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上手くいかない

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 ザッコスの視点


 

 俺が生まれ育った村は貧しかった。

 どれだけ必死に働いてもその日食っていくだけでいっぱいだった。

 このままこの村と共に朽ち果てていくなんてごめんだ。そんな思いを募らせて、ガキの頃から仲の良かったモブーラ、ヨワーネ、マユの四人組で村を捨てて冒険者になることを決意した。



 俺たちは多くの冒険者で賑わうと有名な街、アーリキタへ行き冒険者登録をした。

 そして四人でパーティーを組みダンジョンに潜るようになったのだが、幸いなことに俺にはレアスキル”急成長”があり、他の奴らよりもレベルが上がるのが速いことに気が付いた。

 モブーラとヨワーネもそれぞれ使えるスキルを持っていたようで、俺のサポートぐらいには役に立つ。でもマユはただ明るくするだけのハズレスキル持ちだった。



 ティバンの森のダンジョンに潜る様になって2年、俺はレベル45になり、18階層まで到達できるようになった。

 他の奴らのレベルは25前後だから、俺のパーティーは、高レベルで強い俺がいるから成り立っていると言えるだろう。

 ある時、ダンジョン探索をしていると後衛でマユがモンスターに襲われていた。持っている杖で必死にモンスターの攻撃をさばいている。攻撃能力が低すぎてモンスターを倒せずにいるんだな。

 俺はダッシュで近づいて華麗にモンスターを切り捨ててやった。

「こんな雑魚、リーダーであるこの俺にかかればイチコロだぜ」

 スマイルしてさりげなく俺の強さをマユにアピール。

「ハイハイ、出来るなら一人でモンスターに突進しないで、パーティー全体に気を回して欲しいものね? リーダーさん」

 照れて毒づいているのか、可愛い女だ。ハイタッチ代わりにマユのお尻に手を伸ばした途端、俺の手を杖ではたきやがった。

「チ、ハズレスキルの無能女が」

 するとマユは鋭い目つきで俺を睨んだ。これは……嫌よ嫌よも好きのうちって奴だな。照れなくてもいいのに。



 そんな感じで俺はパーティーの大黒柱として活躍していたが、遂に俺だけCランク冒険者に昇格することが出来た。冒険者ギルドも俺の力を認めたって事だ。

 昇格した日の晩、宿でマユを俺の部屋に呼んだ。今日こそはマユに好きだと伝えるつもりだ。

 マユが俺の部屋に来て「用事って何?」と聞く。こいつのスキルはゴミだが、見た目だけはかなり良い。自分を抑えきれずにストレートに思いをぶつけた。

「昇格祝いにイイコトしようぜ?」

 マユを抱き寄せようとすると、手を突き出して俺を拒む。

「なあ、マユいいだろ? 俺はお前の事が好きなんだ」

 マユは見るからに嫌そうな顔をして語気を強める。

「無理。絶対嫌!」

 その態度にカチンとした俺は、ついマユにきつい言葉を浴びせてしまった。

「なら俺の前から消えろよ! お前は明るくするだけのハズレスキル持ちだ。俺の強さのおかげで冒険者としてやっていけてるんだろ!?」

 マユはその綺麗な顔を悔しそうにゆがめ、汚いものを見るかのような目つきで俺を見ている。俺は慌てて取り繕おうとした。

「俺に従えば大事に可愛がってやるからさー。悪い話じゃ無いだろ?」

「何かにつけて、私をハズレスキルと罵るあんたなんかのペットになるくらいなら、パーティーから抜ける!」

 去ろうとするマユを、どうにか引き止めようと声を出す。

「おい、待てよ! 俺のおかげで手に入った高価なアイテムは置いて行けよ」

 マユは振り返ると荷物持ちとして預けてあった100ℓの大容量マジックバッグを俺に放り投げる。

「その中にパーティのお金で買った高価なアイテムは全部入ってるわ。これで満足でしょ? 今までお世話になったわね。さよなら」

 そう言って去って行ってしまった。世の中ってのは上手くいかねぇな。

 クソ、マユめ。ちょっと、いや、かなり可愛いからっていい気になりやがって。ハズレスキル持ちで、一人じゃ何もできないくせに……。

 いいさ。頭が冷えたら、俺に謝りに来るだろうからな。俺は一人で酒を飲んでベッドに倒れ込んだ。



 ところが、翌日どれだけ待っても、マユは謝りに来なかった。一人じゃダンジョンに潜ることさえできない。まさかパーティーメンバーを募集しているのか?

