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勇者の憂鬱

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 バランセ、リンゼ、レミリナの三人が仲良く夜を過ごしている頃、王都とモルジアスの中間にある街『ラールシャン』にて。

 この街で一番グレードの高い宿の一室から、男女の営みの声が漏れていた。



 * * *



 勇者ガイオルッシュ視点。



「ああ、バランセちゃん! 最高だ!」

「もう、私はバランセなんて名前じゃないんだから! そんなにあの子に夢中なのっ!?」

 俺に跨って腰を打ちつけながら頬を膨らませ抗議するのは、俺のパーティーメンバー兼妻のエリーリス。

「おっと、すまない」
「エッチの最中に他の女の名前を呼ぶなんてひどい!」

 エリーリスは膨れっ面のまま腰を打ちつける速度を上げて、俺のチンポをギュゥゥと締め付ける。

「ああ、エリーリス! 最高だ! イクよ! うっ」
「あぁぁんっ!」

 エリーリスの激しい腰遣いに耐え切れなくなり、俺は彼女の中に大量に精を放った。



 俺にはスキル『魅了』の力で堕とした三人の妻がいる。この世界に召喚された時に、俺のパーティーメンバーとなってくれた、聖女シェイラ、聖騎士エリーリス、魔導士アリューシャの美少女達だ。

 彼女たちは最高に可愛くて優しい。そのうえモンスターとの戦闘では、とても頼りになる。俺は彼女たちとの異世界ハーレム生活を心から楽しんでいた。

 ところが……。

 先日、ゴブリンの拠点を攻略しに行く途中で、一人の女性がゴブリンジェネラルに襲われているところに出くわした。当然、勇者である俺は、その子を華麗に助けてあげた。

 この世界には美人が多いが、助けた女性の美しさは飛び抜けていた。キラキラと輝く銀髪に、透き通るような白い肌。そして思わずキスしたくなるようなセクシーな唇と、ぱっちりとした美しい赤い瞳。俺は一目で彼女に心を奪われてしまった。

 この子は何としても手に入れたい。そう思った俺は魅了するため、すぐに彼女の手を握り目を見つめた。

 俺の魅了は対象の体の一部に触れながら、5秒間目を合わせることで発動する。魅了の発動条件を満たし、上手くいったと思った。しかし、彼女は魅了に掛からなかった。それどころか怒りを露わにして、俺を殴り飛ばしたのだ。

 すぐに彼女はその場から立ち去ったが、妻たちが騎士団に通報したので、彼女が街に戻ったところで騎士団に連行されたと聞いた。俺はそこでようやく彼女の名前がバランセであることを知った。

 バランセちゃんに、俺の魅了が通用しなかったのは腑に落ちないところだが、きっと目を合わせる時間が少しだけ短かったのだろう。次はしっかり捕まえて試してみよう。そうだ、俺のパーティに加入させてしまえば、魅了するチャンスはいくらでも作れる。

 俺が妻たちに相談すると、ため息をつきながらも協力すると約束してくれた。



 翌日俺は騎士団の詰め所に行き、バランセちゃんと面会した。そして「殴ったことを許してやるから賭けをしないか」と、持ち掛けた。15分の間に一撃でも俺に攻撃を当てることが出来たら許す、出来なければ俺のパーティーに加入するという条件で。

 彼女は少しの間戸惑っていたが、結局は俺の思惑通りまんまと賭けを受けてくれた。

 聞くところによると彼女は光の魔法が得意らしい。俺が風魔法の応用で空を飛んでいれば、昨日の高威力かつ高スピードの光る拳は使えまい。彼女はおそらく近接系の魔法が得意なのだろう。であれは射撃系も得意な可能性は低い。

 念のため聖騎士エリーリスに、能力を向上させる強化魔法掛けてもらった。これによって回避速度も上がっている。もし仮に当たってしまったとしても、聖女シェイラと魔導士アリューシャが二人がかりで掛けてくれている防御障壁を貫くことなど不可能だ。

 俺の作戦に抜けは無い。これで彼女も俺の物、そう思ったのだが……。

 いざ勝負が始まると、この俺が何もできずに一瞬で殺されたのだ。何が起こったのかすら分からなかった。彼女の魔法が発動した瞬間、俺は死んでいた。それも妻たちが俺に掛けてくれた、強化魔法や防御障壁を打ち破って一瞬で。

 太陽の女神サンルバアル様の加護のおかげで復活できたから良かったものの、あの強さは普通じゃない。

 俺は三年前にこの世界に召喚された。その時に『魅了』『全属性魔法強化』『魔法剣術』『英雄覇気』『太陽の女神の加護』といった複数のスキルを授けられた。
 これらのスキルのおかげで、俺はモンスターに対しては無敵であり、勇者として俺Tueeeeを満喫できていた。

