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聖剣

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 はぁ、えちえち出来なかったのは残念だった。切り替えて、二人を起こして朝ごはんでも行くか。

 ベッドに戻って寝ている二人の美少女の肩を軽く揺らしてみる。二人はすぐにパチッと目を開けた。

「おはよ、なんかすっきりした顔してるのね?」

 マユから掛けられた言葉に何と応えるか考えていると、クレアが「カイト様、また夢せ……」と言いかけたので、咄嗟に大き目な声が出てしまう。

「わー!! えっと、こんなに可愛い女の子二人と寝たからよく眠れたんだよ。きっと!」

「ふふ、なに慌ててるの? 変なの。私もカイトの隣で寝たら良く眠れたよ」

 マユ……、朝から笑顔が眩しいよ。

「私もカイト様と一緒で幸せでした!」

 クレアも可愛いなぁ。

 二人と手をつなぎながら食堂へ移動し、二人の顔を交互に眺め、幸せを味わいながらの朝食となった。



 朝食を終えてから部屋の戻り、今日はどうすればいいのかノエルに確認した。

「まずはギアショップに行って買い物をしよう」

 ああ、アレ買わなきゃな

「それと、クレア用に剣を買おう」

 クレアに? 剣の才能があるとか?

「特に才能がある訳じゃ無いけど、これからダンジョンの深い階層に潜るとなると、自分の身は自分で守れるくらいにならないとね」

 そうかもしれないけど、剣を買って持たせただけで身を守れるのか?

「ノーブルスキル”変身”は姿だけが同じになるんじゃなくて、変身する対象への好感度が高いほど身体能力を再現できるよ。クレアのカイトに対しての好感度は上限振り切っているから、身体能力はカイトと同じになるよ。スキルはまねできないけどね」

 身体能力が俺と同じになってもスキルが無いなら危ないのでは?

「カイトが剣技を指導すればいいんだよ。オウデルさんに教わった通りに教えればいいよ。クレアはカイトの言う事なら何でも素直に聞くはずだよ」

 何でも素直に俺の言う事を聞いてくれるのか!?

「崇拝に近いほどカイトの事が好きだから、何でも聞くだろうね」

 クレアにチラリと視線を向ける。クレアは少し首を傾げて微笑みを向けてくれた。

 こんな可愛い子が俺の言いなり……。ゴクリと生唾を飲み込む。別に良からぬことを考えているわけでは無い、本当だよ!

「それと、マユには神聖魔法を習得してもらおう」

 神聖魔法?

「アーリキタの街の中央神殿で習得できるよ。適性さえあれば、神殿で祝福の儀をすれば使えるようになる。お布施が100万イェン必要だよ」

 100万? 高っ!!

「神聖魔法は適性がないと習得できないんだけど、マユは神聖魔法の適性がとても高いから、強力な治癒魔法や攻撃魔法を使えるようになるよ」

 それは面白そうだ。100万イェン以上の価値はありそうだな。買い物が終わったら神殿とやらに行こう。

「そうと決まれば早速クレアをカイトに変身させて」

 今から?

「可愛い女の子の服を着た状態でカイトに変身すると問題あるでしょ?」

 それもそうだな。

「クレア、悪いけど俺の服に着替えて俺に変身してくれ」

 可愛い姿のクレアとダンジョン探索した方が楽しいに決まっている。苦渋の選択だが、より深い階層での安定性を取るには仕方ない。

 俺の服に着替えたクレアがノーブルスキル変身を使った。

 一瞬クレアが光ったかと思うと、目の前にはとてつもなく整った容姿の美少年が立っていた。

 このイケメン誰? 変身って俺になるんじゃなかったの?

「カイトだよ。女神様にモテモテな容姿にしてって頼んだでしょ」

 はー、これが俺なのか……。この世界来てから初めて自分の顔見たわ。前世では自分の見た目が嫌すぎて鏡とか見ない癖がついてたんだよね……。

 マユは目を丸くしながら俺と、俺の姿をしたクレアを交互に見ている。

「カイトが二人……」

 俺の姿になったクレアは両手で自分を抱きしめるような仕草をしている。

「ああ、カイト様……」

 何故か二人は恍惚の表情を浮かべていた。



 * * *



 冒険者用ギアショップにやってきた。

 真っ先にアレを購入。お徳用の大箱を買ってマジックバッグに収納した。

 次は剣だな。

 剣コーナーに移動しつつノエルに聞く。どれ買おう?

