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騎士団長の本気
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訓練場に着くと、ルディアナさんは剣を二本取り出して、一本を俺に差し出す。
「私と一対一の勝負をしてください。この訓練用の剣を使います」
差し出された剣を受け取る。俺はビームサーベルを適当に振るっていただけで、剣術の心得なんかない。剣なんてまともに扱えるだろうか? そう思いながらも、両手で握って構えた。俺と向かい合っているルディアナさんも、正眼で構えている。
昨日執務室で臨戦態勢になった時の感じだと、俺でも勝てそうな気がした。ここは勝ちにいくか。いつものようにゼロ、PS装甲、Iフィールドを起動しルディアナさんの様子を窺う。
対するルディアナさんからは、昨日のような殺気は感じない。なんというか、剣を構えてリラックスしているように見える。
本気じゃないのか? どうしようかな、と俺が迷っているとルディアナさんが口を開いた。
「来ないのですか? ならば私から行きますよ」
ルディアナさんが足を一歩踏み出した瞬間、高速移動して俺の視界から消える。だが、その程度ならレッドキャップとそう変わらない。
「視えてる! 後でしょ!?」
俺がしゃがむと、頭上を剣が勢いよく通り過ぎる。俺は低い姿勢のまま、背後に向かって剣を振ると、俺の剣は空を切った。
ルディアナさんは、高速移動で勝負開始位置に戻っている。彼女は真剣な表情で剣を構え、腰を落とす。
「今のを躱しますか。では次は正面から行きますよ」
正面から突進してくるルディアナさんの動きは、凄まじく速い。レッドキャップと同等以上の身のこなしだ。それに練習用の剣とはいえ、一振りごとに空気が引き裂かれ、衝撃波となって襲い掛かってくる。俺はそれらの鋭い剣閃を、ゼロの予測頼りでギリギリでしのぐ。
俺が防戦一方となって、下がりながら攻撃を防いでいると、ルディアナさんの使う高速移動の独特な音とともに、彼女はいったん俺から距離を取った。しかし一息つく間もなく、再び高速移動で俺の視界から消える。次、また後ろか! ゼロの予測に従い、後ろからくる攻撃に備える。
「フッ、残念。ハズレです」
ルディアナさんの声がしたのと同時に俺の頭に衝撃が走り、そのまま俺の顔面は地面に叩きつけられた。クソ……、PS装甲が無かったら俺の可愛い顔が怪我してたところだ。
「体の周りに防御障壁を展開させているだけではなく、体の表面も強力な防御魔法で覆っているんですか。訓練用の剣とは言え、私の攻撃を受けてなんともないとは驚異的な防御力ですね」
なんともなくは無いよ、軽く痛いし。しかし、確かに後ろにいると感じたはずなのに、とらえきれなかった。彼女の剣筋は鋭く、俺の拙い剣捌きでは防ぎきれない。それは分かるのだが、今の動きはゼロの予測とは違う動きだった……?
俺が立ち上がって構えると、ルディアナさんの猛攻が再開した。
ルディアナさんの剣は更に鋭さを増して、俺の体を次々と打ち付ける。
おかしい、全く回避できなくなってしまった。ゼロの予測が外れる……? ゼロも俺のイメージを魔力で再現したものなので、本来の性能だとか仕様が異なる可能性は十分ある。だが、今まで完璧に敵の動きを予測し、対応できていたはずなのに……。
こうなったら明鏡止水しかない! 俺は心を静め集中した。
……見えた! 水の一滴!!
ブン! 俺の剣がむなしく空を切る。隙だらけの俺に、ルディアナさんの剣が容赦なく叩きつけられる。IフィールドとPS装甲ごしでもそこそこ痛いっ!
「ふふっ、当てずっぽうに攻撃してもだめよ」
くぅ……笑われてしまった。そういえば明鏡止水って、MSの兵装じゃなくて、パイロット側の能力か!
