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ゲームの世界に転移したら美少女二人が迫ってくるんだが?

1.転送  挿絵有

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 中学校の卒業式が終わり、卒業生たちは思い思いに別れを惜しんでいる。

 俺は3年間想いを寄せていた、憧れの女の子である鳴海久奈なるみひなが一人になるのを見計らって、駆け寄り声を掛けた。

「鳴海さん、好きです! 俺と付き合って下さい!」



 黒髪をポニーテールにした美少女は、俺の言葉を聞いて目を見開き驚いている。そして数回まばたきをした後、口を開いた。

「ごめんなさい。私、柳津やなづ君の事あまり知らないし……」

 振られるだろうと覚悟はしていたものの、実際に振られて頭の中が真っ白になった俺は、その場からダッシュで逃げた。
 必死に走っていると躓いて転んでしまい頭を打つ。ゴン! と頭部に痛みが走り――目が覚めた。



 痛てて、ベッドから落ちるとは何てベタな。しかし、今更あの時の夢をみるなんて。
 鳴海さんか……、別々の高校に進学してからは、考えることも無くなったけど、可愛い子だったよな。

 鳴海さんみたいな可愛い女の子が彼女だったら、もっと人生頑張るのになー。などと妄想しながら床の上でゴロゴロしている。

「コラ! 樹、いつまで寝てんの!? 夏休みだからってダラダラしすぎだよ!」

 一階から母親の声が聞こえる。仕方がないので体を起こし、のそのそと一階に降りていった。

 朝食をとりつつ、テーブルの上に新聞と一緒に重ねられているチラシを手に取り、目を通した。
 某大型ショッピングモールで最新スマホを無料進呈か……。

 俺のスマホは父親が使っていたおさがりだ。ゲームも重いし容量も少ない。最新スマホが無料なら欲しいな……。
 でも、こういうのって、無料とか言いつつややこしい条件があって、結局お金かかるんだろ? 
 半信半疑ではあったが、なんとなく気になったので、つい出かけてしまった。



 * * *



 大型ショッピングモールのイベントブースに行くと、きれいなお姉さんが新型スマホを無料で配布していた。無料の条件は新作ゲームアプリをダウンロードしてプレイし、感想を投稿するという簡単なものだった。

 きれいなお姉さんに説明を聞きながら、申し込みの必要事項をタブレット端末に入力する。
 その後、スマホを受け取り初期設定をして、例の新作ゲームアプリをダウンロードし起動した。

 すると、スマホの画面が明るく光り、俺は思わず目をつむった。

 光が収まりゆっくりと目を開けると、周りの景色が変わっていた。驚いて周囲を見渡すと、グラウンドのようなところにいて、そこには大勢の人がいた。

 えっ!? 何が起きたんだ? さっきまで、ショッピングモールにいたはずなのに……。突然の出来事に戸惑っていると、大声が聞こえてきた。

「ここはどこなんだ!?」
「責任者出せ!」

 大声を上げていない他の人たちも、戸惑っているようだった。ザワザワと騒然としている中で、自分の置かれた状況を考えていると、女性の声が聞こえてきた。

「はいはーい、皆さんお静かにー」
「この度は、新作ゲーム”箱庭のエリシオン”のテストプレイに参加いただきありがとうございまーす」

 声のする方向を見ると、朝礼台のようなものがあり、その上に青色で長い髪の女性がマイクを持って立っていた。

 青い髪ってゲームとかアニメの登場人物みたいだな。

 周囲の人々の騒ぐ声が大きくなり、元の場所に戻せと叫ぶ人もいる。その女性はそれらの声を全く気にせずに、妙に陽気な声で続ける。

「皆さんはゲームをクリアするまで、お家に帰れません。頑張ってクリアして下さーい」

「何勝手にこんなとこに連れてきてんだ! 早く元にもどせ!」

 一人の男がその女性に詰め寄ろうとした。ところが見えない壁に阻まれて、近づくことができないようだった。

「残念ながら、皆さんは私に危害を加えたりは、できないルールになってます。しっかり説明を聞いて、ゲーム攻略を楽しんでください」

 あ……これやばいやつだ。殺し合えとか言われちゃうやつだよね、勘弁してくれよ。恐怖と緊張で、冷や汗が背中を伝う。

 動揺する人々など、全く気にするでもなく女性は変わらない調子で話を進める。

「この空間は、現実世界と比べて時間の流れを速くしています。この世界の時間で半年経過しても、現実世界ではたったの6時間しか経過しません。慌てずに楽しんで行ってくださいねー」
「また、モンスターと戦うのはちょっと……という方はログボのお金で宿屋で過ごしたり、センター内の施設で遊んだりして、誰かがクリアするのを待っていても問題ありませんよー」

 なんか緩いな。こんなところに強制的に招集されたからには、血で血を洗うデスゲームに強制参加させられるかと思ったが、そうではないらしい。
 ひとまずホッとしていると、一人の高校生くらいの男が質問する。

