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暴走の理由

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 上昇している時は怖いけど、ある程度の高さまで行くと結構平気かも……なんて思いつつ、命綱はないので首にひしっとしがみつきつつ空の旅。飛行機の外って風とか気圧がヤバいって聞くけど、ヤーミルくんの飛んでる高さがそこまででもないのか吹き飛ばされるような風圧は感じなかった。でもそれなりに風はあるし、マントで完全防寒しています。あって良かったセルトさんのマント!

(どこに行くんだろう……)

 不思議なことに、ある一点を目指して飛行してるんだよね。それも急旋回とかがないから体感的にってくらいだけど。だって頭上げられないんだもん。見えてるのは真っ赤な鱗と、マントの濃い灰色だけだもん。

(セルトさん、心配してるよなぁ……)

 まぁ風切り羽根を切っていないのは移動用騎獣だからわかるけど、縄を繋いでいなかったのはアデラールさんのせい……だよな。小屋のほうにも人影はあったから、そういうお世話してる人のせいかも。あんまり言いたくないけど。

[降リルっ!! 行クっ!!]

 そんな声が急に聞こえた。こんな空のど真ん中でなんだろうと思っても確認のしようがない。混乱している俺を置き去りにして、ぐぃんと頭が下に向いた。えぇっと、ヤーミルくんの頭も地面に向いている。つまり、俺たちは、下に向かっている訳で……

(お、落ち、落ちるぅううううううう!!!!)

 さっきまで「あんまり風ないかも~」なんて言ってた俺を吹っ飛ばしたい。バシンバシンと風が当たって、それこそ空中に吹っ飛ばされそう。目を開けていることも出来ず、ただひたすら腕に力を込めていた訳だけど、数拍後に今度はグイッと圧の方向が変わった。

[キタ!]

 下がって一瞬上がって、そして着地。そこでようやく、さっきから聞こえる大音量ボイスがヤーミルくんの言葉だとわかった。多分だけど、このイヤーカフって全部の〝声〟を翻訳してくれるんじゃないだろうか。せっかくならレティアちゃんの言葉を最初に聞きたかったよ!
  なんてイヤーカフの仕様について理解は出来ても、急に飛んでどっかに連れ去られた理由はわからない。とりあえず、もうそんな元気ない。力の入れすぎで固まったように動かない腕をゆっくりと緩めさせて、ヤーミルくんの体を伝うようにしてずるずると地面に落ちる。

[イク行ク、ハヤク]

 ヤーミルくん、その言葉はちょっと語弊があるかな。そこだけ切り取るとちょっとエッチな言葉にも聞こえちゃうんだ……でろんとうつ伏せで地面に投げ出している体をベシベシと舌で揺すられてるんだけどさ、行くってどこに行くの? せめて目的地を教えて欲しい。

「……ヤーミル?」
[キタ! キタ!!]
「お前、なんでこんなところに……」

 ひっくり返る元気がまだ湧き上がっていないところで、どこかの誰かさんとエンカウント。ヤーミルくんの知り合い? 「来た」ってもしかして「自分が誰かさんのところに来た」ってこと?? え、すごい迷惑……だったら一人で行って欲しかったよヤーミルくん!

「お前、もしかして乗り手の指示を振り払ったのか?! ――おいっ、大丈夫か!!」

 指示を出すことも出来なかったのでもっと叱って良いですよ、誰かさん。でもうつ伏せの体をひっくり返してくれる力は優しいね、ありがとう誰かさん。

「っ! …………レオルカ?」

 ひっくり返されたことで頭から被っていたマントが取れてしまった。顔を見せるなってセルトさんに言われていたけど、これは不可抗力なので許して下さい。
 そして、俺をひっくり返してくれた人は「れおるか」って呟いた後に固まった。はて? それは名前なのか地名なのか。俺の顔を見て言ったってことは人の名前かなぁ……でも俺の知り合いに「れおるか」って人はいないんだよね。セルトさんやアデラールさん、言ってたかな? 覚えてないや。

「いや、すまん……人違いだ。しかし…………それはそれとして随分とセルトの匂いがするんだが、君はセルトの……」

 そんなに匂いするの?! 昨夜一緒に寝たからかな……クンクンと自分の体を嗅いでみるけど、わからない。セルトさんのマントに匂いついてる? いやでもそれもわかんないな……昨夜洗ったから匂いは落ちてると思うんだけど。

「君、もしかして言葉が……?」

 セルトさんとチューしないと会話出来ない問題は解決していないので、それには一応頷いておいた。この人ともチューすれば通じるかもしれないけど、セルトさんの(多分)知り合いってだけの人とぶっちゅーとするのもね。変質者になるのは嫌だし。

(しかしまぁ……随分なお髭ですね!!)

 セルトさんとヤーミルくんの知り合いっぽい〝誰かさん〟ですが、髭がボーボーでした。いやもうほんと、顔の半分が髭。しかも髪の毛が赤いから、髭も赤い。あと、セルトさんと同じような耳が生えていた。うーん? 目元しか見えないけど、この人も髭を剃ればイケメンな部類なんじゃないだろうか? イケメンっていうか、イケオジ??

「そんな子を攫ってきたのか……――ヤーミル!!」
[帰ル、帰ル]
「そんな風に甘えても駄目だ! この子をセルトの元に返してきなさい!」

 うーん。通じてないけど通じてる。そんなやり取りを眺めていたら、誰かさんが溜息を吐いて俺に向き直ってくれた。

「すまない。多分だが、俺を連れ戻そうとして暴走したんだと思う。君がレオルカと同じ色をしているせいもあるかもしれない……どうやって俺の場所がわかったんだか。…………いや、もしかしてこれか?」

 そう言いながら誰かさんが首元から取り出したのは、赤くて薄っぺらい宝飾品だった。

[ボクノヤツ!!]
「多分、これだな。はぁ……これはヤーミルの鱗なんだ。お守り代わりに持ってきたが、まさかこんなことになるとは…………すまなかった」
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