不敗の師匠に10年間指導されて武術の達人になり、その上で厳しい経験をいくつも積んでようやくその境地に至ったんだっけ。
転生してハイスペックな体を与えられて、それに頼った戦いをしていただけの俺が、その境地に至るわけないか……。どうせならニュータイプのついでに『明鏡止水』も欲しかった。あ、あとせっかくだから『コーディネーター』とかも。
……いやいや、欲張りすぎはダメだ。美少女の体になって、これだけ強くしてもらったのだから、これ以上を望んだらバチが当たるというもの。
俺があれこれ考えている間にも、ルディアナさんの鋭い剣閃が縦横無尽に襲い掛かってくる。俺はあちこち打たれて、こらえきれずに後ろに跳んだ。
しかし、それも読まれていたのか、俺の背後に殺気が回り込んでくる。俺は跳んで上空に逃れるが、今度は上から殺気を感じる。咄嗟にプラネイトディフェンサーを真上に展開させた。
ところがルディアナさんは俺の左側に出現して、俺の横っ腹をぶっ叩いた。
ぐはっ、かなり痛い! 俺は地面に落ちて膝をつく。ルディアナさんも降りてきて、俺の正面に立った。
「バランセは、とっても敏感な感知系スキルを持っているみたいね? ニュータイプってのがそうなのかな? 敏感すぎて、フェイントに面白いくらいに掛かってくれるわね」
フェイント? 馬鹿な……。ゴブリン上位種どもと戦った時だって、フェイントくらいしてきた。俺はニュータイプとゼロを駆使して、そのすべてに対応できていたはず……。
俺が肩で息をしていると、ルディアナさんは、勝ち誇ったような顔で俺を見下ろしている。
「視線や手足を僅かに動かしたフェイントには全く反応しないくせに、攻撃の意志にはとても敏感に反応するのよねぇ」
「だから、攻撃の意志をフェイントにして、私の体に蓄積された経験則による、反射に任せた攻撃に切り替えたのよ。そしたら全く防げないなくなるんだもの。まるで私の心を読んでいるかのよう。それとも、本当に心を読むことができるのかしら?」
俺は心が読めるわけじゃ無い。でも、俺のスキルの能力を概ね理解したのか。騎士団長というだけはあるな。
「でも、バランセは戦いにおいてド素人ね。驚異的な身体能力と感知能力、それに異常な魔力量を全く生かせていない」
自身の能力を活かしきれていないのは、自分でも分かっている。それにしたってルディアナさんが強すぎる。
「体に蓄積された経験則による反射って何ですか!? そんなの当てずっぽうみたいな攻撃で私を一方的にボコれるとは思えない!」
「私は何十年と研鑽し、幾人もの強者と戦って経験を積んできた。そのおかげで状況に応じて、瞬時に体が自然と動いてくれるようになったのよ」
「ルディアナさんって、すごい美人だしどう見ても20代前半ですよね? それなのに何十年も研鑽なんてできたんですか? 赤ちゃんの頃から戦っていたとか?」
俺の言葉を聞いたルディアナさんは、一瞬目を丸くした後に、嬉しそうなにやけ顔になった。
「どうやら私は、バランセのことを見誤っていたようです……」
「はい?」
「こんなに素直でいい子なのに、私は国の脅威になるかもしれないと勘違いしていました」
「え? ええ……?」
「私の年齢は56歳です。部下からも行き遅れの若作り年増、などと陰口をたたかれるというのに、あなたは見たままの私を美人と言ってくれました」
なんてこった。こんな綺麗な人が、前世の俺よりも年上だったなんて!? 俺が驚愕して固まっていると、ルディアナさんは俺を抱きしめて涙を溢す。
「ああ、こんなに可愛い子を疑うなんて、私はなんて愚かなの!?」
俺の顔面がルディアナさんの双丘に押し込まれて息も出来ない。どうにか顔を上げてルディアナさんに聞く。
「56歳なんて信じられない。何でそんなに若々しくて綺麗なんですか!?」
「私は気と魔力を融合させて、それを体内に循環させることで、身体能力と魔法の威力を上げる高等スキル『プラーナ』を所持しています。このスキルの二次作用で肉体は老化しにくく、さらにスキルを使えば使うほど、身体が活性化してアンチエイジングの効果も得られます。無理して若作りしているわけではありません」
それ、とんでもないチートスキルだ……。
「あなたのようないい子を見捨てて、エロ勇者の魔の手にさらすわけにはいきません。私が守ってあげますからね」
ルディアナさんは、まるで母親が自分の娘を見るような、優しい目で俺を見つめている。なんて手のひら返しだ!