「ジャンクコーナーにあるあのボロくてさびた剣にしよう」

 クレアにあんなので戦わせるのか?

「いいからいいから」

 まあノエルの言う事だからな。お値段1000イェン、安いがホントに大丈夫なんだろうな……。

 そういえば俺の剣は?

「オウデルさんのくれた剣はちょっとした名剣だからね。あれ以上の性能の剣を買うとすると相当高いのを買わないといけないから、今は買わなくていいよ」

 そうだったのか、オウデルさんありがとう……。

 目的のものを買った後は、店内をブラブラしつつ適当に目にとまった物を衝動買いして店を出る。

 次は神殿だな。神殿ってどこにあるの?

「神殿はこの街の中央にあるよ。ポータルで行こう。街の中なら一律1000イェンで一瞬で移動できるよ」

 そんな便利なものがあるのか。

 というわけで、ポータルで神殿に行くことにした。冒険者用ギアショップの一角にもポータルの施設がある。

 そこの床にはいくつもの魔法陣が描かれており、傍らには係の人が一つの魔法陣につき一人立っている。

 係の人に行先を伝えお金を払って魔法陣中央に行くと、係の人が魔力を込める。すると魔法陣から光が溢れてきて包まれた。

 光が収まると、周りの様子が変わっている。確かに他の場所に転移したみたいだな。

 ポータル施設から出ると目の前に立派な神殿が建っていた。これが中央神殿か。

 神殿に入ってシスターさんを呼び止めて聞く。

「祝福の儀をして欲しいんだけど……」

「こちらへどうぞ」

 部屋に案内され待っていると、神官と思われるおじいさんが現れたので100万イェンを渡す。

 おじいさんは手に持った杖をマユに向けて、何やら呪文を唱え始めた。

 俺とクレア他にやることも無いのでしばらく眺めている。

 程なくすると、呪文を唱え終わったようだ。あれだけで神聖魔法使えるようになったの?

「マユのスキルに神聖魔法LV7が追加されてるよ」

 いきなりLV7なの?

「マユは神聖魔法だけならカイトの天才には及ばないけどかなりの成長率だよ。しかも、ノーブルスキル聖光は神聖魔法と根源が同じだから神聖魔法の熟練度が溜まっていたんだよ」

 マユってすごいんだなぁ、と感心していると、おじいさんはA6サイズの小さな本を俺に差し出す。

「神聖魔法を発動させるための言霊の記された書じゃ。サービスでコレも進呈しよう」

 俺は本を受け取って、パラパラとめくり軽く目を通した。魔法発動の為の言霊と効果が書かれている。セイグリットヒール、治癒魔法かな? ホーリーレイ、攻撃魔法だろうか、俺も使ってみたいな……。

「カイトも神聖魔法LV1を習得したよ」

 え、これだけで習得できるの?

「天才を持っているカイトだけの特権だよ」

 100万イェンは高かったが、予想以上の成果があったな。

 必要なものは買いそろえたことだし、ダンジョンに行って色々試すか。



 * * *



 街を出てダンジョンに向かって、三人で歩いている。

 美少年に変身しているクレアをまじまじと見る。

「それにしてもクレアは美形だよな……」

「カイト、それって自分の事を美形って言っているみたいだよ」

 マユの突っ込みにもいまいち実感がわかない。

「俺、ホントにこんなにカッコいいの?」

「はい、カイト様はとても素敵です!」

 微笑むイケメンに力強く褒められてしまった。



 * * * 



 ダンジョンに入るとノエルが指示をする。

「まずは適当に人気のない所に行って」

 俺達は言われた通りにダンジョン7階層まで行き、人気のない方へ進んだ。

 ここなら誰もいないよな? キョロキョロ見回して周りに誰もいないことを確認した。

「さびた剣を出して、マユの聖光で照らして」

 俺の頭の中でノエルが指示をするので、マユの作り出した光球にマジックバッグから取り出したさびた剣を近づける。

 さびた剣は光を吸い込んでいるみたいで、聖光の光球がしぼんでいく。マユは頑張って聖光を使う。

 しばらくそうしていると、錆びた剣は、磨き上げられた宝石のように輝く美しい剣になった。

「神聖な力を宿した光を吸収する素材”アダマンタイト”で出来た剣だよ。軽くて扱いやすいからクレアに持たせてあげて。魔力が枯渇してぼろっちくなっていたけど、マユがいれば無限にこの剣を使い続けることが出来るよ」

 この剣、なんて名前なの?