 夕方、冒険者ギルドへ行き、パーティーメンバーの募集を確認するが、マユの名は無い。

 代わりにレベル37の槍使い、フィリスってのが募集をしていた。どうやら自分のパーティーメンバーは冒険者に限界を感じて引退したらしい。よくある話だ。

 魔映鏡に映し出されたフィリスの顔はマユと比べても遜色ないほどの美人だ。

 こいつをマユの代わりにパーティーメンバーに加えるか。俺の強さを見せつければ惚れるだろうからもうマユなんかいらねぇ。



 * * *


 
 冒険者ギルトを介してフィリスと待ち合わせをして顔合わせをする。俺がレベル45であることを告げると、すんなりパーティー加入を決めた。それにしてもフィリスは身震いしてしまう程のイイ女だ。早く俺の物にならねぇかな……。

 俺の強さをアピールする為に、フィリスをパーティーメンバーに加えて、早速ダンジョン探索へと向かった。

 明かり担当のマユがいないから、モブーラとヨワーネにやらせるか。俺とフィリスは前に出てモンスターと戦うからな。

 そもそも明かりをつけるだけなら属性問わず魔力球を作って浮かばせれば光る。

 それくらいなら魔法をろくに使えない俺だってできるし、冒険者の多くがそうやって明かりをつけて暗いダンジョンを探索している。

 モブーラの得意な水属性の魔力は青く光るし、ヨワーネの火属性の魔力はオレンジ色に光る。光らせるだけならMPの消費も少ないからマユなんていなくても何も問題ないはずだ。 



 最近の狩場は余裕を待って戦える15階層だが、今日はなんか調子が悪い。13階層のゴブリンごときに何故か苦戦している。

 普段なら一撃で倒せるはずの雑魚だが倒しきれない。ゴブリンどもの動きがすばしっこく感じるし、なんとなく体が重たい気がする。

 体調が悪いんだろう。こんな日は帰って休むか。

 ダンジョンの入り口に戻る途中、聞き覚えのある声がした。見るといけ好かない感じの男と仲良さそうに話しているマユがいた。

 楽しそうに微笑んでいる姿を見て、俺はいてもたってもいられなくなって、マユに近づいて行く。

 気が付いたらマユを突き飛ばしていた。

 いけ好かない男はマユを起し俺を睨みつけ、謝れなどとのたまう。

 モブーラにレベルを確認させるとたったの18だった。雑魚のくせに生意気な。

 俺がそいつをぶん殴ると壁まで吹っ飛んで行った。弱っわ。違うか、俺が強いんだ。マユを見ると、泣きそうな顔をしている。まさかこの低レベル男に惚れているのか?

「ザッコス! レベルが20以上も低い者を殴り飛ばすなんてどういうつもりだ? 死なせてしまったら厳罰だぞ!」

 フィリスが怒りをあらわにして俺を注意するが、こいつが向かってくるから仕方ないだろ?

 この低レベル男は実力差が分からない程のバカなのか、なおも俺に向かってくる。雑魚のくせに本当に生意気だ。

 俺が拳を振り上げぶん殴ろうとするとフィリスが止めた。

 低レベル男は「こんなパンチ効くか!」と吠える。見るからにやせ我慢してやがる。ダッセェな。

 挙句に「三日でお前に勝ってやる!」などと言い出した。

 つまらんはったりだ。レベル18の奴が三日やそこらでレベル45の俺にかなうわけない。ここまで強くなるには俺の持っているレアスキル”急成長”をもってしてでも、2年もかかったんだからな。

 ヨワーネが高笑いしながら俺をからかう。

「ザッコスー、低レベル君怒っちゃったよー! あんたの命もあと三日だねー」

 しょうもない冗談だ。

「ヨワーネ、それ、マジでウケるわ!」

 笑うヨワーネにそうやって冗談で返し、生意気な目つきで俺をみている低レベル男を見下してやった。

「じゃあ、三日後に闘技場で待ってるよー。怖かったら逃げてもいいでちゅからねー」

 そう吐き捨ててその場を立ち去った。



 あれから三日たった。約束通り闘技場で待っていてやる。どうせ来ないだろうがな。

 明日にはあの低レベル男を臆病者と罵って、無理やりにでもマユを取り戻してやるとするか。
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