 モンスターに対して圧倒的な強さを誇る勇者とはいえ、この世界には俺が敵わない人間は結構いる。例えば王国を守護する、七つの騎士団の団長たちだ。彼等とは何度か手合わせをしたことがあるが、一度も勝てたことは無い。しかし、バランセちゃんの強さは、それらを遥かに凌駕していた。

 勝負に負けた以上、その場は一旦引くしかなかった。でも、バランセちゃんのことを諦められるわけない。そこで、どうすればバランセちゃんを俺の物にできるかを考えた。

 色々と考えを巡らせた結果、一つの妙案が閃いた。ゴブリンの拠点を攻略せずに王都に帰還すれば、きっと国王様から理由を聞かれるはず。

 そしたら、ゴブリンが予想以上に強かったので、とっても強いバランセちゃんが必要だと言おう。そうすれば、国王様は彼女を呼び出して、俺のパーティーに加入するよう命令を下すはずだ。

 なにせ国王様は勇者にとても甘い。

 俺がこの世界に召喚されて、モンスターと戦う使命を与えられたとき「何故そんな危険なことをしなきゃいけないんだ」と拒んだ。
 しかし、国王様は使命を果たすのなら、どんな望みも叶えてやると言ってくれた。そこで俺はダメもとで「可愛い女の子と一緒になら頑張れるかも」と言った。

 すると国王様は、あっさりその願いを叶えてくれた。それも、聖職者として最高位の称号である聖女のシェイラ、騎士の中でも特に精鋭の聖騎士のエリーリス、宮廷魔導士の中でも指折りの能力を持つアリューシャを俺のパーティメンバーにしてくれたんだ。

 彼女たちは若くして才覚を発揮し、その実力は騎士団長に並ぶとも言われている。そんな美しくも優秀な彼女たちを、魅了スキルで堕として俺の物にできたのも、国王様の寛大なお心あればこそだ。

 くくく……、俺の計画は完璧だ。

「バランセちゃーん、可愛がってあげるからねー」

 俺が楽しい妄想に浸りつつ、ベッドで順番待ちをしている妻の一人に抱き着いてキスする。

「私もバランセちゃんじゃありません!」
「おおっ、すまない、シェイラ」

 やはり頬を膨らませるシェイラに俺が謝ると、もう一人も続けて文句を言う。

「ねぇ、ガイ。あんな女のことよりも、目の前にいる私たちを満足させてよぉ」
「分かっている、アリューシャ。任せろ!」

 その後、俺は三人の妻が満足するまで全力で頑張るのだった。



 * * *



 翌日、王都に帰還し国王様に謁見する。

「勇者ガイオルッシュよ、ご苦労であった。しかし、今回は無駄足だったようだな? まさか我々の知らない勇者が先にゴブリンキングを討伐してしまうとはな」

「な……、ゴブリンキングが討伐された……?」

「うん? ゴブリンキングが討伐されたから帰還したのではないのか? まぁ良い。昨夜、緋竜騎士団長より報告があった。未知の勇者が現れて、ゴブリンの拠点の洞窟を根こそぎ破壊して、ゴブリンキングを討伐したとな」

「そ、そんな……」

「何者かは知らんが、かなりの強さのようだ。勇者ガイオルッシュよ、その謎の勇者に負けぬように今後も励むが良い」

「は、はい……。あ、あの、国王様。ゴブリン討伐の道中にバランセという強い冒険者に出会いました。ゴブリンジェネラルと対等に戦えるほどの強さです。私のパーティに加わるように、国王様から彼女にお声を掛けて頂けないでしょうか?」

「ふーむ、ゴブリンジェネラルか。ただの冒険者にしてはかなりの強さだろうが、そなた達なら何の苦もなく倒せるであろう? なぜ今さらその者を欲しいなどと? さては惚れたな? よほど美しい女だったか」

「い、いえ、それは……その……」

「一人の女を口説くのに、国の権威を使ったとあっては、勇者の名が廃るというものじゃ。自分で口説き落とすがよい!」

 国王様はそう言って豪快に笑っている。自分でどうにもできなかったから、言ってるんだよ……。

「では、勇者ガイオルッシュよ、今後も活躍を期待しているぞ!」

「……はい、失礼します」

 俺は呆然としたまま国王様の前から立ち去った。

 未知の勇者ってなんだ? 俺の完璧な計画はどうなる? バランセちゃんを俺の物にする計画は……。



 * * *



 この日、がっくりと肩を落として歩く勇者の姿を、王都の人々は目撃したという……。
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