「聖剣エクスカリバー」

 は!? 何気に最強の剣が手に入ったのか? 毎度のことだがノエルさん半端ねぇ……。

「カイト、エクスカリバー知ってるの? 神話の時代に神々に作られた神器の一つだよ。このままマユが聖光で光を当て続ければそのうち本来の力も取り戻せるかもね」

 とんでもないことをノエルが言っているとは思ったが、いつもの事だしまぁいいか。神々しい光に包まれたその剣をクレアに差し出す。

「クレア、この剣受け取って」

「カイト様……、ありがとうございます」

 クレアは俺を見つめ目を潤ませ頬を染めている。ただしクレアは今、俺の姿をしている。

 なんかちょっと違う感はあるが、喜んでくれたようなので良しとしよう。



 ダンジョンの8階層までやってきた。

 聖光の光を受けているといつもより力が湧いてくるような……?

「マユの聖光がレベル7になってるね。神聖魔法を習得した二次作用だよ。バフの量が今までよりも大きくなっているね」

 頼もしいことだ。感心しているとモンスターのお出ましだ。この階層のモンスターはキラーマンティス。1.5m程度の大きさのカマキリだ。

 ここはマユの神聖魔法を見せてもらおう。

「マユ、あのカマキリに神聖魔法を使ってみて」

 マユは頷くとキラーマンティスに杖を向けて「ホーリーレイ」と遠慮がちに呟く。

 杖の先からではなく、聖光の光球から光線が放たれモンスターを貫き、あっさりとコアに変わった。

 マユは目を見開いて驚いている。

「今の光が私の魔法?」

「そうだよ! すごい威力だ!」

「私にこんなことが出来るなんて……」

 マユはとても嬉しそうだ。 

 続いて俺も試してみる。

 次々と現れるキラーマンティスに手のひらを向けてホーリーレイと叫んでみた。マユのよりも細く弱々しい光線が俺の手のひらから放たれモンスターに命中する。一発では倒せなかったので、何度もホーリーレイと叫んだ。

 ハァハァ、普通に剣で切るよりも疲れた。 

「神聖魔法のレベルが4に上がったよ」

 相変わらず成長は早いな。

 お次はクレアのエクスカリバーだな。

「あのモンスター、やれそうか?」

「はい、やってみます!」

 クレアはキラーマンティスに駆け寄って聖剣を振るう。聖剣がモンスターにかすると、それだけでモンスターはコアになった。

 さすが聖剣。凄い威力だ。俺が感心していると、ノエルも感心したみたいだ。

「これなら20階層までは余裕だね。深い階層の方がレベル上げの効率がいいから奥へ進もう」

 新しい力が手に入った俺達は意気揚々としてダンジョン奥地へと足を運ぶのだった。



 * * * 



 ダンジョンを進んで行き現在16階層、何度かモンスターと戦うがはっきり言って楽勝だった。

 俺が数回斬らないと倒せないモンスターもクレアがエクスカリバーで軽く撫でるとそれだけで真っ二つになってしまう。

 マユの神聖魔法も威力がおかしい。同じホーリーレイでも俺が使うと2~3発は打たないと倒せないが、マユが使うとモンスターを容易く貫通して複数体を瞬殺している。

 それにしても、聖剣持ったらザッコスにも楽勝じゃないのか?

「楽勝だろうね。ザッコスは装備品ごと真っ二つになるけど、それでよかったらどうぞ」

「それは、ちょっとな……」

「ならレベルを上げて実力で勝とう。エクスカリバーがあれば、いざという時にも何とかなるから多少無理がきくよ。まずは20階層目指してどんどん深くまで進もう」

 俺達は20階層を目指しダンジョンを奥へと進んで行った。
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