食べていると、フィリスが後から俺達のテーブルに合流する。

 フィリスの目の下にはうっすらと隈が出来ているように見える。

「フィリス、寝不足?」

 俺が尋ねると、フィリスは不機嫌そうに文句を言う。

「あんた達ねぇ、楽しむのはいいけど、声が大きすぎるのよ」

「え……、ほら、他の人かもよ?」

「大きな声で名前を呼び合ってたでしょ? 全部聞こえていたんだから」

「……ゴメン、次からは気を付けるよ」

 俺はフィリスの肩に手を当て「セイグリットヒール」と言霊を唱える。

「これで少しは寝不足も楽になった?」

 フィリスは目を逸らし「……ええ、アリガト」と髪をかき上げながら礼を言う。

「今夜はフィリスも一緒にどう?」

 フィリスの耳元で小声で言うと、ビクッと身震いして頬を染めながらも首を横に振った。

 そんな簡単には堕ちないか。まぁ、これからは一緒に行動するんだし気長にいくか。
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