良く分からないけど、ルディアナさんに認められたようなので、俺達は騎士団長の執務室に戻ってきた。みんなでソファーに座って、ルディアナさんの話を聞いた。
「突然現れた高レベルの冒険者。経歴は不明。そして勇者を叩きのめしたこと。私はバランセが、ラスヴィラ教と関わりがあるかもしれないと考えていました」
「ラスヴィラ教?」
俺が首を傾げると、レミリナが答えてくれた。
「天空の三女神を邪神とし、深淵の魔神を崇める教団です。表立って悪事は働いていないものの、黒い噂が絶えない団体です」
おお、悪の組織的なアレね。俺が納得していると、ルディアナさんが話を続ける。
「ですが、先ほどの勝負で私は確信しました。バランセ、あなたは良い子です」
ルディアナさんは真っ直ぐに俺の目を見つめている。俺、中身はド変態のオッサンだけど、良い子……なのか?
「天空の三女神の一柱に祝福を受け、英雄覇気を授かったとなれば、バランセは勇者ということになります。このことを国王に報告すれば、勇者として王国の為に尽くすことを強要されるでしょう」
「国に私の行動を管理されるのは嫌だなぁ」
「言うと思いました。内緒にしてあげますよ」
ルディアナさんは、紅茶を一口飲んで続ける。
「月の女神の加護を持つ勇者がどこからともなく現れて、ゴブリンキングを倒した後にどこかに消えたと報告します。正直この報告はかなり厳しいでしょう。ですがバランセの為に上手くやってみせます。貸しにしておきますからね」
貸しって、なんか怖いなぁ。でも、国王への報告はルディアナさんに任せるしかないよな。なので、ここは「はい」と頷いておく。
「これは重大なコンプライアンス違反です。騎士団長がこんなことをするのは絶対にダメなんですからね! なので、このことは誰にも口外しないこと。今後はキング種を倒す前にせめて私には相談すること。いいですね? そうすれば、今後も気楽に冒険者を続けられるでしょう」
「分かりました」
「もしばれたら私は社会的に終わります。あなたは勇者として、あのエロ勇者と仲良くモンスター狩りに励むことになるでしょう」
「そうそう、今後は鑑定の水晶玉には触れないこと。あなたに英雄覇気のスキルがあるのがばれてしまいますからね」
エロ勇者と仲良くするなんて、考えただけでも虫唾が走る。気を付けよう……。
「それからレミリナに重要な任務を与えます。あなたはバランセに付いていてください。そうでもしないと危なっかしくて心配ですからね。何かをやらかす前に必ず私に連絡してください」
「はい、承知しました」
「えっ、それって……」
「これからは、ずっと一緒にいられますね。バランセ、よろしくお願いします」
ニッコリ微笑むレミリナ。俺は嬉しさのあまり、ついレミリナに抱き着いてしまった。
「私と一対一の勝負をしてください。この訓練用の剣を使います」
差し出された剣を受け取る。俺はビームサーベルを適当に振るっていただけで、剣術の心得なんかない。剣なんてまともに扱えるだろうか? そう思いながらも、両手で握って構えた。俺と向かい合っているルディアナさんも、正眼で構えている。
昨日執務室で臨戦態勢になった時の感じだと、俺でも勝てそうな気がした。ここは勝ちにいくか。いつものようにゼロ、PS装甲、Iフィールドを起動しルディアナさんの様子を窺う。
対するルディアナさんからは、昨日のような殺気は感じない。なんというか、剣を構えてリラックスしているように見える。
本気じゃないのか? どうしようかな、と俺が迷っているとルディアナさんが口を開いた。
「来ないのですか? ならば私から行きますよ」
ルディアナさんが足を一歩踏み出した瞬間、高速移動して俺の視界から消える。だが、その程度ならレッドキャップとそう変わらない。
「視えてる! 後でしょ!?」
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ルディアナさんは、高速移動で勝負開始位置に戻っている。彼女は真剣な表情で剣を構え、腰を落とす。
「今のを躱しますか。では次は正面から行きますよ」
正面から突進してくるルディアナさんの動きは、凄まじく速い。レッドキャップと同等以上の身のこなしだ。それに練習用の剣とはいえ、一振りごとに空気が引き裂かれ、衝撃波となって襲い掛かってくる。俺はそれらの鋭い剣閃を、ゼロの予測頼りでギリギリでしのぐ。
俺が防戦一方となって、下がりながら攻撃を防いでいると、ルディアナさんの使う高速移動の独特な音とともに、彼女はいったん俺から距離を取った。しかし一息つく間もなく、再び高速移動で俺の視界から消える。次、また後ろか! ゼロの予測に従い、後ろからくる攻撃に備える。
「フッ、残念。ハズレです」
ルディアナさんの声がしたのと同時に俺の頭に衝撃が走り、そのまま俺の顔面は地面に叩きつけられた。クソ……、PS装甲が無かったら俺の可愛い顔が怪我してたところだ。
「体の周りに防御障壁を展開させているだけではなく、体の表面も強力な防御魔法で覆っているんですか。訓練用の剣とは言え、私の攻撃を受けてなんともないとは驚異的な防御力ですね」
なんともなくは無いよ、軽く痛いし。しかし、確かに後ろにいると感じたはずなのに、とらえきれなかった。彼女の剣筋は鋭く、俺の拙い剣捌きでは防ぎきれない。それは分かるのだが、今の動きはゼロの予測とは違う動きだった……?