「ゲームクリアの条件は?」
 
「ここは”箱庭”中央にある生活区域です。ゲームでいうところの町ですね。センターと呼んでいます」
「この”箱庭”の東西南北の端に設置してある転移ゲートから、モンスターのいるフィールドに行って、それぞれのフィールドボスを討伐して下さい」

「4体のボスモンスターを倒すと、センターの中央、つまりここにラスボスのいるダンジョンへの転移ゲートが出現します。そして誰かひとりでもラスボスを討伐すれば、皆さん全員が元の世界へ帰還することができますー」

「次にシステム関連の説明をするので、皆さんに配布したスマホを出して下さい」

「メニューから設定を選んで”端末とユーザーをリンクさせる”を選んでください」

 女性の言った通りにスマホを操作してみると「端末とユーザーを直接リンクしますか? Yes/No」とダイアログが表示されたので、Yesをタップした。

 すると視界の左上部にゲームでおなじみのHP/MPという表示とバーが表示され「端末とユーザーの魂がリンクしました。システムによるアシストが有効になります」とカーナビのような音声が聞こえた。
 
 俺が設定を終えたところで、再び朝礼台の上の女性が話し出した。

「はーい、皆さん端末とリンクできましたかー? 端末とリンクすると音声アシストが聞こえるようになります」
「また視界にHP/MP表示などが表示されていると思います。HPというのはゲームでおなじみの生命力です。これが0になると死んじゃいます!」

「……というのは冗談です。端末とリンクされたことで、皆さんの体の表面に特別な防御フィールドが展開されています。その耐久値がHPです」
「モンスターの攻撃を食らうと減っていき、HPが0になり防御フィールドが消滅すると強制的に転移ゲートで転送され、そこの教会でやり直しになりまーす。もちろんペナルティは所持金の半減ですよー」

 女性が指を差している方向を向くと、いかにも教会っぽい建物がある。うーん、あの国民的RPGのようだな……いや、アレはちゃんと死ぬか……。

「MPは皆さんがよくご存じの、魔法を使うと減るアレです。時間経過、アイテム使用、回復スポットなどで回復できます。当然0になると魔法が使えませんので注意してください」

「PK、プレイヤーキルは当ゲームでは禁止となっております。というか攻撃してもHPを減らすことはできません」

「また、ハラスメントに対する昨今の状況を鑑み、強制的に他者に接触することも禁止しています」
「具体的には、接触制限レベル4で完全拒否で指一本触れられない、3で握手程度、2でハグ程度、1で制限解除、を個別に指定できます。初期設定は、全員レベル3になっています。仲良くなったプレイヤーさん同士で指定し、制限レベルを設定してくださいねー」

「このセンター内には宿泊施設、武器防具等アイテムショップ、教会、訓練場なんかがあります。皆さんの好きなように散策、利用してくださいねー」

「他にもいろいろ分からないことがあるかと思いますが、端末内に攻略アプリが入っているので、そちらを参照してください」

「また、センター施設内の訓練場では、剣技等の武器スキルや魔法などを習得できます。効率よくゲームを進めるに、ぜひとも利用してください!」

「さて、ログインして頂いた皆さんにログインボーナスとして、ゲーム内通貨1000Crとアイテムガチャをプレゼントしちゃいまーす!」

 音声アシストが聞こえるのと同時に、視界にメッセージが表示される。
 
「ログインボーナス1000Crを入手しました」
「ガチャを回せます。ガチャを回しますか? Yes/No」 

 俺は「Yes」と念じてみた。
 すると目の前で、稲妻のエフェクトがバチバチと走った後、銀色の1.5mほどの剣が現れる。そして「ミスリルソードを入手しました!」と視界に表示された。

 俺はその剣の柄の部分を握りしめる。質感は紛れもなく金属だが木刀のように軽い。
 その剣を見つめると「ミスリルソード 軽く丈夫な剣」と簡単な説明が視界に表示された。

 周りを見渡すと、剣以外にも、槍、弓、杖、斧、短刀など様々な得物を手にしている人々が見える。

 ゲームっぽくなってきたと、俺が軽く感激していると、再び朝礼台の上の女性が話し始める。

「皆さんの冒険をアシストする機能の一つとして”アイテムストレージ”が使用できます」
「道具をなんでも収納しておくことができ、自由に出し入れできる機能です」

「使い方は収納したいアイテムを軽くタップする事で、収納するかどうかのアイコンが視界に表示されます。取り出すときは、視界にあるインターフェースのアイテムストレージを操作することで、取り出すことが出来ます」
「武器を常時持ったままだと、不便かと思うので上手く利用して下さい」

「以上で説明は終了です。皆さん頑張って下さいねー」

 説明を終えると、女性は朝礼台から降りてスタスタとどこかへ歩いて行ってしまった。

 周りの人々は「面白そう」「早く帰りたい」「怖い」等、それぞれ思い思いの事を呟きながら、散っていく。

 俺は、はやる気持ちを抑えながら、まずは魔法を習得しようと思い、訓練場に向かった。
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