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今際に「美少女」と叫ぶオッサン  挿絵有

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 暴走トラックドーン。巻き込まれた俺は、意識が薄れていく中で、自分の人生を思い返していた。
 53歳独身童貞彼女無し、というか女性に触れる機会と言えば、コンビニのレジで釣銭を貰うときに指先が触れる時くらいだろうか。キャッシュレス化が進む昨今、このような場面は減っていくだろう。あーあ、つまらない人生だった。でも、もう、どうでもいいか……。



 * * *



 何かに呼ばれた気がする。俺が目を開けると、白髪白髭の老人があぐらをかいて座っていた。

「あなたは……神様?」

 その老人は、俺の問いに静かに答える。

「厳密に言うと神ではない。しかしまぁ、おぬしら人間で言うところの『神』なのかもしれんの。わしは輪廻転生システムの管理をしている者じゃ。約10兆分の1の確率で起きる、輪廻転生システムの不具合でおぬしの魂が輪廻の輪からはみ出てしもうてな」

「はい……?」

「このままじゃとおぬしは、この流魂の園と現世のはざまを永劫彷徨うことになる」

 この神様が、何を言っているのかはよく分からないが、とてつもなく嫌な予感がする。ここを永劫彷徨うってどんな罰だよ?

「そう不安そうな顔をしなさんな。きちんと転生はしてもらう。じゃが、この星の輪廻からはみ出した以上、次の生は地球とは異なる星となる。まあ、わしらの不手際じゃから、おぬしの次の生を少しだけ優遇してやることにした」

「ゆえにおぬしには一つだけ、転生先の人生で望むことを叶えてやろう。希望を言うが良い。どんなことでも叶えてやる。ただし一言だけでな」

「一言……?」

「さよう、一言におぬしの念を込めよ。さすれば希望は叶うじゃろう」

 俺は大きく息を吸い込んで、願望のすべてを乗せた一言を叫んだ。

「最強チート無双超絶美少女モテモテハーレム!」

「一息で言っても駄目じゃよ。それはさすがに一言とは言えまい?」

 これは一言扱いじゃないのか。最強無双しつつ、美少女を好きなだけ好きなようにしたい……。一体どうすれは……?

 うーーん、欲張りすぎてせっかくのチャンスが台無しになってももったいない。この際最強は諦めるか。可能なら最強無双もしたいが、第一希望は美少女だ。

 俺は意を決し、53年分の念を込めて言葉を発した。

「美少女!!」

「うむ、良かろう」

 神様は手をかざした。その瞬間、俺は光に包まれた。



 * * *



 次第に意識が明瞭になってくる。なんか硬いところに横になっているな。目を開けると、ここは、テントの中のようだ。

 俺はとりあえず上体を起こしてみた。うーん、痛みとかは無いなぁ。無事転生できたのかな?

 それにしても、胸というか肩に重みを感じる、なんだろ? 視線を下に向けて自分の体を確認すると、二つのふくらみが自分の胸部で存在を主張していた。



 は!? なんだよっ、これ!? 俺は両手でその膨らみを持ち上げるように触れてみる。



 柔らかい……。まさか、まさか!?

 下はどうなっている? 恐る恐る右手を自分の股間に持って行き、探ってみる。

 無い……これはTS転生!? 美少女を好きなだけ好きなようにしたいとは思ったが、まさか自分が女になってしまうとは……。

 驚き動揺しながらも、そのまま股間を探っていると、ビリッと体に快感が走った。

「んんっ!」

 なんだ今の声は!? 男のものとは明らかに異なる、甲高い声が自分の口から発せられた。しかも、大人な動画で何度も聞いたことがあるような、とってもエロい声だ。

 高揚感で心臓がバクバク動いて苦しいほどだ。意識を右手の指先に集中し、さっきの気持ちよかったところを探して、指先でなぞるようにこすってみた。

「ひぁああ!」

 前世で感じた射精時と同等以上の快楽が、股間から脳天に向かって走り抜ける。

 なんだ今の!? これが噂に聞くクリトリスなのか? 軽くイったような感じがしたが、射精後の脱力感は全く感じない。むしろ右手で触れている部分からお腹の奥の方までが熱く火照っているのを感じる。