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ルディアナさんの剣は更に鋭さを増して、俺の体を次々と打ち付ける。
おかしい、全く回避できなくなってしまった。ゼロの予測が外れる……? ゼロも俺のイメージを魔力で再現したものなので、本来の性能だとか仕様が異なる可能性は十分ある。だが、今まで完璧に敵の動きを予測し、対応できていたはずなのに……。
こうなったら明鏡止水しかない! 俺は心を静め集中した。
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ブン! 俺の剣がむなしく空を切る。隙だらけの俺に、ルディアナさんの剣が容赦なく叩きつけられる。IフィールドとPS装甲ごしでもそこそこ痛いっ!
「ふふっ、当てずっぽうに攻撃してもだめよ」
くぅ……笑われてしまった。そういえば明鏡止水って、MSの兵装じゃなくて、パイロット側の能力か!
不敗の師匠に10年間指導されて武術の達人になり、その上で厳しい経験をいくつも積んでようやくその境地に至ったんだっけ。
転生してハイスペックな体を与えられて、それに頼った戦いをしていただけの俺が、その境地に至るわけないか……。どうせならニュータイプのついでに『明鏡止水』も欲しかった。あ、あとせっかくだから『コーディネーター』とかも。
……いやいや、欲張りすぎはダメだ。美少女の体になって、これだけ強くしてもらったのだから、これ以上を望んだらバチが当たるというもの。
俺があれこれ考えている間にも、ルディアナさんの鋭い剣閃が縦横無尽に襲い掛かってくる。俺はあちこち打たれて、こらえきれずに後ろに跳んだ。
しかし、それも読まれていたのか、俺の背後に殺気が回り込んでくる。俺は跳んで上空に逃れるが、今度は上から殺気を感じる。咄嗟にプラネイトディフェンサーを真上に展開させた。
ところがルディアナさんは俺の左側に出現して、俺の横っ腹をぶっ叩いた。
ぐはっ、かなり痛い! 俺は地面に落ちて膝をつく。ルディアナさんも降りてきて、俺の正面に立った。
「バランセは、とっても敏感な感知系スキルを持っているみたいね? ニュータイプってのがそうなのかな? 敏感すぎて、フェイントに面白いくらいに掛かってくれるわね」
フェイント? 馬鹿な……。ゴブリン上位種どもと戦った時だって、フェイントくらいしてきた。俺はニュータイプとゼロを駆使して、そのすべてに対応できていたはず……。
俺が肩で息をしていると、ルディアナさんは、勝ち誇ったような顔で俺を見下ろしている。
「視線や手足を僅かに動かしたフェイントには全く反応しないくせに、攻撃の意志にはとても敏感に反応するのよねぇ」
「だから、攻撃の意志をフェイントにして、私の体に蓄積された経験則による、反射に任せた攻撃に切り替えたのよ。そしたら全く防げないなくなるんだもの。まるで私の心を読んでいるかのよう。それとも、本当に心を読むことができるのかしら?」
俺は心が読めるわけじゃ無い。でも、俺のスキルの能力を概ね理解したのか。騎士団長というだけはあるな。
「でも、バランセは戦いにおいてド素人ね。驚異的な身体能力と感知能力、それに異常な魔力量を全く生かせていない」
自身の能力を活かしきれていないのは、自分でも分かっている。それにしたってルディアナさんが強すぎる。
「体に蓄積された経験則による反射って何ですか!? そんなの当てずっぽうみたいな攻撃で私を一方的にボコれるとは思えない!」
「私は何十年と研鑽し、幾人もの強者と戦って経験を積んできた。そのおかげで状況に応じて、瞬時に体が自然と動いてくれるようになったのよ」
「ルディアナさんって、すごい美人だしどう見ても20代前半ですよね? それなのに何十年も研鑽なんてできたんですか? 赤ちゃんの頃から戦っていたとか?」
俺の言葉を聞いたルディアナさんは、一瞬目を丸くした後に、嬉しそうなにやけ顔になった。
「どうやら私は、バランセのことを見誤っていたようです……」
「はい?」
「こんなに素直でいい子なのに、私は国の脅威になるかもしれないと勘違いしていました」
「え? ええ……?」
