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戦わないで

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 マユは泣きそうな顔で、両手を地についている俺の顔を覗き込む。

「カイト大丈夫?」

 俺が弱いせいでマユにこんな顔をさせてしまったのか。

「ああ問題ない。だからそんな顔しないで」

 俺に怪我がないことを確認するとマユは表情を緩めた。

「レベル45のザッコスに殴られたのに怪我一つしてないなんて……」

 これ以上心配させないように俺も頑張って笑顔を作る。

「俺は打たれ強いんだよ。それよりもあいつらマユの知り合い?」

「私が元いたパーティーの人達だよ」

「ザッコス、モブーラ、ヨワーネの三人は知っているけど、フィリスって人は知らない。きっと私が抜けた後に入った人だと思う」

「あいつらがマユをパーティから追い出したのか」

「ザッコスに……迫られて、断ったら、お前みたいなゴミスキル女いらねーわ、って追い出されちゃった」

 マユは無理に笑顔を作って話すのを見て、また怒りがぶり返して来た。

 するとマユは俺の腕を掴んで「私のせいでカイトに嫌な思いをさせてごめんね」と必死に詫びる。彼女の目には涙がたまっていて、今にも零れ落ちそうだ。

 そうか、マユは俺の怒りを察したのか。俺は自分を落ち着かせるために息を吐く。

「マユが謝る事なんて何もない。悪いのはザッコスだよ。あいつは一発殴ってやらないとね?」

「駄目だよ! またカイトが酷い目に合うよ! まさか闘技場で戦う気? そんなことしたら本当に殺されちゃうよ!」

「心配しないで。俺はあいつの攻撃では絶対に傷つかないんだ。そういうチートスキルを持ってるんだよ」

 マユとクレアは驚いたのか目を丸くして俺を見る。

「このことは、他の人に言わないでね。三人だけの秘密だよ」

 二人はコクコクと頷いた。

「傷つかないと言ってもそれはザッコスも同じ事だ。俺の攻撃は全く届かなかった。だから三日間で出来るだけ鍛えようと思う」

「そんな……、たった三日でレベル45のザッコスと同等の強さになるなんて無理だよ!」

「同等の強さじゃない、あいつよりもずっと強くなるんだ。三日あれば充分だよ」

「だから、無理だって!」

「じゃあさ、もし三日で勝てたらマユは俺の彼女になって欲しいなー」

「こんな時に冗談言わないで」

「冗談じゃないよ。強くなりたいのも、大好きなマユととっても仲良くしたいのも」

「……いいよ。私もカイトの事は好き。彼女にもなる。でもザッコスと戦わないで!」

 マユの言葉に俺は一瞬頷きそうになるが、グッとこらえる。

「ハーレムと同時に俺Tueeeeeするのも夢なんだ」

 マユは呆れた様子でため息をついた。

「はぁ、カイトっておバカなんだね。ザッコスに酷い目に合わされても知らないよ」

 クレアも俺の腕に抱きついて大きめの声で言う。

「私もカイト様の事が大好きです!! なので私も……」

 クレアは言いかけて俯き顔を真っ赤にしている。

「ありがと、クレアも彼女になってくれるなら嬉しいよ」

 俺が笑顔を向けると、クレアは顔をあげて嬉しそうに俺の腕に抱きつく力を増した。

「それで、今からどうするの?」

 マユは俺に問うので、ザッコスに勝つ為にはどうしたらいい? とノエルに指示を仰いだ。

「今日は帰って明日から頑張ろう」

 拍子抜けだがノエルが言うんだから間違いないはず。

「今日は帰って明日から頑張ろう」とノエルの言葉をそのまま二人に告げて街に戻る事にした。



 * * *



 アーリキタの街に戻り、冒険者ギルド裏の査定場まで来た。

 職員のおじさんが鑑定眼鏡を通して俺の持って帰ってきた岩を見る。

「お? かなり金が含まれているな。これは高値が付くぞ」

 おじさんから紙を受け取り、建物内の受付に持って行くと、コアと岩、合わせて97万イェンになった。

「思ったより高かったね。これは助かるな。はい、これマユの分」

 札束の真ん中くらいで適当に分けてマユに差し出す。

「だから、そんなにもらえないって! カイトの金銭感覚どうなってるの!?」

 マユはあきれながら大きめの声を上げる。

「この世界に来たばかりだから金銭感覚って言われても良く分からないよ。それに俺の鑑定能力で儲かる岩が分かるんだから、これくらい簡単に稼げるよ。遠慮しないで」

 俺はマユの手を取り、手の中にお金を握らせた。それでもマユは受け取らないように抵抗するので、俺はマユの手を両手で包むように握って微笑む。

「受け取ってくれると嬉しいんだけどなぁ」

 すると、マユは頬を染めて視線を落とし、抵抗するのをやめてお金を受け取ってくれた。

「さ、お腹も空いたし、ご飯行こうよ」

 マユとクレアはコクリと頷いたので、俺達は冒険者ギルドを後にしてテンプーレ亭へと向かった。



 * * *



 賑やかな店内でテ―ブル席について、食事をしながらマユの話を聞いた。

「ザッコス、モブーラ、ヨワーネは同じ村出身なの。私達は貧しい村での生活に嫌気がさして、村を飛び出して冒険者になったんだ」

「ザッコスは剣が得意で、モブーラは盾と治癒魔法が得意で、ヨワーネは火魔法が得意だったんだけど、私だけが明るくするだけのスキルで役に立てなかったの……。それでも最初は仲良くダンジョン探索していたんだよ」

「でもザッコスがDランクに上がってからは、何かと私に突っかかってくるようになってきて……」

「それも少しづつエスカレートしていって、Cランクに昇格した日に部屋に呼ばれて……、無理に関係を迫ってきたから強く断ったんだ……。そしたら、パーティーから追い出されちゃった」

 ザッコスは好きな女の子に突っかかったり強引に迫るタイプなんだな。マユを追い出すなんてもったいない。まぁ、そのおかげで俺がマユと一緒に居られるわけなんだが。

「ゴメン、食事中にこんな話。つまらないよね」

「ちょうど聞きたいと思ってたところだよ。ザッコスは元カレじゃなくて、幼馴染なだけみたいで安心した」

「ザッコスが元カレなんてありえないから!」

「なら俺は? マユの事は好きだけど、無理に迫って嫌われたくないからなー」

 様子を窺う為に冗談っぽく言って見たが、とても気になる部分だ。

「ダンジョンでも言ったでしょ? 私もカイトの事は好き。そういう事だって、別に嫌じゃないよ……」

 マユは言いながら声が小さくなっていく。俺はテーブルの下で拳を握り軽くガッツポーズをしつつ、マユに問う。

「そういう事って?」

「ばか。女の子に言わせようとしないで!」

 マユの顔は真っ赤だ。女神様にお願いした女の子にモテたいという望みは叶えられているようだな。

 つい口角が上がってしまう。恥ずかしそうに下を向いているマユを見つめていると、クレアが声をあげる。

「私もカイト様の事が大好きなので、エッチな事をされても大丈夫です!!」

「クレア、嬉しいけど声がちょっと大きいかな」

 クレアも顔を真っ赤にして下を向いてしまった。

 俺は今、この二人の美少女に間違いなくモテている。これもチートスキルの力……。

 心の底から何かがこみ上げてくる。

 素晴らしい……、素晴らしいぞこの力!! と心の中で叫ぶのだった。
 
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