 もっとだ、もっと気持ち良くなりたい。俺がその部分をさらに擦ろうとした、その時――

「あっ、目が覚めたみたいだね」

 突然人が入ってきた。

 俺はビクッとして股間にあてがっている右手と、胸を揉みしだいている左手をサッと離して立ち上がり、気を付けの体勢になる。

「もう起き上がって平気なの? まだ横になっててもいいよ」



 俺は声を掛ける人物をまじまじと見た。金髪碧眼の美少女だ。彼女は優しく微笑みながら、俺を見つめている。どう見ても日本人じゃないな。

「えと、あの、どちら様でしょうか?」

「私はリンゼ。一応冒険者をやっているんだけど、倒れているあなたを見つけたから、ここでテントを張って介抱していたんだよ」

 俺が周囲を確認すると、立ち上がった俺の頭部が、アーチ状の天井部にあたりそうだ。簡易な物のようで狭く、リンゼと名乗った美少女と俺の距離はとても近い。ドキドキして挙動不審になりそうだが、俺は彼女に手間を掛けさせたようなので頭を下げる。

「介抱してくれたんだね、ありがとう。俺の名前は……」

 俺はそこまで言いかけて、言葉に詰まった。前世の名前である『五頭権蔵《ごとうごんぞう》』とかって名乗れないよな。どうしよ。するとリンゼは首を傾げて俺を見つめている。やべぇ、この子ムチャクチャかわいい。俺はつい見惚れて思考が停止する。

「どうしたの? 実はどこかのお姫様で、名乗れないとか?」

 イヤイヤ、そんな良い物じゃないんです。何か適当な女の子の名前は……。ふと、前世で夢中になっていたソシャゲの最推しキャラ『バランセ』ちゃんが思い浮かんだ。

「私の名前はバランセ」

 そう名乗ってしまった。ちなみに一人称が「私」というのは特に違和感は無い。社会人を30年以上もしていたんだ。客先との会話に俺とか僕なんて言う訳ないからな。ただ、やたらとカワイイ声が俺の口から出てくるのは違和感ありまくりだが。

「で、バランセはなんでこんな森の中で倒れていたの?」

 リンゼの問いに、どう答えたものか思案する。「異世界から転生して来ました」とか言っても大丈夫だろうか? 異世界人狩りとかやっている世界だったら面倒だし。

「ちょっと前後の記憶が無くて……」

「そっか。無防備に眠っていたけど、見たところ誰かに乱暴されたって感じじゃないし、後で街まで送って行くね」

「アリガトウ……」

「それにしてもバランセって、信じられないくらい可愛いね」

「わっ、私がカワイイ!?」

「うん、とっても。でもその恰好はちょっと問題かな? おっぱいの先っぽが、服の上からでもまるわかりだぞー。ブラくらいした方が良いんじゃない?」

 リンゼはおどけた感じで俺を指差す。俺はギョッとして自分の胸の先端を見ると、俺が着ているノースリーブの白いワンピースの一部を乳首がぴょっこりと押し出していた。

 俺は慌てて両腕で胸を覆う。ノーブラで送り出すとは、あの神様め……。

「ブラとか持ってないんだけど」

「私の貸してあげるよ」

 リンゼが腰にぶら下げているポーチから、色気のない白いシンプルなブラが出てきた。俺は手渡されたそれを受け取り両手で持つ。

「あの、コレどうやってつけるの?」

「そんな大きなおっぱいしてるのに、今までブラを付けたこと無いの?」

 リンゼは驚いていたが、ブラをつけるのを手伝ってくれるらしい。彼女は俺の背後に回ってワンピースの肩の部分をはだけさせた。

 すると、おおきなおっぱいがプルンと露出したので、俺の鼓動がドンッとはね上がる。本物のおっぱいを生で見るのは初めてだ……。

 俺が動揺していることなど気にもしないで、リンゼがブラを優しく当ててくれた。そしてリンゼが背中のホックをカチッと留める。

 ふぅ、ようやく終わったかとホッとしたのも束の間、リンゼが両手で俺のおっぱいをすくい上げて、揉むような動きをする。ああ、リンゼさん何を……。

「はみ出てるおっぱいも、きちんとカップに入れないとね。はい、おしまい!」

 ……なんだ、必要なことだったのか。俺はてっきり気持ちいいことを、されちゃうのかと思った。俺の背筋はゾクゾクしっぱなしだ。

 無事にブラを装着し終わったわけだが、俺が今付けているのは、あのリンゼの大きなおっぱいを包んでいたものなのか。そう思うと、下腹部が疼いてしまう。

「どうかした? 新品だからきれいだよ」

 くっ、新品かよ。がっかりだ。とはいえ、またも手間を掛けさせてしまったの申し訳ない。

「ゴメン、あとで買って返すね」

 そんなやり取りの後、二人はテントから出た。リンゼは手際よくテントをたたむと、それを腰のポーチにしまった。ちょっと待て、ポーチの大きさよりも明らかに大きい物が中に入ったぞ。