「私の年齢は56歳です。部下からも行き遅れの若作り年増、などと陰口をたたかれるというのに、あなたは見たままの私を美人と言ってくれました」
なんてこった。こんな綺麗な人が、前世の俺よりも年上だったなんて!? 俺が驚愕して固まっていると、ルディアナさんは俺を抱きしめて涙を溢す。
「ああ、こんなに可愛い子を疑うなんて、私はなんて愚かなの!?」
俺の顔面がルディアナさんの双丘に押し込まれて息も出来ない。どうにか顔を上げてルディアナさんに聞く。
「56歳なんて信じられない。何でそんなに若々しくて綺麗なんですか!?」
「私は気と魔力を融合させて、それを体内に循環させることで、身体能力と魔法の威力を上げる高等スキル『プラーナ』を所持しています。このスキルの二次作用で肉体は老化しにくく、さらにスキルを使えば使うほど、身体が活性化してアンチエイジングの効果も得られます。無理して若作りしているわけではありません」
それ、とんでもないチートスキルだ……。
「あなたのようないい子を見捨てて、エロ勇者の魔の手にさらすわけにはいきません。私が守ってあげますからね」
ルディアナさんは、まるで母親が自分の娘を見るような、優しい目で俺を見つめている。なんて手のひら返しだ!
良く分からないけど、ルディアナさんに認められたようなので、俺達は騎士団長の執務室に戻ってきた。みんなでソファーに座って、ルディアナさんの話を聞いた。
「突然現れた高レベルの冒険者。経歴は不明。そして勇者を叩きのめしたこと。私はバランセが、ラスヴィラ教と関わりがあるかもしれないと考えていました」
「ラスヴィラ教?」
俺が首を傾げると、レミリナが答えてくれた。
「天空の三女神を邪神とし、深淵の魔神を崇める教団です。表立って悪事は働いていないものの、黒い噂が絶えない団体です」
おお、悪の組織的なアレね。俺が納得していると、ルディアナさんが話を続ける。
「ですが、先ほどの勝負で私は確信しました。バランセ、あなたは良い子です」
ルディアナさんは真っ直ぐに俺の目を見つめている。俺、中身はド変態のオッサンだけど、良い子……なのか?
「天空の三女神の一柱に祝福を受け、英雄覇気を授かったとなれば、バランセは勇者ということになります。このことを国王に報告すれば、勇者として王国の為に尽くすことを強要されるでしょう」
「国に私の行動を管理されるのは嫌だなぁ」
「言うと思いました。内緒にしてあげますよ」
ルディアナさんは、紅茶を一口飲んで続ける。
「月の女神の加護を持つ勇者がどこからともなく現れて、ゴブリンキングを倒した後にどこかに消えたと報告します。正直この報告はかなり厳しいでしょう。ですがバランセの為に上手くやってみせます。貸しにしておきますからね」
貸しって、なんか怖いなぁ。でも、国王への報告はルディアナさんに任せるしかないよな。なので、ここは「はい」と頷いておく。
「これは重大なコンプライアンス違反です。騎士団長がこんなことをするのは絶対にダメなんですからね! なので、このことは誰にも口外しないこと。今後はキング種を倒す前にせめて私には相談すること。いいですね? そうすれば、今後も気楽に冒険者を続けられるでしょう」
「分かりました」
「もしばれたら私は社会的に終わります。あなたは勇者として、あのエロ勇者と仲良くモンスター狩りに励むことになるでしょう」
「そうそう、今後は鑑定の水晶玉には触れないこと。あなたに英雄覇気のスキルがあるのがばれてしまいますからね」
エロ勇者と仲良くするなんて、考えただけでも虫唾が走る。気を付けよう……。
「それからレミリナに重要な任務を与えます。あなたはバランセに付いていてください。そうでもしないと危なっかしくて心配ですからね。何かをやらかす前に必ず私に連絡してください」
「はい、承知しました」
「えっ、それって……」
「これからは、ずっと一緒にいられますね。バランセ、よろしくお願いします」
ニッコリ微笑むレミリナ。俺は嬉しさのあまり、ついレミリナに抱き着いてしまった。
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