「それどうなってるの? テントがポーチの中に丸ごと入ったみたいに見えたけど?」

「えー、マジックバッグも知らないの? もしかしてバランセって違う世界からやって来たの?」

「うーん、そうかもね……」

 ひとまず笑顔で誤魔化してみる。しかし、リンゼの反応からすると、この世界ではマジックバッグなる魔法のアイテムは、割と普通なのかもしれない。ファンタジーな異世界に来ていることを実感してしまう。

「もしかして、この世界には魔法とかある?」

「えー? あるに決まってるでしょ! ほんとに違う世界の人なんじゃない? 私は魔法の才能無いから、大した魔法は使えないんだけど」

 この口ぶりからすると、この世界の人は程度に差はあれど、魔法はだれでも使えるように聞こえる。だとすれば俺にも魔法は使えるのだろうか? 気になるところだが、まずはこのリンゼという子のことを知るのが最優先だろう。右も左も分からないこの世界で、今頼れるのはこの子だけだからな。

「ところで、リンゼってこの辺に住んでるの?」

「ううん。私はこの森に仕事しに来てるんだよ」

「仕事?」

「そ、討伐依頼。討伐対象は村の畑を荒らす野生の獣、ウイングフォックス一匹だよ」

 冒険者に討伐依頼か、面白そうだな。

「最近失敗続きで、今回のクエストに失敗すると、冒険者の資格が剝奪されちゃうんだ。でも今回の依頼はウイングフォックス一匹だし、この森には強いモンスターは出ないから楽勝だよ。報酬貰ったら美味しいもの奢ってあげようか?」

 なんかこの子、フラグ立ててね? それに討伐対象の名前も気になるな。

「なんか速そうな名前の奴だね? そいつ飛んだりするの?」

「羽ばたいて飛ぶって言うよりも、翼を広げて滑空するだけだよ。他に特徴もなく素早いだけだから私のスキル『天駆』を使えば簡単に倒せるよ! 今までだってウイングフォックスだけは討伐率100%なんだ!」

 ほう、スキルですか。それに今まで上手くやっていたなら問題は無いのかな。

「集団で行動するゴブリンとかが出たら、私の実力じゃお手上げなんだけど、この森には亜人系モンスターって出ないし」

 だから、フラグを立てるなと……。

 俺の心配をよそにリンゼは森の中を進んでいく。頻繁にしゃがんで地面を眺めたり、木の根元を確認している。どうやらターゲットの痕跡をたどっているようだな。

 俺はぼんやりそれを見ながら、自分の体の事を考えていた。

 ブラをしているとはいえ、歩くたびに胸が揺れる。おっぱいってこんなに柔らかいものだったのか。今すぐ自分で自分の胸を揉みしだきたかったが、リンゼに変に思われるだろうから我慢だ。それにしても股間を擦るのは気持ち良かったな。指で軽く触れただけであれほどとは。一人になったら全身をくまなく確認しよう。

「バランセ、なにニヤニヤしてるの? なんか面白い物でもあった?」

「いえ! 視界良好ですが、敵機は肉眼で確認できません!」

「ぷっ、なにそれ? バランセって面白いね」

 ……咄嗟に出た言葉を笑われてしまった。エロいことを考えるのも、一人になってからの方が良さそうだな。

 しばらく緩い雰囲気でリンゼについて行くと、翼の付いた黄色い毛並みの狐を発見。どうやらあれがウイングフォックスらしい。リンゼの顔が引き締まる。

「バランセはここで見ていて。私のスキルを見せてあげる」

 リンゼの身体がうっすら光ると同時に一瞬でウイングフォックスとの距離をつめる。ほう、天駆とはダッシュ系のスキルか。

 リンゼはウイングフォックスの首筋をナイフで一突きしてしとめる。確かに手慣れているな。

「どう? 凄いでしょ」

 リンゼは自信満々に胸を張るので、俺は拍手して「凄いね」と褒めておいた。リンゼはウイングフォックスの死体を、マジックバッグから取り出した布のようなものでくるむと、マジックバッグにしまった。

「さぁ、ギルドに戻って達成報酬を貰ってこよう!」

 リンゼは街に向かって歩き出したので、俺もそれについて行った。
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